第10話 中間試験と、変わった後輩
# 第10話 中間試験と、変わった後輩
五月。
春の空気が少し落ち着き始めるころ。
星嶺高校では、ある言葉が生徒たちの頭を支配し始める。
**中間試験。**
進学校である星嶺高校にとって、それはただの試験ではない。
順位は掲示板に張り出される。
それはつまり、学力が学校中に公開されるということだった。
特進コースの生徒たちにとっては、ほとんど戦争のようなものだ。
教室の空気も普段とは違っていた。
机の上には
・参考書
・問題集
・単語帳
が広がっている。
ページをめくる音。
シャーペンの走る音。
いつも騒がしい教室が、今日はどこか張りつめていた。
その中で。
「やばい……」
葉山颯が机に突っ伏した。
「未来が見える……」
氷凪青はノートを見たまま答える。
「何のだ」
「赤点の未来だよ……」
「努力しろ」
「冷たい!」
葉山は顔を上げた。
「親友が絶望してるのに慰めの一つもないのかよ!」
「現実を言っただけだ」
「合理主義すぎるだろ……」
葉山は周囲を見渡した。
「見ろよ!みんな勉強してるぞ!」
青は淡々と言う。
「中間試験前だからな」
「分かってるよ!」
葉山は机を叩く。
「でも人には向き不向きがあるだろ!?」
「あるな」
「俺は不向きなんだよ!!」
青は少しだけ考えた。
「それはただの怠慢だ」
「言い方!!」
その時、隣から声がかかった。
「青」
黒金結愛だった。
椅子をくるりと回して、青の方へ体を向けている。
金のメッシュが光を反射していた。
「テスト勉強、一緒にしない?」
青は短く答える。
「いや。ひとりでやる」
葉山がすぐに反応する。
「なに?ひとりHのこと?」
青は顔を上げた。
「……黙れ」
「ひどい!」
葉山は胸を押さえて嘆く。
「青ったら冷たい……!」
結愛が笑う。
「つれないなー」
「たまには皆で勉強しようぜ」
青
「効率が悪い」
結愛
「出た合理主義」
結愛は腕を組む。
「でもさー青」
「人に教えると理解深まるって言うじゃん?」
青
「それは一理ある」
結愛
「だろ?」
そして前の席を見る。
「雪城さんもどう?」
前の席。
本を読んでいた雪城凛花が顔を上げた。
銀髪がさらりと揺れる。
「私は……」
一瞬だけ青を見る。
「氷凪くんがするなら、する」
葉山が手を挙げる。
「俺も!!」
結愛
「葉山は黙って」
「ひどい!」
結愛は青を見る。
「どうする?青」
「学年一位が教えてくれるってよ?」
青は少し考える。
雪城凛花。
学年一位。
勉強効率という意味では悪くない。
結愛がさらに言う。
「今度こそ学年一位になれるかもよ?」
青は短く答えた。
「……わかった」
結愛が机を叩く。
「よし!」
「じゃあ放課後、教室で勉強会!」
青は首を振る。
「いや」
「雪城さん」
「生徒会室は使えるか」
凛花は少し考えた。
「今日は会議がないから……問題ないと思うわ」
結愛
「よし、生徒会室だ!」
葉山
「俺も行く!」
青
「自力でやれ」
葉山
「鬼!!」
――――――――――
放課後。
夕方の光が廊下を赤く染めていた。
青、結愛、凛花の三人は生徒会室へ向かって歩いていた。
その途中。
「青くーん!」
突然声がかかった。
三人が振り向く。
そこにいたのは、ギャルっぽい女子だった。
髪は少し明るく。
制服も少し着崩している。
女子は青へ近づく。
「探した!」
「勉強教えてほしいんだけど」
結愛と凛花が同時に固まる。
青は普通に答えた。
「ああ、いいぞ」
結愛
(軽っ!?)
青
「これから生徒会室で勉強会だ」
「来るか?」
女子は笑顔になる。
「行く!」
軽く手を上げた。
「ちーっす」
その瞬間。
結愛と凛花が同時に目を見開く。
「え」
「……紬ちゃん?」
――――――――――
椎名紬だった。
以前の紬とはかなり雰囲気が違っていた。
髪は少し明るくなり。
制服も少し着崩している。
以前の
**おっとり清楚系**
とはかなり違う。
結愛が思わず言う。
「いやいやいやいや」
「紬ちゃん!?」
凛花も驚いている。
「紬ちゃん……?」
青は首を傾げた。
「そんなに変か?」
二人は同時に叫ぶ。
「変だよ!!」
凛花は青を見る。
「氷凪くん」
「毎日送っていたのに気づかなかったの?」
青は少し考える。
「……そう言われれば」
紬が照れながら言う。
「だって」
「青くんが」
「黒金先輩みたいな人が好みって言ってたから」
結愛が固まる。
「え」
頬が少し赤くなる。
「青……そうなの?」
青は即答した。
「あれは適当に言っただけだ」
結愛の笑顔が止まる。
「は?」
「あとでちょっとつらかせ」
――――――――――
凛花がため息をつく。
「だから最近なのね」
青
「?」
結愛
「青のせい」
「最近校内でギャル増えてんの」
青
「なぜ俺のせいだ」
凛花
「紬ちゃんが変わった」
「それを見た女子が真似」
「結果」
「ギャル増殖」
青は少し目を見開いた。
「……まずいのか」
凛花は真顔だった。
「まずいわ」
「校内の風紀が乱れたら」
「生徒会の責任になるの」
青は少し考える。
「なるほど」
凛花は青を指差す。
「だから」
「氷凪くんの好みは清楚系にしておきなさい」
紬がすぐ言う。
「反対です」
結愛も腕を組む。
「外見は関係ない」
紬
「大事なのは中身です」
結愛
「そうそう」
凛花
「……」
少し沈黙が流れる。
青は歩き出した。
「生徒会室行くぞ」
三人同時。
「逃げた!!」
――――――――――
生徒会室。
机に参考書が並ぶ。
勉強会が始まった。
凛花の教え方は完璧だった。
「この問題は公式を覚えるより構造理解が早いわ」
紬
「すごい……」
結愛
「さすが学年一位」
青
「合理的だ」
紬は青の隣に座っていた。
「青くん、この問題分からない」
青はノートを見る。
「ここは公式を変形する」
紬
「なるほど!」
結愛
「距離近くない?」
紬
「え?」
結愛
「いや別に」
その時。
ドアが勢いよく開いた。
「助けてくれ!!」
葉山だった。
「勉強会やってるって聞いた!」
「赤点回避したい!」
青
「無理だな」
葉山
「冷たい!!」
結愛
「まぁ座りなよ」
葉山
「女神!!」
凛花
「騒いだら追い出します」
葉山
「はい!!」
こうして。
生徒会室での
**中間試験前勉強会**が始まったのだった。




