帝国国策遂行要領
昭和16年10月29日水曜日正午、宮城
東條首相は参内し、統帥部の杉山総長、永野部長と列立して、その日の午前に決定した新国策を上奏した。
『帝国は現下の危局を打開して自存自衛を完了し大東亜の新秩序を建設する為
比の際対米英蘭支との交渉妥結を決意し、左記処置を採る
一 重慶政府との直接交渉にて支那事変を完遂す
二 帝国勢力圏の総力を以って帝国は高度国防国家を完整す
三 米英蘭より所要の資源機材を調達す
四 日米交渉の間概ね半年間は武力発動せず
別紙
日米交渉妥結案
一 日本政府は通商無差別原則が全世界に適用せらるるものなるに賛同す
二 日米両国は南太平洋地域に武力的進出を行わざることを確約す
三 日米両国は相互に通商関係を資産凍結前の状態に復帰すべし
四 米国政府は資産凍結後に減少した対日輸出分を緊急供給するを約す
五 日米両国は互いに内政不干渉を約す
備考
一 必要に応じ仏印乃至支那駐屯中の日本軍隊を撤退すべき旨を約束し差支なし
二 必要に応じ三国条約の解釈及履行並びに離脱する旨を約束し差支なし』
同日の午後、東條首相と重光外相はお召しを受け、それぞれご下問を受けた。
ご下問のあと、首相と外相は、内大臣執務室で、木戸内府と懇談する。
「あれほど深くご首肯されるとは、感に堪えません」
「大御心にはまだ適いませんが、まずは半年」
「いやいや、ご苦労でした。ここまで来れば」
「きっと結着するようにと仰せがありました」
「外相に、3つも4つも代案があったとは驚きです」
「では、明後日10月31日に御前会議」
「明日、原枢相にお会いしておきます」
「宮内大臣にもわたしから」
「「よろしくお願いします」」




