17:エルフ VS セクハラ上司(3)
明日から21時投稿になります。
流石に一日2連続投稿は辛いもんなサム……。
「乱暴されそうになった」
その言葉だけで、周囲はより大きなどよめきが起こった。
「乱暴だって……?!」
「でも、土江は男だったんじゃ……」
「ほら、今の土江って女性でエルフの姿をしているだろ?それで二糖の奴が狙ったんじゃないか?」
「……あー、確かに。今の土江はグラマーな身体つきだもんな……」
乱暴されそうになったのは事実だ。
それに、今の俺の身体は女性……この身体を診てあげると称して乱暴しようと、右手で身体を掴んだのもまた事実だ。
「身体を動かす間に耐えてればいい……そうすれば会社に残ることが出来るって言われて……身体を触られたんだ……」
「「「!!!!」」」
全員が驚いた表情になって俺を見た。
これも事実だ。
現に、身体に手を寄せられるように迫られた上に、鼻息で前髪がまくられる程に荒かった。
セクハラ行為が女性を傷つける行為である事は知っていたが、いざ自分自身がこうして被害を受けると、如何に苦痛か嫌でも実感させられる。
「断れば、会社を解雇すると……脅されて……もうだめかと思った時に、スプリンクラーが作動したんだよ……それで……こうなった」
指差す先には、下半身を露出した状態でスプリンクラーに向かって怒鳴り散らしているセクハラ上司を通り越してわいせつ上司にランクアップした二糖の姿だ。
女性社員は悲鳴を上げており、男性社員は「うわぁ……」と見たくもないモノを見てしまって絶句している。
誰だってこんな状況になれば絶句するよね。
そして、社員一同の目が二糖に向けられる。
スプリンクラーの水を思いっきり浴びた二糖は、ようやく自分の姿がいかがわしいものになっているのに気がつく。
慌ててパンツとズボンの位置を直した。
「何だね君たちは!私の下着姿を見て失笑するために来たのかね!!!」
顔を真っ赤にして怒っているが、俺の訴えを聞いている皆は、二糖に対して冷ややかな目で見ていた。
これを例えるなら、哀れというよりも汚物を見ているような目線であった。
ここにいる全員、二糖の事をあまりにもひどい人物であると認識している。
日頃の行いが悪いせいでもある。
こういう時、セクハラ行為を日常的に行う人物と、日陰者ではあるが問題行動を起こしていない人物……どちらを信じられるかという話だ。
「スプリンクラーが誤作動してこの様だ!土江君!!!防火担当の君の責任でもあるんだぞ!!!」
「えっ?」
「このスプリンクラーを業者に任せていただろう!土江君の責任だ!これはオフィス管理が出来ていない結果こうなったのだ!!!」
何言ってんだこいつ。
スプリンクラ-誤作動の責任を俺に押しつけてきた。
俺は直接スプリンクラーに触れたわけではないし、偶発的な事故でスプリンクラーが作動したんだ。
いよいよスプリンクラーの水を大量に被ったせいで頭がおかしくなったのか?
いや、元々日常的にセクハラ行為をしていた奴だ。
元からおかしかったのが、今になって更におかしくなってしまったのだろう。
俺を言いくるめて、わいせつな事をしようとしていたのは誰の目から見ても明らかだ。
あまりにも幼稚で、杜撰ともいえる言い訳に思わず噴き出してしまった。
「ブフフフフッ……アハハハハハハッ!!!」
「な、何がおかしいんだ!人の不幸を笑って楽しいのかね君は!!!」
「いやぁ~……そんなことは言っておりませんよ。むしろ、二糖部長がここまで酷いことをしたバチが当たったので、それが可笑しくて……ハハハハハ!!!」
「きぃ~っ!!!君という奴は!!!もういい!!!部長権限で君を『懲戒解雇処分』とするッ!!!」
おいおい。
いよいよ逆ギレして懲戒解雇処分を言い渡してきたぞ。
何から何まで、セクハラに対して命を捧げてきた男の台詞だ。
重みが違う。
だが、部長権限で懲戒解雇処分を執り行えるには『社会的影響の大きい事件を引き起こした時』や『会社に意図して損害を与えた時』に限られている。
セクハラ行為に留まらず、わいせつな行為を強要しようとしたのは誰だったか?
世間一般では性的暴行を行おうとしたのは何を隠そう、目の前にいる二糖部長にほかならない。
社会的にも会社にも損害を与えているのは、紛れもない彼自身だ。
それに、俺は二糖部長を陥れる策をもう一つ用意してあった。
元々、イタズラを仕込むために田城が用意してくれた道具だ。
二糖部長に呼び出される直前に、イタズラ目的で渡された道具がここ一番に効力を発揮することになるとは……。
「おや?懲戒処分を行う権限が二糖部長にあるのですか?」
「何だと?!」
「まだ分かっていないみたいですね……これですよ」
俺は、胸元から細長いUSBメモリー状のモノを取り出した。
「なんだそれは?」
「これですか?一見すればUSBメモリーに見える魔法の道具ですよ……」
「魔法だと……何を寝ぼけたことを……」
「これを聞いてもまだ分かりませんか?」
俺はUSBメモリーの端子を変換アダプターに差し込んでから、スマートフォンのイヤホンジャックに突き刺す。
そして、スマートフォンの音量を最大限にして『再生』ボタンを押す。
『……私の裁量で君の行動が会社にとって相応しくないと判定することも出来るんだよ?』
『……土江君、嫌じゃないのかね?職を失って後悔するのは自分自身だよ』
『……断れば君は解雇されるのだ……私の言う通りにしていればいいのだよ』
スマートフォンから、二糖部長の汚らしい声が大音量で聞こえてくる。
自分自身の声を聞いている二糖部長は、さっきまで真っ赤に激怒していた顔だったのが、みるみるうちに青ざめていくのが分かる。
俺はそんな二糖部長に対して微笑みながら答えた。
「これは貴方が私に対してセクハラ行為に及んでいた……その時の状況を記録したボイスレコーダーですよ」




