23:エルフ、勝利を祝う(3)
「……私は、あの部長が憎かった……だから、土江さんが部長を失脚させたことに感謝しているのです」
「いやいや、礼なら隣にいる田城に言ってくれ。ボイスレコーダーとかの証拠集めをやってくれたのは彼のアイディアなんだよ」
「まぁ、本当にあいつが土江に手を出すとは思わなかったけどな……マジでやる辺り、相当やばいぜ」
「それでも、土江さんと田城さんのお陰で、私は救われたのですから……感謝しております」
どうやら、小田さんもセクハラ行為を受けていたらしい。
大人しくて目立ちにくい。
それだけで、二糖の奴は小田さんを呼び出してはセクハラを行い、彼女も苦しめられていた。
「呼び出されては……身体を触られて……本当に気持ち悪かった……」
「……」
「息が荒くて……私の身体を必要以上に触ってきて……ああ、本当に思い出しただけでも鳥肌が立つ」
悔しさ。
そして恨み。
普段は感情をあまり表に出さない小田さんに、怒りの表情が現れる。
「私はあまり声に出せないんですよ。そういった悩みも感情も……だから、ずっと辛かった」
「……」
「同じ経理の人は助けてくれなかったし、むしろセクハラ行為を助長するように、女性社員は私を狙うように仕向けたりもしていました」
「……!」
小田さんは、経理の女性陣が狙われないように仕向けられたと語った。
確かに経理担当の女性陣はお喋りをする人が多かった。
だけど、小田さんを生贄にしようとしているというのは本当なのだろうか?
「小田さん、それは本当の話なのかい?」
「ええ……聞きます?その話を……」
「……怖いけど、聞いておいたほうがいいかな……」
「ああ、経理でそうだったとしたら、また別の問題も出てくるからな。一応説明してほしい」
「分かりました……経理に配属されたのは去年の4月……その時からですよ、セクハラ行為を受けたのは」
最初、小田さんの受けたセクハラ行為は、軽いものだったらしい。
いや……セクハラ行為に軽いも重いも関係ないな。
立派なハラスメントだから、行為そのものを批判しなければならない。
「最初は何とかはぐらかしたりしましたけど、皆、アレに逆らえないのを良い事に、私に全て押しつけてきたんですから……」
「……それは、部長の行為をかい?」
「ええ……その通り。部長のゴキゲンさえ取っていれば、経理の問題は多少目をつぶってもらえるって事ですよ……」
「じゃあ、その為に小田さんは……」
「ええ、好きなように身体を触られましたわ……今でも夢に出てきますよ」
相当恨んでいたのだろう。
小田さんは手に持っていたグラスに入っていたハイボールを一気に飲み干した。
その飲みっぷりは凄まじい。
「……ぷはっ……美味しい」
俺と田城は豪快に飲んでいる小田さんに大丈夫か尋ねる。
「結構飲みっぷりはいいけど、大丈夫?」
「いいんですよ。好き放題やられていたから、アレが無様に白目を向いて卒倒する姿が滑稽だっただけです」
「そ、そうか……小田さんも、辛かったんだね」
「まぁ……辛みというよりは、私を道具のようにしか思っていなかったことが憎たらしかったですけどね」
小田さんはそう語ると、ハイボールを追加した。
二杯目のハイボール。
小田さんは美味しそうに飲んでいる。
ゴクゴクと勢い良く飲んでいる。
ハイボールの入っていたグラスを空にしてから、にこやかに語った。
「……っというわけで、土江さんと田城さんには感謝しているというわけです。あいつを追い込んでくれてありがとございます」
二杯目のハイボールを一気に飲み干してしまった小田さん。
小田さんの気持ちを考えるに、相当なストレスだったに違いない。
ハイボールを飲み終えた小田さんの表情は、先程とは打って変わって明るかった。
「もう二糖の奴はいないけど……これから仕事は続けることは出来そうか?」
「ええ、勿論ですよ。経理の人達にはちょっとばかり恨みはありますけどね……」
「俺に何か出来る事があれば遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。もし……何かあった際には声をかけますね……あっ、すみません、ハイボール追加で」
小田さんはそう言って、三杯目のハイボールを注文し始めた。
お酒のペースが……早くない?
小田さんは無理をしているのかもしれない。
彼女の飲むペースに注視しつつ、そろそろ料理を頼むべきだろう。
俺は気分転換にと、唐揚げとフライドポテトを頼むことにしたのであった。




