その1 カディナの街の不穏な噂
こちらは完結した、【外れスキル『コンビニ』で最強の勇者に成り上がる!】の物語の後日談のお話になります。
本編を読み終えた方の箸休めに、ぜひ楽しんで頂けると嬉しいです☆
異世界に召喚されたコンビニの勇者が、彼の仲間達と共に多くの困難を乗り越え。
5000年前にこの世界に召喚された、コンビニの大魔王を撃破して世界を平和に導いてから……おおよそ、2か月の月日が経過していた。
そんなある日の、コンビニ共和国内に新設されたお洒落な雰囲気のするカフェにおいて――。
お忍びでこっそりとカフェに集合した、共和国の重鎮である財政担当大臣のザリル・ローレンスと。共和国のリーダーでもある秋ノ瀬彼方は、共に一つの器に盛られたチョコレートパフェを一緒に食べながら。
他のメンバー達には話せない秘密裏な会談を、こっそりと開いていた。
「……という訳ですぜ、旦那。まぁ、部下達を使ってあちこちの街を探させてはいますがね。まだ、お目当ての人物は見つけられていなのが現状ですぜ」
「2か月探し回っても、全く手がかり無しなのかよ。本当に真剣に探しているのか、ザリル? こんな所でチョコレートパフェを食ってる余裕なんて、本当は無いんだぞ。いつ……あの朝霧冷夏がヤバい行動を取ってくるのか、全く分からないんだからな」
ガラスの器に豪勢に盛られた、チョコレートアイスをスプーンですくって口の中に放り込み。もぐもぐと噛み締めて食べながら、彼方は頬に傷のある怪しげなターバン男にグイグイと詰め寄っていく。
「そうは言いますけどねぇ……旦那。うちの部下達は、一度はその人物を探し出しているんですぜ? まあ、見つけた時にはもう『遺体』でしたけどね。それをコンビニ本店に連れて行ったと思ったら。今度はその遺体が急に起き上がって、どこか外に出歩いて行ってしまったから、もう一度探してきてくれだなんて……。それはあんまりですぜ、って話ですよ! オレだって部下達に何て説明すればいいのか、散々迷ったんですからね?」
浅黒色に焼けた長身ターバン男であるザリルは、目の前でチョコパフェを食べまくるコンビニの勇者の彼方に負けじと。
豪快にスプーンをガラスの器の奥にねじ込んで、大量のチョコチップの付いた甘いアイスを口の中に連続で放り込む。
「それは悪いとは思ってるよ。俺だって朝霧の遺体が動き出すなんて、マジで想定外だったんだからな。こんな事はティーナや、玉木にも言えないし……。相談出来るのは、ザリル、お前だけだったんだよ」
「――ハイハイ、共和国の裏の仕事を取り仕切るのは、確かにこのオレの役目ですぜ。旦那。まぁ、そんなに焦らずに。気長に待っていて下さいよ!」
お茶目にウインクをして、長いスプーンでガラスの器の底を抉り出すように。ザリルはチョコレートパフェの底に溜まった、コーヒーゼリー部分をすくい出そうとした。
「おい、ザリル……! お前、一人でチョコパフェを食べ過ぎだぞ! 絶対に俺よりも沢山中身を食べているだろう!」
「いやいやいや、旦那の方がオレよりもいっぱいチョコパフェの上に乗った、一番美味しいアイスの部分を食べまくってましたぜ? 底に溜まったコーヒーゼリーの部分はオレに分けてくれないと、流石に不公平ってもんですぜ!」
ザリルと彼方が、たった一つのチョコレートパフェの底に溜まったコーヒーゼリーの部分を奪い合って。
お互いの顔を近づかせながら、至近距離で睨み合っていると……。
男同士が密接した距離で、チョコレートパフェを奪い合っている不思議な光景を見て。心底呆れた溜め息を漏らしながら、声をかけてくる女性が近づいてきた。
「うわ、キッモ……! 何でいい歳をした男同士が、一つのチョコレートパフェを仲良く2人で食べ合っているのよ? ちゃんと一つずつパフェを注文すれば良かったじゃないの……」
声をかけてきたのは、金髪の髪をポニーテールにしたザリルと同じく浅黒い肌を持つ美少女。紗和乃・ルーディー・レイリアだった。
「はぁ? キッモとか口に出して言うなよな、紗和乃! 俺はちゃんと、ウェイトレスの女の子にチョコパフェを2つ注文したんだぞ! だけどその子が聞き間違えたのか、なぜかパフェが一つだけしか運ばれてこなかったんだよ。注文し直そうとしたらザリルの奴が、『可愛い女の子のミスを指摘するなんて、野暮ですぜ……旦那』とか言って、格好つけるから。こうして野郎2人で、一つのチョコパフェをスプーンでつつき合う羽目になったんだぞ!」
