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彷徨う雷雲   作者: 佐伯 蒼太郎
13/26

三人と一人


                 (十三)


 武井は緊張のためか、少し青白い顔をしていたが、白無垢の綾は唖然とする程

の美しさだった。

 日頃、化粧が嫌いで、カフェで働いている時も、ほとんど素顔と言ってよく、

そういうナチュラルさが加藤は好きだったのだが、おしろいに紅をひいた今日の

綾の美しさには圧倒された。

 加藤は水割りをガブ飲みしていたが、(こんなものでは酔えない)と、ウェイ

ターを呼び、ストレートでコップを満たして持ってこいと注文する。

 同じテーブルに座る自衛隊の仲間からも、「どうしたんだ?」と心配された

が、(酔うしかない)と思っていた。

 お色直しを終えて、タキシードとウェディングドレス姿で出て来た二人は、悔

しいほどに似合っていた。

 長身でスマートなカップルは、街中を歩いていても回りの目を引くことだろう。

 武井に、綾の妊娠を聞かされて驚きはしたが、今日の姿にそれと気づくものは

いない。   

 キャンドルサービスに各テーブルを回り始め、段々、加藤のテーブルに近づく

につれ、胸の動悸が激しくなるのを感じる。


(明るく、笑顔だ)そう思っていた。


 二人がテーブルに来て、加藤を見た。綾は優しく微笑んだが、武井は口を一文

字に結んで口角をすこし上げながら、コクリと頭を下げる。加藤は一生懸命、笑

顔を作ろうとしたが、傍で見ている者には、どういう心情であれば、ああいう複

雑な表情になるのか、と訝られたかもしれない。

 感情表現の下手な二人の、それでも精一杯の気持ちの交感だったのだ。

(女々しいぞ加藤!)心の中で自らを叱咤しながら、ウイスキーを胃袋に放りこ

んだ。


 武井は自衛隊の寮を出て、2LDKのアパートに居を移し、八ヶ月が過ぎて、待

望の子供を授かった。

 よほど嬉しいらしく「子供の顔を見に来い」と、加藤をちょくちょく誘うよう

になった。

 最初は(嫌味か、この野郎)と思ったものだが、実際行ってみると、武井の子

供に対する溺愛ぶりに苦笑せざるを得なかったし、その赤ん坊は、加藤に潜んで

いた父性をくすぐるに十分な愛らしさがあった。


「名前はなんて付けたんだ?」


「みちこ、知恵のある美しい子、美知子さ。いい名前だろう」


 得意げに言う武井が、研究室に居る時の眉を八の字にさせている、道場で鋭い

技を繰り出す男と同一人物とは到底思えなかったが、妻を持ち、子を持つという

ことが、これほど一人の男を変えるのかと不思議にも思う。

 綾は人妻となって、また別の魅力を醸し出していたが、もう苦しまずにすむだ

けの時間が経過していた。

 そして顔には表さないが、随分と加藤に気を使ってくれている。

 綾の家庭料理も、酒も、そして温かなその雰囲気も、あまりに心地良かったの

で、それからというもの、誘われれば遠慮会釈なく武井邸を訪れるようになった。


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