19:エルフ VS セクハラ上司(5)
社長と取締役×2人……合計3人が揃ったところで、このセクハラ上司にピリオドを打とうと思う。
社長は一族経営とはいえ、それなりに実績のある会社経営をしてきた人だ。
一族経営者の中でも比較的まともな人物だ。
一方で、取締役の部長の両親は……業務実績はまずまずだが、息子の育成に失敗したダメ両親という印象が強い。
部長に手渡しする特別ボーナスも、彼だけ他の社員に比べたら明らかに桁が一つ違う上に、高級スポーツカーや、高級腕時計などをプレゼントしている。
節税対策も兼ねてやっているみたいだが、それでも他の社員からしてみれば一族で依怙贔屓しているのとなんら変わりがない。
社長も取締役も、セクハラ上司が椅子に押さえつけられている状況を目の当たりにして、一体どういうことかと尋ねてきた。
「これは一体どういうことだね?!なぜ太が椅子に押さえつけられているんだ」
「……!ちょっと!ずぶ濡れじゃない!あなた達!仮にも自分たちの上司ならば、タオルで乾かしてあげたりしなさいよ!」
「そこの君!すぐにタオルを用意しなさい!……何をボケっとしているんだ!君たちの上司なんだぞ!」
社長はなぜセクハラ上司が椅子に押さえつけられているのか問いただしたのに対して、取締役……二糖部長の上司であり、ご両親の二人は息子がこのような状況になってでも、上司である息子の事に気を遣えと叱責をしてくる。
やはり、社長と取締役の二人では些か社員に対して態度が違うようだ。
まぁ、一族経営で成り上がってきた会社だ。
俺が取締役の前にスッと前に出た上で、事情を説明した。
「君は……?」
「施設担当の土江と申します。二糖部長は、ご覧の通り男性社員に取り押さえてもらっています」
「見れば分かるではないか。なぜそのような事になっているのだね?」
「二糖部長は私にセクハラ行為だけではなく、乱暴しようとしたのです」
社長の問いかけに俺は答える。
すると、取締役の二人がギョッとした顔になり、真っ向から反論した。
「嘘よ!太ちゃんがそんなことをするわけないじゃない!」
「そうだ!太は立派な大人だ。第一、フロアで取り仕切っていて今まで問題は無かったじゃないか!」
「ええ、ですが二糖部長の行動は正直に申し上げるとあまり褒められたものではありませんよ。第一、性的関係を強要し、それを断れば解雇すると脅してきたのですから……」
俺の回答が気に食わなかったのか、母親がヒステリックな声で叫んだ。
「そんなひどい事をする子じゃありません!第一、証拠はあるのですか!」
「ありますよココに、社長も取締役も是非ともお聞きください」
社長も取締役も、ボイスレコーダーを再生してみると、顔が変化していって面白い。
社長はボイスレコーダーで性的関係を強要し、断れば解雇処分にすると二糖部長が言い出した台詞を聞いて、顔を真っ赤にして身体を震わせている。
その一方で、取締役の二人は息子がとんでもない事をしでかしたことをようやく理解したようで、顔がみるみるうちに青くなっていった。
漫画だったらおでこの辺りが青くなっている描写がされているに違いない。
「こんな……こんな酷いことを太はしていたのか……」
「ええ、二糖部長は否定していますが事実です。それに、スプリンクラーが作動した際には、彼は既にズボンのチャックを開けて、ベルトを緩めていましたから……」
「あれはパニックになっていただけだ!」
「……私に乱暴しようとしていたのは誰の目から見ても明らかです。ここにいる社員一同は、ベルトを緩めてズボンを降ろしている二糖部長の姿を目撃しております」
「違う!それは違うんだ!」
「どう違うんですか……?田城、例の映像を社長と取締役にお見せしてくれ」
「はっ、こちらがスプリンクラーが作動した直後に会議室に入った際の映像です」
「それは違う!違うんだ!」
二糖部長は否定するが、ボイスレコーダー以外に映像が残っている以上は、言い逃れのしようがない。
なんせ俺は田城と結託して、何かあったらスマートフォンのカメラを起動し、撮影してほしいと頼んでいたのだ。
スプリンクラーが作動した直後に、田城がスマートフォンを撮影しながら入ってきた映像を見せる。
何かあったら証拠として提示したいと直前に談話しながら話していたが、こうして役立つとは思わなかった。
ナイスだ、田城。
後で高い酒奢ってやるからな。
田城がスーツの胸ポケットで撮影した為、多少映像はぶれてしまっていたが、証拠はバッチリと録画されていた。
二糖部長の奇行ともいえる行動、俺が二糖部長に乱暴されそうになったと証言する映像。
ボイスレコーダーに、スマートフォンから直で撮影された映像も合わせると、もはや隠し切れない。
「違う……だから違う……」
「何が違うと言うんだ!!!これだけ証拠が揃っているのに、まだお前は否定するのか!!!」
ついに二糖部長の叔父である社長がブチ切れた。
両親は項垂れ、母親に至っては泣き崩れてしまう。
今ここに、このフロアで権力を持っていた人間が、その地位を全て失う瞬間を社員一同で目撃したのであった。




