20:エルフ VS セクハラ上司(6)
「二糖太部長は現時点をもって懲戒解雇処分とする。また、取締役二人の解任も執り行う」
二糖部長が社長から直々に解雇された上に、彼の両親もまたその地位を失った。
社員一同の前で解雇と解任を通告する。
あまりにも精神的に効いてしまったのか、二糖部長は白目を向いて卒倒してしまった。
「太!!!」
「太ちゃん!!!大丈夫!!!大丈夫なのぉぉぉぉ?!」
「わーお、あのセクハラ野郎、アへ顔ダブルピースして倒れたぜ」
「ブウッ!」
元取締役の両親が慌てふためく中で、田城がアへ顔ダブルピースと揶揄したせいで思わず噴いてしまった。
両手を挙げて、舌を出した上で白目を出している現状では、確かにアへ顔でダブルピースをしているようにも見える。
俺が噴き出したせいで、元取締役の二人が俺の方を睨みつけるように見ている。
「ちょっと!どうしてそんな平然と酷いことが言えるのよ!」
「だって、現にセクシャルハラスメントを受けたんですから、ここにいる女性社員も大半が彼にセクシャルハラスメントを受けていたんですよ?」
「そんなの嘘よ!裁判でも警察でも使って太ちゃんの無罪を証明してみせるわ!」
母親がヒステリックに叫んでいる。
これだけの事をやらかしていても、まだ息子の潔白を信じているのが救えない。
現に、もう「元」取締役となっているんだからね。
一族経営とはいえ、社長から直々にお前は重役にふさわしくないと烙印を押されたのだ。
そうした事実があるにも関わらず、元取締役の両親は現実逃避のごとく、俺に非難轟々だ。
「よくもこんな事をして……タダで済むと思っているの!!!」
「そうだ!私の息子にこんな仕打ちはあんまりだ!」
「まぁ、あれだけの事をしていれば解雇処分ですよね。お二人もよくそんな状況でも息子さんを擁護できますね」
「五月蠅いわね!貴方に太ちゃんの何が分かると言うの!!!」
「いやいや、これだけの事態になっているのがまだ分からないのですかね?」
社員一同がスマートフォンでこの状況を撮影しているが、皆がざわめきながら話を聞いている。
もはや、この三人には会社で働く資格があるのかどうか問われたら、それはNOだろう。
駄々をこねるように叫ぶ元取締役に対して、遂に社長がブチ切れた。
「……もういい!そこまで太の行った犯罪行為を擁護するのであれば、会社としても相応しくない!お前たちは今日付けで即刻懲戒解雇処分とするッ!」
「そんな!」
「社長!それはあまりにも……」
「……これだけの事をしておいて、まだ言い訳をするつもりか?!親族として大目に見てきたが、それも今日限りだ!!!!」
社長の怒鳴り声と共に、家族揃っての失業が確定した。
やったぜ。
ざまぁ系の小説やインターネットで流れているような、スカッとするような話に出てくるような場面に、社員一同もこれには思わず息をのんだ。
泣きながら二糖を抱えてフロアから出ていこうとする元取締役の二人には悪いが追撃させてもらう。
「おっと、会社から出ていくのはまだですよ?」
「……まだ何か言いたいのか?」
「二糖元部長が、これまでセクハラ行為や性的関係を強要されて止む無く離職した女性社員も少なからずいるはずです」
「土江君……そんなに多いのか?」
「社長、残念ながら二糖元部長のセクハラ行為は日常的でしたよ……辞めた社員は私が把握しているだけでも8人はおります」
「ああ……すまない、私がもっと言っておけばこんな事には……」
「社長が悔やんでも、セクハラ行為を苦に会社から去ってしまった女性社員は帰ってきませんよ?」
「……うむ、土江君の言うとおりだな……私は……私がもっとしっかりしていれば……すまない、皆……」
悔やむように苦虫を噛み潰したような顔をしている社長。
フロアにいる社員一同に向かって頭を下げている。
それでいて、これは大きなチャンスでもあった。
既にこのフロアにおいて会話の中心になっているのは俺だ。
つまり、ここは俺の独壇場というわけだ。
社長も親族がここまでのやらかしをしているとは想定外だったろう。
言い方は悪いかもしれないが、社長の人心掌握を行うために言葉を畳みかける。
「ですが、こうして二糖部長の不祥事に対して、毅然とした態度で対応をしようとしている。このフロアにいる社員一同も見ております。貴方の行いを恥じることはありません、そうだよな?みんな!」
エルフの髪が靡くように振り返っていくと、男性社員が大きな声で同調した。
「そうだそうだ!」
「社長、よくぞやってくれました!」
「セクハラ野郎を追い出してくれてありがとうございます!」
「私、社長についていきます!」
「「「社長!!社長!!」」」
気が付けば、社長コールが湧きおこる。
それだけ、社長の行動はよくやったと褒められるものだろう。
社長コールに涙腺を刺激されたのか、涙ぐむ社長の耳元で囁く。
「……社長、あとひと押しで社員全員が貴方に信頼と尊敬を持ってついていくでしょう」
「土江君、私は何をすればいいのかね?」
「警察を呼んで二糖元部長を強制わいせつ未遂事件の首謀者として、彼を引き渡してください」
「!」
「一族から逮捕者が出るのは忍びない事だとは重々承知しております。ですが、ここで悪い芽を摘まないと、結局は一族に甘かったと評されてしまいかねませんよ?」
もう、社長は俺に判断を仰いでいた。
当事者であり、被害者である俺……。
故に、社長はどうやって許しを請うか気になっていたのかもしれない。
また逮捕というフレーズに顔がこわばったものの、これだけ大勢の社員の前で懲戒解雇処分だけで済ませるのはマズいと感じたのだろう。
社員一同がいる前で社長は涙ぐむ声で「……警察を呼びたまえ」と言った。
二糖元部長だけではなく、取締役の両親も揃って警察が呼ばれた事で卒倒してしまった。
10分後に、警察がオフィスに到着した後、警察官に事情を説明する。
二糖元部長を強制わいせつ罪、強要罪、脅迫罪で逮捕し、パトカーに連行していった。
両親は卒倒し失神してしまったので救急車で病院に搬送される運びとなった。
こうして、セクハラ上司との戦いは俺の完全勝利によって幕を閉じたのであった。
セクハラ部長(社会的に)リタイア




