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LN東條戦記第1部「不戦宰相」  作者: 異不丸
第4章 坂のはじまり
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人心刷新

昭和16年11月1日土曜日、陸相官邸


午前9時、陸軍省三長官会議。


新国策の決定を受けて、陸軍三長官会議が開かれた。

「新国策が決定されましたので、陸軍もこれに沿って」

「「うむ」」

「当面する課題は、国防方針と作戦の変更、仏印撤兵、支那撤兵、縮軍の4つでしょうか」

「予算は確保できるのだな?」

「はい。当分は問題ありません」

「南方作戦で抑えた20隻の輸送船はどうなる?」

「10隻は徴用解除して緊急物資輸入で中南米へ。ですが、出港は12月」

「今月は20隻、来月から10隻か」

「中支と北支は鉄道がある」

「で、どこへいくつ?」

「台湾と満州は増強すべきだろう」

「現在51個師団基幹で、内地には4個師と8個旅です」

「支那総軍が21個師、20個混旅」

「南方軍に予定していたのは11個師、3個旅」

「ふうむ。20個師と20個混旅は解隊か」

「残る10個師を満洲、台湾と内地へ」

「千島も増強したいが、補給がな」

「ざっと、将官が70人に佐官300人が予備役か」

「「「うーんっ」」」

三人の悩みは、陸軍定員の削減である。

かつて、4個師団を削減したばかりに、宇垣大将は不人気となって首相になれなかった。

予備役に入っても、陸軍内の人気はついて回るのである。

政界や実業界へ転職しようにも、当座の頼りは在郷軍人会や現役将校の支援なのだ。

今回、20個師団となれば、尋常ではない。


「将官はともかく、佐官はあまり切りたくないな」

「なんといっても、歴戦の連隊長は頼りになる」

「独立混成連隊は残しましょう」

「だが、それでは予算の削減にはならんぞ」

「蔵相や財界の望みは、現役兵や召集兵の除隊です」

「なるほど。将校は娑婆では使えんからな」

「「ごほんごほん」」

「航空隊を増設しましょう」

「その手があるか!」

「ならば、工兵や通信も」

「それで将校と下士官の定員をなるべく減らさんように」

「新国策では、満州防衛と本土防衛です」

「満州は航空機と戦車だ」

「本土は、航空機と通信、それに船舶工兵です」

「逆上陸に船艇機動だな」

三人とも、連合艦隊が米艦隊を4回も沈めるなど毛頭信じていない。

1回は勝てるだろう。2回目はわからないが、3回目は絶対にない。その時、陸軍が米軍を本土に迎え撃つのだ。南か北か、東正面か?

三人は、連合艦隊亡き後の本土防衛戦を論じる。


「では、まとめます」

「「うむ」」

「1つ。予備役人事は、陸大卒、陸幼卒にこだわらない」

「2つ。通信つきの航空隊を大幅増強する」

「3つ。海上機動および島嶼上陸可能な連隊を新設する」

「4つ。部隊は、指揮通信途絶に対応できるものとする」

「「いいではないか」」

指揮通信途絶に対応できるとは、独断専行の言い換えではない。独立して判断できる機能をもつ部隊という意味で、つまりは、それなりの高級将校を配置するということである。

三長官会議は、もともと将官や陸相の人事が主要議題なのだ。


「陸軍の新方針はこれでいいだろう」

「あとは、参謀本部や陸軍省の仕事ですな」

「さて、大臣。この際、わしは参謀総長を降りようと思う」

「「えっ」」

「ここは、上層部が辞めることで人心を刷新すべきであろう」

「しかし、総長」

「捨て鉢や面当てで言っているのではない。真面目だ」

「「・・・」」

「松井閣下や東條が取り繕うとは思うが、支那事変は負けだ」

「「・・・」」

「戦線拡大と敗戦の責任を取る」

「時期は東條に任せるが、なるべく早く頼む」

「そうだな。わたしも教育総監を降りよう」

「えっ」

「山田も降りるか」

「はい。潮時です」

「総長!総監!」

「ここで陸軍が責任をとらないわけにはいかん」

「それはそうですが」

「いま、陸相の東條を降ろすわけにもいかん。であれば、わしら二人だ」

「そのとおり」

「その方がやりやすいだろう」

「やつらを、道連れにしてやる」

「「ごほんごほん」」

「後任人事が聞きたい。腹案はあるだろう?」

「それは」

「心配するな。わしらは東條を応援する」

「このままでは陸軍は、外からも内からも潰される」

「外からは、敗戦・撤兵の責任。内からは、師団削減の責任」

「内憂外患の陸軍を残すには、東條しかおらん」

「陸軍のために、応援する。宮さまは任せておけ」

「ほかの年寄りも黙らせよう」

「存分にやれ」

「高度国防国家は、陸軍の夢だ」

「だから、東條の構想を聞いておきたい」

「わかりました」

「「うんうん」」

「まず、陸軍省人事局長に額田少将」

「よし。あれの人事ならみな納得する」

「今の人事局長はどうする」

「冨永は予備役に」

「うん。子飼いだろうが已むを得んな」

「こういう時こそ子飼いが役に立つが。私情を捨てるか」

「参謀総長には多田大将」

「「よく言った」」

3年前に支那事変をめぐって多田参謀次長と東條陸軍次官が対立し、両名共に更迭、喧嘩両成敗となった顛末を知らぬものはいない。

「陸軍大臣は山下中将」

これも226事件の対応で、山下は皇道派、東條は統制派と袂を分かつことになった。

「陸軍はまとまるだろうが、首相にとってはやり難くなるぞ」

「大丈夫か」

「教育総監に土肥原大将」

「「そうか、うんうん」」

「ちょっと心配だが、額田をうまく使え」

「そうだな。局長や部長に好きな者を配置しろ」

「かまわん。わしらは口をださん」

「そう。応援だけする」

「ほかにもあるなら、聞いておくぞ」

「そうだ。言っておけ」

「ありがたいことです。感に堪えません」

「「うんうん」」

二人には、東條の目がうるうるに見えた。




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