prologue
陽満が二年生の冬の物語です。
ホワイトデー、僕はこのなんのためにあるかよくわからない日に対してあまり良い思い出はない。その理由は言うまでもなく、バレンタインチョコを貰えないからである。
家族から貰ったチョコなんて個数には入らない。それは男子達の暗黙の了解だった。ホワイトデーにチョコを用意して相手にお返しをするということは、ただそれだけでバレンタインに幸せな思いをした勝ち組だとアピールすることになり、他の男子達から羨望の眼差しを受ける。
しかし、バレンタインチョコを貰いさえできれば良いと言う問題でもない。もし女子に対して義理でいいからとせがむようなことをすれば、その男子は嘲笑の的だ。義理であろうと本命であろうと、心のこもったチョコでなければバレンタインチョコではない。
だからこそ男子達は1月から2月にかけての数週間、女子への好感度アップを狙いさりげない優しさをこれ見よがしに連発する。そう、みんなチョコが欲しいから。
だが、僕は違う。いや、今年の僕は違うのだ。まあ去年まではそんなアピールをする相手もいなかったわけだが今年はすでに莉音と伊藤さんからどんなチョコがいいかと質問を受けた。つまりもう僕は勝ち組であると確信を得たようなものである。
僕は堂々とした立ち振る舞いで普段通りに過ごしていれば自動的にチョコが手に入るのだ。
しかし…僕は今年どうしても手に入れたいものがあり、それを手に入れるために醜態をさらしていた。
「お願いします玉波先輩!チョコを!僕に何卒先輩のチョコをください!」
「…家内、あんたチョコ欲しさに土下座するなんて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくありません!」
「清々しいわね。でもなんでわざわざ私のチョコなんか欲しいのよ。」
「え?」
「え?」
「いや、僕たちって一応付き合ってますよね?」
「一応もなにも、きっちり付き合ってるわ。」
「ですよね…あれ?」
「……?」
「玉波先輩ちなみにバレンタインって知ってますか?」
「それくらい知ってるわよ!来月でしょ!」
「そう!それです!だから僕にチョコを…」
「でもだからって土下座までする必要ないんじゃない?」
「いやいや!好きな人からチョコを貰うためなら僕はなんだってしますよ!」
「好きな相手にチョコを……ふむ。」
玉波先輩がなにかを考え込むそぶりを見せる。こう言う時は傾向的にあまり僕にとって良いことは考えつかない。
「…そんなことしなくてもチョコぐらいいくらでも作ってあげるのに…まあいいわ、じゃあバレンタインデーにチョコをあげるわよ。」
「本当ですか!?」
「本当よ、その代わり家内も私にチョコを作ってきなさい。買ったのはダメよ。」
「えっ!?」
「好きな人からチョコを貰うためならなんだってするんでしょう?」
「や、やってやりますよ僕は!任せてください!」