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12:エルフ、会社に出勤する(3)

 電車に揺られて20分、そして電車から降りて徒歩10分……ようやく自分の働いている会社にたどり着いた。


 普段から通っている何の変哲もない会社だけど、いざエルフの姿で入るとなるとまるで入社ばかりにソワソワしていたころを思い出す。


 ビルに入り、会社のテナントが入っている階にたどり着いた。


「いよいよか……」


 少しだけ立ち止まった際に、すぅ~っと息を吸い込む。


「よし……開けるか……」


 意を決して中に入る。


 ポケットから会社のドアを開くことが出来るICチップ入りの社員証カードをセンサーにかざす。


 ―ウィーン。


 センサーに反応してドアが開いた。


「おはようございます」


 何気なくオフィスに入ると同時に、丁度入り口でタイムカードをセットしようとしていた同僚に挨拶を交わした。


 同僚も普段通りに挨拶を返す。


「おはようございま……って、ど、どちら様ですか?」

「おいおい、私の事を忘れてしまうとはな……今日もあのセクハラ上司のインスタントコーヒーをちょろまかしてまたポットのお湯注いで飲んでいるだろ?朝のブレイクタイムを楽しんでいるんじゃないのか?」

「ど、どうしてそれを……?」

「ふふふっ、まぁ話せば長くなる。タイムカードを打刻してから話してもいいかな?」

「あ、ああ……いいぜ……」


 同僚は普段は何かとお調子者で、色んな人にイタズラをしたり、嫌がらせ行為をしてくる上司に率先して【ワザと】怒らせるような事をして、上司からのヘイトを一身に受けている。


 その分、セクハラ上司からのヘイトを一身に受けていることから、女性社員からの情や信頼も厚く、ある程度のイタズラに関しては黙認されており、何かと頼りになる存在だ。


 同僚の名前は田城翔太という。


 俺はいつも苗字で呼んでいるため、彼については田城と記名しておく。


 そんな田城が、今までに見せたことがないほどに、挙動不審になりながら俺がタイムカードを打刻するまでジッと俺の事を見ている。


「午前7時56分か……朝礼まであと15分ぐらいあるから、それまではのんびりしていられるな」

「えっ……でも、その打刻カードって……お前なのか?」

「お前も何も、この打刻カードに打ち込まれているはずの人物が目の前にいるじゃないか……まぁ、俺も未だに信じられないんだけどな……」

「あ、ああ……ホンモノ……なんだよな?」

「……悲しいがその通りだ。ほら、ちゃんとICチップ入りの社員証カード、それに社員番号と名前だって合っているだろ?」


 俺がエルフになってしまう前の顔写真が入った社員証カードを田城の前に提示する。


【株式会社グリーン・オブ・デッド 社員番号01919 土江 晋太郎(どえ   しんたろう)


 土江 晋太郎……それが俺の本名だ。


【どえしんたろう】を略してドエロと小学・中学・高校・大学時代にずっと言われていたが、社会人になってからでも健在であり、目の前にいる田城に至っては普通にドエロと言ってくる。


 もう慣れてしまったので、今更そうした呼び名をされることは特に苦痛とは思っていない。


「ど、ドエロ……お前なのか?」

「ああ、まさに……しかもエルフで胸がデカくてあだ名みたく、()()()なボディーになっちまったがな……ハハハ……」

「あ、ああ……なんというか……その話し方からしてドエロ……お前なんだなって……というか、他の人には言ったのか?」

「憎きセクハラ上司には言ってある。電話で真剣に話してもスゲェ笑われたから後でイタズラしてやりたいから協力してくれ田城」

「それはいいんだが、よりにもよってアイツか……」

「しょうがないだろう。アイツは上司だし……社長にわざわざ言っても余計に話がこんがらがってわけわかんないようになるだろうに」

「まぁ、それはそうだが……」

「それに、この身体になっちまった以上は、色々と面倒くさいことになりそうだからな……」


 田城は割と真剣な目つきで俺の話を聞いてくれた。


 朝起きたら女性のエルフになっていた事。


 何とか女性用下着を購入したりしてやり過ごした事。


 流石にスーパーでの強盗団撃退の話に関しては緘口令が敷かれているので、それに関しては黙っていたのだが、やはり田城はこういうガチな時は真剣に聞いているから有り難い。


 一通り話を終えると、田城は「ちょっと自分のデスクで待ってろ」と言ってその場を離れた。


 俺は言われた通り自分のデスクに荷物を下ろし、椅子に座っていると田城はあのセクハラ上司からくすねてきたのか、使い捨ての紙コップにブラックコーヒーを注いでくれたようだ。


 思わず笑ってしまう。


「おいおい、これあのセクハラ上司からくすねてきたやつか……」

「ああ、インスタントとはいえ……あのセクハラ野郎は見栄っ張りだからな。インスタントコーヒーの中でも高いやつしか買わんのだ。ま、一杯やってのんびりやろうや」

「そうだな……そうするとしようか……」


 田城から渡されたインスタントコーヒーは、ブラックコーヒーだったが苦みよりも渋みに重点を置いているようだ。


 一口飲むと、味も口全体に広がっていく上に、仄かに香りもいい。


 目がスッキリとするぐらいだ。


「おはよう諸君!今日も元気にムラムラしてくれたまえよ!」

「「うわ、出たよ」」


 思わず田城と同時に呟いてしまった。

 朝礼前の落ち着いた空気がセクハラ上司がやって来たことで一気に崩れ去った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] TS物だけど、困惑より面白さがあるから見やすい [一言] 是非、そのまま執筆してほしい。ブックマークつけて更新のたびに見るから
[一言] とりあえず無事に会社に到着したので一安心。 田城さん、優秀なタンク職のようてすな。後衛はエルフさんが居るから、後は物理アタッカーの前衛と回復職が居れば完璧。
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