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LN東條戦記第1部「不戦宰相」  作者: 異不丸
第4章 坂のはじまり
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60近い短髪の男が、文庫本を読んでいる。

「けしからん。こいつはこんなことを考えていたのか」

「大本営陸軍部、いや全陸軍の顔というのに。おのれ」

「絶対、首にしてやる。待っておれ」

そこへ、もう一人の、やはり60近い男が声をかける。

「東條さ~ん。何読んでるんですか。映画見ますよ!」

「おお、すまんすまん」

駆けつけた男は座ると、すぐに背筋を伸ばした。

「どうされました」

「やはり、この曲を聞くとな」

オープニングは『海ゆかば』だった。

「これは名作だよ」

「ベニスの映画賞をもらってますね」

「ふふ。陸軍の肝いりだ」


「重機に歩兵砲、戦闘工兵に航空支援」

「どうだ。思い知ったか」

「ちょっと潤沢過ぎませんか?」

「そうか?」

「でも、帝国歩兵戦術の雰囲気は出てます」

「これぞ肉弾戦法だ」

「浸透戦術でしょ」

「そうとも言う」

「戦争のプロが肉弾とかおかしくないですか」

「はて。それもそうだな」


「中隊長も小隊長もけっこうな年ですね」

「菊は召集兵だからな。見ろ、兵も若くはない」

「米国では反戦映画との評判です」

「なに」

「歩くばかりで、苛酷だと」

「帝国陸軍は正直なのだ。国民に嘘はつかん」

「は?」

「歩く兵隊が、歩兵なのだ」

「たしかに。これだけ歩ける軍隊は日本だけでしょう」

「ふふふ」


「しかし、歩きますね」

「ああ」

「歩きますね」

「ああ」

「まだ、歩きますね」

「ああ」

「よくも、歩きますね」

「・・・」

「・・・」

「少しは楽させてやらんといかんか」




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