穴
「私はアンドロイドだ。問題ない」
このセリフ、何度言えば気が済むのだろうか。昨日もこれで喧嘩を収めたが、やれやれだ。2人はまた喧嘩をしている。仲が良いのだろうか。
毎日変わらず喧嘩をする2人にお馴染みのセリフを投げて止めようとしていたら、お馴染みの桜宮がお馴染みのセリフで止めてくる。
「おいおい、その設定もうやめろよなー?」
今にも篠原が食ってかかりそう、一触即発の瞬間に横から声がかかる。
「設定とはなんだ、アンドロイドだ。失礼だな、桜宮」
「紛らわしいからやめろつってんの」
「だから、私は真実を言ってる迄で」
「はいはい、ほら。行くぞ。
松村、お前もそれそろそろやめた方がいいんじゃねぇの?」
好きなやつにちょっかいかける小学生か〜?と金髪の男、もとい松村フィルの肩に手を置き、未だに怒っている篠原を回収する。
「は?おい誰がっ…」
「ちょっと、まだ話は終わってないんだけど!宮くん!!」
「私はアンドロイドなんだが…」
口々に騒ぎたてる面々。
誰もいない校門で、4人だけがてんやわんやと
「あ、」
チャイムがなる。遅刻が確定した4人は顔を見合わせる。
「なぁ、今何時だ?」
「現時刻?少し待て」
時計を確認する。
「時計の針は8時15分を差しているのだが」
「じゃあなんでチャイムがなっているのかな?」
「ふむ…時計が間違っているのではないか?」
「きーちゃん、私の時計は8時30分だよ…?」
「ふむ、それなら理智の時計も狂っている。」
「いや、お前の時計針止まってんぞ」
「そんな訳は無い。…な、な!?理解不能だ。止まっている。メンテナンスが必要だ。この機類には……あ、これをはめてやれば…ほら動くだろう。私の時計は狂っていな」
「普通に遅刻な。行くぞー」
「おい!今は8時15分だ。焦る必要は無い」
「8時半な」
「8時じゅう、っておい!置いていくな!」
刹那
学校から悲鳴が鳴り響き始めた。
チャイムと同時にどちらとも言えない音が鳴る。
悲鳴とチャイムの合唱が耳をつんざく。
「……っ!?今の声は」
その間にも校舎のあちらこちらから叫び声が聞こえてくる。声の元を辿るように仁美はそちらの方へ足が動き出す。
「…っ!ちょいちょい!まちまち!」
桜宮は動き出した仁美の腕を掴んで引き止める。
「どうなっているか見に行かないと」
「何おこってんのかわかんねーんだから、一旦落ち着け!」
「分からないから行くんだ」
仁美が抵抗しようとした刹那、ゴンッとなる。
鈍痛と同時に松村の声が聞こえる。
「仁美!」
「……ッが゛……」
鈍痛。
瞬く間に視界は暗く、音が遠くなっていく。
「…こ…けな……よ…ー…」
バタンと音が意識が薄れる中で聞こえた。自分が倒れた音だと気づいた頃には意識を手放していた。
ガウンガウン。上下に揺れながら進む感覚で目を覚ます。
「…っ!?ぁわっ…わ!」
「っぶな!暴れないでくれるかい!?」
「む、むらまっ…つ…か!?」
「そーだよ!…っ…」
グワングワンと前に動き、状況を整理する。
背負われて前に進んでいる。
松村が息を切らしながら走る。
わけがわからないまま、ただ揺られて目的地に向かうしか無かった。松村のあまりの必死さに、質問している場合では無いと思ったからだ。
頭の中で整理したら何か分かるかもしれない。整理しよう。
登校。叫び声、制止、鈍痛。逃走。
考えようとするが、いくら考えても何かが始まってしまったということしか分からなかった。
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着いたのは森。おそらく目的地だろうプレハブ小屋が目の前にある。
と息が切れている松村。
理智と桜宮の姿は見えない。
「まつむ…」
「ちょ、タンマ…!!」
ゼェゼェと息切れの松村。ストップ、と手を前にされ静止される。
「松村」
「タンマだ!!!タ!!ン!!マ!!!」
「〜…ッ!!!これを飲…ない…!?」
走っている10分の間、考えこんだ結果何も分からなかった仁美。
早急に状況を知りたすぎる。背負ってたリュックから水を松村に渡そうとするが、リュックが無かった。
松村が回復する他現状を知る由がない。ならしょうがなしと、プレハブ小屋の扉に手をかけた瞬間、肩を音速で捕まれた。
「一旦、10分、何も、するな」
気迫が、凄い。鬼か?
