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架空の話の中に登場する架空の話を考えるのが苦手です。センスがない……。

 白石さんからのお願いを完膚なきまでに断った後。

 あの流れで断られるとは思っていなかったのかぽかんとした彼女を残して、僕は逃げるように帰宅した。


 諸々のやるべきことを済ませ、今は自室でベッドに突っ伏している。

 頭の中をぐるぐると回っているのは、やっぱりさっきの一件だ。

 

 勇気を出してくれただろう白石さんに申し訳ないという気持ちと、あれでよかったんだという気持ちがせめぎ合っていた。

 白石さんは僕のことをかっこいいと言ってくれていたけど、それは取り繕って背伸びをしている僕のことだ。

 

 素の僕は、根暗だしダサいし、何をするにも要領が悪いようなダメ人間。

 白石さんのお願いを了承しようものなら、ふとした時にぼろを出して幻滅されてしまうのがオチだろう。あんな断り方をした後だし、既にされているかもしれない。

 

 人に幻滅されるのが怖い。人に失望されるのが怖い。人に嫌われるのが怖い。

 そうじゃなければ、身の丈に合わない評価に流されるまま無理して八方美人なんてしているものか。

 嫌われる可能性があるくらいなら、接点を持たない方がいい。

 たとえ誰にも好かれなくても、誰かに嫌われるよりはいい。

 そう考えるからこそ、僕は白石さんのお願いを断った。


 それを後悔しているわけではない。

 例え過去に戻れたとしても、僕は同じ答えを返すと断言できる。

 

 せめて、了承できない理由をちゃんと説明できていたら少しは気持ちが楽になったのかもしれないけれど、ほぼ初対面の相手に自分の胸の内を明かせるほど勇気があるわけでも誠実なわけでもない。

 それなのに罪悪感を抱えていること自体が醜い偽善に思えて、自己嫌悪が止まらなかった。

 

「はぁ……どうすればよかったのかなあ……」

「何が?」

「何がって、そりゃあ……え?」


 帰ってきてからもう何回目かもわからないぼやきに、なぜか返事があった。


「瑠璃……いつのまに」

「いつのまにもなにもちゃんとノックしたよ?いつもみたいに勉強に集中してるのかと思ったら、なんかベッドでうじうじぶつぶつしてるからどうしたのかなって」

「あー……ちょっと今日いろいろあってさ」

「大丈夫?私でよければ話聞くよ?」


 当たり前のようにそう言ってくれる瑠璃は優しい子だと思う。


「いや、大丈夫だよ」

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

「無理してない?」

「してないよ。大丈夫。ありがとね」


 妹曰くうじうじぶつぶつしていたらしい僕だけど、その原因が自分の臆病さにあることはわかっている。

 それをわかっていても自分を変えられないのだから、僕が凹んでいるのは言ってしまえば時間の無駄だ。

 

 どうすればよかったのか、なんてさっきは言ったけど、どうしようもなかったが答えだと頭では理解している。

 理想と現実とか、理屈と感情とか、その辺のバランスがうまく取れなくなってネガティブになっているだけ。

 今回は白石さんとのことが引き金になったけど、わりと定期的にこんな状態になっているので妹に話を聞いてもらうほどじゃない。


「それより、瑠璃はどうしたの?また勉強教えてほしいとか?」


 これ以上心配されるのも情けないので話題を妹の方に移した。


「勉強は今のところ大丈夫なんだけど、それとは別にちょっとお願いがありまして……」

「お願い?」


 お願いというワードに、白石さんとの一件が鮮烈にフラッシュバックしてメンタルが落ちかけたものの、兄の意地でなんとかこらえる。

 

「お兄ちゃん、今週の土曜日――つまりは明日なんだけど……って予定空いてる?」

「うん、空いてるけど……」


 部活もやってない、友達もいない、当然彼女なんているわけもない僕の休日は空いていないことの方が珍しい。

 買い出しに行ったり家族で出かけたりすることはあるけど、基本的には勉強で休日を消費している。


「じゃあお願い!私の代わりに明日公開の『みーてぃあず!』の映画みて入場特典もらってついでにグッズも買ってきて」

「いや早口」


 お願い!以降がやたら早かった。

 瑠璃が言う『みーてぃあず!』とはアニメのタイトルだ。

 6人の女の子が力を合わせてアイドルを目指すという内容で、オタク界隈でとても人気がある。

 

