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LN東條戦記第1部「不戦宰相」  作者: 異不丸
第4章 坂のはじまり
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御前会議

昭和16年10月31日金曜日、宮城、東一之間


御前会議は、陛下御臨席のもとに真に重大な国策を決定する。

日清開戦を決定したのが最初であり、主に戦争の開始と終了に関して開かれる。

御前会議の冒頭、議長役の東條首相は、政府と統帥部で決定した新国策を報告した。

主上は発言されない。枢密院議長から意見と質問があるのが、例である。

枢密院議長の原嘉道は慶応3年の生まれ、73歳になる。枢密院は「憲法の番人」であり、陛下の最高諮問機関である。枢密院は国家機関であると同時に、摂政の決定などに関与できる皇室の機関でもあるのだ。宮中席次は総理の次とはいえ、おろそかにはできない。陛下の信頼を揺るぎないものにするためには、枢密院を敵方には置けない。原枢相は東條首相より20近く年上で、弁護士として数々の民事訴訟を打ち勝ってきた。弁舌家であり、時に毒舌でもある。

会議は原枢相の独壇場となった。


原は、最初から興奮気味である。

「和平に決したのは祝着だ。総理の決意、忠誠心と熱意に感謝する」

それから、重光外相に日米交渉妥結の時期の見通しと条件および代案を尋ねる。

「そうか。善は急げだ。さっさと交渉しなさい」

「はい」

次に、東條首相に内政と経済方針を尋ねた。

「では、軍事予算を弾力的に運用し、経済活性と失業対策にあてるのだな」

「仰せの通り」

すると、賀屋蔵相に予算の分配、東條陸相に復員の規模を求める。

「蔵相。予算規模の維持には同意だ。どんどん進めなさい」

「はい」

「陸相。とっとと復員させたがよい。それで景気も良くなる」

「はい」

およそ一時間にわたる原枢府の質問は、終始一貫、和平を前提としたものだった。

統帥部の出番は最後だった。

「そういうことだ。出師準備は速やかに解きなさい」

「「はあ。しかし日米交渉はいまだに」」

「何を言うか。外相はできると申しておる。不満か?」

「「いえ。しかし」」

「では聞くが、交渉妥結後の次の作戦は、出来ておるのか?」

「「ま、まだです」」

「何をぐずぐずしている。これまでの作戦案はもはや役に立つまい」

「「そ、それは」」

「きっちり補翼の任を尽くしなさい」

「「は、はい」」


最後に東條が宣言する。

「他にご意見なければ、原案可決と認めます」

ここに、帝国の新国策遂行要領が決定した。

陛下が退出された後、顔を上げた原は、東條を見て再び言った。

「総理、よくやった」



その夜。東京府内、某旅館。

御前会議を終えて、東條首相は閣僚を旅館に誘った。慰労会である。

一風呂浴びて、全員が浴衣に褞袍で座敷に集まる。

「「「わいわい」」」

「首相もなかなか気がつかれる」

「いいもんですな」

「徹夜続きでしたが、癒されますな」

「ほんとほんと、報われるというものです」

(うんうん。これこそリーダシップ)東條は悦に入る。

「みなさま、今回は本当にお疲れ様でした」

「いやあ、ありがたい」

「これは佐藤軍務課長の発案でして」

「さすが帝国の精鋭です」

「次は迎賓館でやりましょう」

「それはいい」

「「「あっはっは」」」


突然、豊田海相が立ちあがった。手にはビールの入ったコップを持っている。

「では、ご指名により、不肖豊田が乾杯の音頭を」

「「「あぜん」」」

「「「だれが」」」

「帝室の弥栄と帝国の繁栄に」

「「「か、かんぱ~い」」」

(おのれ、一度といわず)




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