22:エルフ、勝利を祝う(2)
勝利の凱旋。
それは居酒屋で始まることになる。
仕事を終えた俺たちは、この疲れを癒す様に駅前の居酒屋に足を運ぶことになった。
仕事を定時ジャストで終わらせた俺は、田城と小田さんと一緒にタイムカード打刻を行ってからどこの居酒屋で飲みに行くか歩きながら話し合う。
「さて……飲みに行くって決めたけど、田城はどこがいいんだ?」
「俺はカタミでいいと思うけどね」
「オーソドックスな所だな。まぁ、駅前の店舗は味は普通だしいいけど……小田さんはどこか行きたい飲み屋とかってある?」
「いえ……居酒屋は殆ど行った事が無くて……お任せします」
意外……というよりも、居酒屋にあまり行った事がないという。
小田さん、よく飲み会に参加しようと話を切り出したね。
ある意味でチャレンジ精神にあふれているみたいだ。
「……どうする?カタミでいいか?」
「ああ、財布にも優しいから一人三千円もあれば足りるな」
「金一封貰ったけど、一気に使うのは少し気が引けるからね」
「実は今月は厳しくてもう飲みに行けないと思っていたからなぁ~ありがたい」
「おいおい、結局田城が飲みに行きたかったのかい!」
田城にツッコミを入れた上で、飲みに行くのは居酒屋カタミで行うことにした。
都内だけで数十店舗。
全国に数百店舗を構える名の知れた居酒屋チェーン店。
特段珍しくはないし、味も普通だ。
だが、その普通の味が約束されているだけでも、俺としてはありがたい。
オーソドックスで、ほぼ均一化されているチェーン店居酒屋の利点。
それは、調理方法なども研修されているので、ほぼほぼ外れがない点だ。
余程「ド」がつくレベルで調理が下手くそな新人がやらかさない限り、基本的に安全だ。
……近年のバイトテロや飲食店で醤油差しなどをペロペロする大馬鹿者が出たせいで、唐辛子や醤油の容器を一々店員さんに願い出る必要性になったのが悲しい。
居酒屋に入店して席を通される。
座ったのは店の奥にあるテーブル席だ。
俺と田城が隣で、テーブルの対面側に小田さんが座った。
店員さんが持ってきたおしぼりで手を拭いて一息入れる。
「ふぅー……先ずは仕事お疲れ様、大変だったな……」
「ああ……特に今日は一段と疲れが出てきたな……」
「お疲れ様でした……」
「小田さんも大変だったでしょうに……」
「いえ、今日は土江さんにお礼を言いたくて飲みに参加したのです」
「俺……いえ、私に?」
「ええ、とてもシラフでは話せませんので、お酒を飲んでから話しましょうか……」
お酒を飲まないと話せない話となれば、緊張してくる。
隣にいる田城は周囲を気にしながら言った。
「それって……俺は聞いたらマズい話かな?」
「いえ、田城さんにも関係ある話ですので、御二人で聞いて貰えると幸いです。早速ですけど、何を飲みますか?」
「そうか……それじゃあ俺は遠慮なく生ビールを貰おうかな」
「私はハイボールを……土江さんは何を飲みますか?」
「ん?そうだな……冷酒を貰おうかな。銘柄は春雪景で」
「そんな日本酒あったっけ?」
「メニューに書いているだろ?辛口純米で有名な長野県のお酒だよ」
「どれどれ……おー、一杯900円か、ちょい高いな」
「高いけど味はそこら辺の日本酒よりダンチで旨いぞ。200円ケチって普通の酒飲むよりはよっぽどいいよ」
「土江って割とお酒に関しては味にうるさいよね」
「いいじゃねーか、この酒が旨いんだから……店員さーん!お酒を頼みたいので来てもらっていいですか!」
「はーい、今伺います!」
店員さんを呼んでから田城は生ビール、小田さんがハイボール、俺が日本酒を注文する。
全員が特性の違うお酒を頼むのは、中々面白い。
生ビールやハイボールは肉料理に合うし、夏場では定番のお酒だ。
日本酒は一見すれば和食のイメージが強いけど、基本的に肉料理でも味わい深い風味になる。
特に、辛口系の日本酒であれば、肉料理を食べた後に飲んでみると、肉の油っぽさを吹き飛ばしてくる効果がある。
この春雪景は、後味も旨いから尚更好きだ。
お通しとして出された、野沢菜漬けを箸でつまんで食べてみる。
野沢菜漬けの中でも、ワサビを入れているためか、物凄く辛い。
食べた瞬間に、ワサビの辛さが伝わってくる。
美味しいが、噛めば噛むほど辛さが染み渡ってくる。
その辛さが旨味となっているので、パクパク小皿に乗っていた野沢菜を平らげてしまう。
「おー……ツーンとくるねぇ。美味しかったわ」
「うひーっ!土江もう食べ終えたのかよ!ひえええええッ!辛ッ!!!」
「ワサビが入っているのは、結構うまいんだぞ。田城、結構辛いだろ?」
「あったりめーよ!後味がツーンときて鼻がヤベェ!」
「小田さんも大丈夫そう?」
「これは……確かにスゴイですね。美味しいですけど、辛さが……ツーンとします」
辛みが強かったのか、俺を除いて早速二人は悪戦苦闘している。
あれ、そんなに辛いか?
辛みは一瞬で終わったぞ?
不思議に思いながらも、店員さんがお酒を持ってきてくれたので三人で乾杯をした後、小田さんが俺たちに話したかったことをゆっくりと話し始めた。