 意外と思われるかもしれないが、我が妹は運動部でコミュ強という陽キャ的ステータスを持っていながら、実はサブカルにも詳しいし熱心だったりする。

 もともとは僕がそういうのが好きで、瑠璃に勧めたところすっかりはまってしまった。

 ここしばらく勉強やらにいっぱいいっぱいで他のことに時間を割けなくなっている僕とは対照的に、瑠璃は部活や勉強をこなしながら、趣味もそつなく楽しんでいるようだ。

 実は瑠璃だけ1日が28時間くらいあるんじゃなかろうか、なんてバカなことを考えてしまうくらい、僕の妹は要領がいい。


 そしてそんな瑠璃だからこそ、こういう頼みをしてくるのは珍しかった。


「お願いの内容はわかったけどなんで僕?別に自分で行けばいい、というか行きたいだろうに」

「そりゃあ私だって出来たらそうしたいけどさー、明日は部活の試合があるから行きたくても行けないんだよ」


 なるほど。試合となると1日拘束されるし疲労もすごいだろうから、明日映画に行けないというのは納得だ。


「明後日は?」

「明後日なら午後から行けるし実際そうするつもりだよ」

「じゃあ僕行かなくていいじゃん」


 至極当然の結論に至った僕を瑠璃は呆れたような顔で見ていた。いや、なんでよ。


「甘い、甘いよお兄ちゃん。今や『みーてぃあず!』の人気は圧倒的なんだよ。ここらに映画館なんてそうないんだし、入場特典やグッズが明日のうちに売り切れないなんて誰が言い切れるさ」


 やれやれといった様子の瑠璃。

 まあ確かに、僕らが住んでいる場所はさほど都会ではないし、『みーてぃあず!』の人気があるというのも事実だから、初日から在庫切れという可能性はなくはない……のだろうか。

 そして熱心なファンである瑠璃がそれを絶対に確保したいという気持ちはよくわかる。


「ねー、お願いお兄ちゃん。お願いお願いお願いお願い!グッズ代はもちろん全額だすし、映画代も半分出すからー」

「そこは全額じゃないんだね」

「だってお兄ちゃんも好きでしょ。完全に興味のないモノを私の都合で見に行かせるなら全額だすけどさあ。むしろ半額でもかなりサービスしてる方だと思ってほしい」

「そりゃそうだけどさ。でも僕2期すら見れてないからなぁ……」


 僕は『みーてぃあず!』を1期しか視聴できていない。

 というのも、2期が放送されたのはちょうど僕が高校デビューに向けて必死だった時なので、リアルタイムでみる余裕がなかったのだ。

 いつか視聴しようとは思ってはいたものの、結局見ることなく今日まできてしまった。

 映画ではきっと2期以降の話をするだろうから、このまま映画をみても100%楽しむことは難しいだろう。


「そんなの、今から履修すればいいだけじゃん」


 さも当然という感じで瑠璃はそういうが、ちょっと待ってほしい。


「いや簡単に言うけどさ、全部見るとかなり時間かかるんだけども」


 確か2期だけでも2クールあったろ。

 

「明日休みなんだしいいじゃーん。ベッドに突っ伏してうじうじしてるよりはよっぽど健全だよ」

「それは……確かにそうかもしれないけどさ」


 今日は思考がネガティブな方に行きがちだろうし、アニメを見て気分転換というのは悪くないかもしれない。


「というかお兄ちゃん、明日行ってくれるの?」


 今更ながらそんなことを聞いてくる瑠璃。

 そういえば、まだちゃんと返事をしていなかったな。


「用事もないし、瑠璃の気持ちもわかるからね。それくらいなら引き受けた」

「やったぁ!お兄ちゃん優しい!好き!」

「はいはい、調子のいいことで」


 嬉しそうに笑う瑠璃を見ながら、白石さんのお願いもこんな風に気負わず引き受けられたらよかったんだけどなあと思った。


 そんなこんなで、明日僕は瑠璃の代わりにお使いに行くことになった。

 ちなみに、久しぶりに見たアニメはめちゃくちゃ面白かった。映画代は僕が全額出そうと思う。

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