彼方は必死になって弁明してみせたが……。正直、紗和乃にとってはそんな事はどうでもいい事だった。
なのでその話題に乗っかって、話を膨らませる事なく。ザリルと彼方の座っているテーブル席に紗和乃も腰を下ろして一緒に座り。
さっさと要件である『本題』についてを、彼方に伝える事にした。
「それよりも、彼方くん! グランデイル王国で開催されるティーナさんの戴冠式については聞いているわよね? その件について話したい事があるのよ」
紗和乃は、彼方とザリルの座る席に加わり。コンビニの大魔王との激戦が終わり。ようやく戦後処理が落ち着いて、復興の目処が立ったグランデイル王都において。
改めて新女王に即位したティーナが、女王の証明である黄金の冠を国民の前で授けられる戴冠式の日程についてを話してきた。
「ティーナの戴冠式の事なら、もちろん俺も聞いてるよ。本当は俺も色々と手伝いたかったんだけど、ティーナはグランデイル重臣の大臣達に囲まれて、毎日めっちゃ忙しそうにしてたからな……。落ち着くまでなかなか会いに行けなくて、俺もマジで寂しかったんだぞ!」
「ハイハイ、そんな惚気話はいらないから。私が言いたいのは、その戴冠式について……不穏な噂が流れている事なのよ!」
「えっ、不穏な噂だって……? 何だよ、それ! まさか女神教の残党の暗殺者達がティーナの命を狙っているだとか、そういう危険な話なんじゃないだろうな!」
可愛いティーナの身に危険が迫っているというのなら、もちろん彼方は黙っていられない。
最悪、コンビニ共和国が誇る最強戦力の3人娘達を引き連れて。グランデイル王都にすぐに駆けつける事も彼は厭わないだろう。
「……旦那、その不穏な噂なら。実はオレもよく知っていますぜ……」
「ザリルもかよ? 一体それは何なんだ? ティーナの身に危機が迫っているのなら、大変だ。俺にもその噂の内容を教えてくれよ……!」
彼方に問われたザリルは、紗和乃に視線を移し。
その内容を伝えて良いものかと確認を取った上で。真剣な表情で、グランデイル王都で行われる新女王の戴冠式についての不穏な噂を、彼方にも教える事にした。
「実は王都の西にあるカディナの街で、武装した騎士団が大量に集められているって噂があるんです。それも騎士達だけじゃなく、街全体が外部との扉を閉ざしてしまっていて。何やら街の中に不穏な空気が漂っているらしいんですよ」
「カディナの街が……? でも、あそこは2か月前の戦いで。杉田や、さくら達が大活躍をして。当時カディナの街を支配していた旧グランデイル王国騎士団の支配から解放したばかりだよな? それなのにどうして、そのカディナの街が不穏な動きを見せているって言うんだよ……」
その事について、詳細を彼方に言いづらそうにしているザリルの様子を見かねて。
今度は彼方の隣に座っている紗和乃が、ザリルに代わって口を開いた。
「……彼方くん? カディナの街を解放するのに貢献した異世界の勇者の事なんだけど。それ以来、まだコンビニ共和国に帰ってきていないメンバーがいる事は、彼方くんも知っているわよね?」
「カディナの街から、まだ帰還していないクラスメイト? ああ、そういえば確か……『料理人』のさくらが、帰って来ていないって聞いた事があるような……。共和国にある、さくらのレストランのファン達も。早くさくらの作る料理がまた食べたいって、残念がっていたしな」
「そうなのよ、それにさくらちゃんだけじゃないわ。クレーンゲームの勇者の秋山さんも、まだカディナの街から帰ってきていないの……」
「えっ、秋山もなのかよ? それって、どういう事なんだ……?」
疑問顔を浮かべている彼方に対して。剛を煮やしたザリルがとうとう、重い口を開いて。
今回の不穏な噂についての真相を、彼方に全て伝える事にした。
「ああー、もう単刀直入に言いますぜ、旦那! カディナの街は今、グランデイル王国に攻め込む為の軍隊を大量に呼び集めているって話が出ているんですよ! それも、それらの騎士達を指揮しているのが『料理人』の勇者の、琴美さくらだって周囲から言われているんです!」




