国策検討会議 第四日 その2
「続けて、外相。どうぞ」
「その1カ月の間に日米交渉が妥結すれば?」
「その時は、止める」
「発砲1分前でも?」
「ああ、止めてやるとも」
「交渉条件に、撤兵と同盟離脱は出していいですか?」
「撤兵は、ゆるゆるとならいい」
「ゆるゆる?」
「そうだな、半減まで1年、全員なら3年」
「それはありがたい。同盟離脱はどうでしょうか」
「交渉に上げるのはいい。が、公表や決定はまだだめだ」
「無論です。早くても年末」
「それならいいが、公表の2週間前には教えてくれ」
「いいでしょう。これなら存分に外交ができます」
「わしからもいいか?」
「なんだ、首相。質問は2つだけと」
「いや、1カ月とはいつまでだ。今日は27日だが」
「そ、そうだった。11月26日の深夜までいいですね」
「「しつこい」」
「いいぞ、26日深夜までは好きにやれ」
「では、決をとります」
「国策は、11月26日深夜まで日米交渉、その後は適宜開戦、勝てる戦を・・・」
「「「やれやれ」」」
その時、ばああんと扉が開いて、軍服の男が数人飛び込んで来た。
「「「なんだなんだ、なんだ」」」
幹事の武藤軍務局長が、怒鳴りつけようと立ち上がる。
「大臣ーっ、次官、局長!」
「どうした、佐藤!」
転がり込んできたのは、陸軍省の佐藤賢了軍務課長だった。
「はぁはぁはぁ。み、み、み」
「みみ?耳が遠いのか?」
「いや、み、南満州で石油が!」
「はあ?」
「油田です。南満洲の遼河近辺で油田を発見しました」
「「「えええーっ」」」
「て、て、帝国の石油は安泰ですぞーっ」
「待て待て、待てぇ」
軍令部長の永野大将が歩み寄ろうとする。
それを突き飛ばして、またまた軍服の男が数人、飛び込んで来た。
「大臣、次官、局長!!」
今度は、豊田海相が立ちあがる。
「どうした。高田第一課長」
「み、み・・・」
「南満洲の油田か?」
「はい?」
東條首相が立ちあがる。
「突発事件が起きたようです。会議を中断します」
「日程は、のちほど連絡しますが、明日はないでしょう」
「ゆっくりお休みください」
しかし、陸軍も海軍も休みどころでは、なかった。
取り残された外相と蔵相は、料亭へ流れた。
「われわれは休んでもいいんですよね」
「今夜の酒ぐらいはよかろう」
「しかし、東條さんも大したものですな」
「はい、失礼ながら、ただの実直な軍人かと思ってましたが」
「いやいや見上げた政治家じゃないですか」
「とんだくわせもの」
「そうです、わしらも一杯喰わされてるのかもしれませんよ」
「あはは」
「いや、外相。ここだけの話」
「なんですか、蔵相」
「東條さんなら、米国に勝てるのではないかと思えてきました」
「それは、蔵相。まずいでしょう。せっかく」
「いやいや、ここだけの話」
「ま、酒席の話にしておきましょう」
この時、日米開戦のフラグが立った。立てたのは、賀屋大蔵大臣である。