コクっと頷き、10分そこで鎮座した。
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「はぁ、それで、今はこんな感じだ。状況が…っていっても、キミがお気楽気絶をかましていたおかげで、逃げる以外他に何もできていないけれどね?」
肩をボキボキと鳴らし、何かをアピールしてきている。
学校は大騒ぎらしい。瞳が倒れてから悲鳴の数は増えるばかりで、一度二手に分かれて逃げることになったと。
「おい、理智はどうなったんだ。桜宮はどこだ」
「さっき言ったよねぇ?あのキーキーレディとイキリ坊ちゃんは別で逃げたって」
「???」
「話が分からないか!そうかい、脳内CPU激弱女め!」
「今なんで4人になった」
「篠原と桜宮は別で逃げたんだよ!で、ここは僕の私有地」
「そうか、なぜ私有地にまで逃げる必要が?警察はダメなのか」
「110もダメだよ。繋がらなかった」
「そもそも私は誰に殴られた?殴られたのか?物に当たったのか?」
「ぁ〜〜〜…レンガにでも当たったんじゃないかい?」
「レンガ?そうなのか。」
「…しらないけどね」
「そうか。それでこの小屋は?」
「爺様のだ。この小屋は鍵がついていない代わりに、手順踏まないと地面が抜ける仕組みになってるんだ」
「びっくり小屋じゃないか」
「だ・か・ら、不用意にあけないでくれよ?」
「…分かっている」
「あけようとしたよな!?」
「手すりの形を確かめようとしただけだ」
「無理があるだろう…」
松村はプレハブ小屋の椅子で項垂れている。
「それで…これからどうするんだ」
「あー…ノープランだ」
「ノープランか。困るじゃないか」
「そーだよ、大困り中だよ」
「ご家族に連絡はしないのか?」
「しないさ、あんな奴らに」
「そうか」
沈黙。トントントントン。足の踵を床に小刻みに叩く音が聞こえる。
「うるさいぞ」
「…考え事をしているんだ」
「そうか」
松村のように足を鳴らせば考え事は深まるのか。と、瞳も続くように足を床に叩きつけてみる。
トントントントン
ドンドンドンドン
「なぜキミもやるんだ!?」
「考え事をしている」
「にしてもうるさい…!どんな考え事だよ、むしろ踏み鳴らす方に集中してるだろう!」
「む…」
「図星かよ!…あ~~~~~~~~~~…
なんかもう馬鹿らし、はは」
大きな不安を笑いで蹴飛ばし、プレハブ小屋に松村の笑い声が空間に投げられた。
「どうしようね。一旦こっち逃げてきたけど、ここは圏外なのさ」
「圏外!?そんな場所が今の時代にあるのか」
「爺様が現代の波には呑まれん、ワシが呑まれんのは酒だけじゃ、なんて言って絶対に敷かなかったんだよ」
「なるほど、では理智や桜宮がどうなっているのかも分からない、と」
「そうだ 。で、学校に戻んのは当然リスキーだろう?本当に何が起こったんだろうね。ゾンビ映画の冒頭かな」
「戻ったら皆ゾンビに!?」
「例えって知らない?」
「紛らわしいな」
「やりづらいことこの上ないね?
…あー、でだ。」
「うむ」
「110番に繋がらないってことは、外部もあんま宛にならない。つまり」
「つまり…?」
「待機だ!」
「待機…?」
「なんも分からない状態なら、一旦事が落ち着くまでここが安全だろうね」
「でも理智や桜宮が危ないんじゃ」
「キミじゃないんだ。上手くやってるでしょ」
「そうかもしれないが、だが」
「あ~はいはい!機械設定どこいったんだ?機械のきーちゃんは合理的判断できるんだろ、な?」
「心配なんだ」
「…そ~かい!お優しい機械様だねぇ。っておい!まてまて!」
「なんだ、助けに行くんだが」
「キミがいってもなんもできないだろうが!一旦ここで待機だ!」
「やだ」
「やだじゃない」
「でも、いてもたってもいられないんだ」
仁美から真っ直ぐと見られる。
少し考え、掴んだ腕を離す。
「…あ~そう、だったらいけば?」
「…」
学校で何が起きているのか、何も分からないことには何も出来ない。
タイミングが遅くなって後悔はしたくないと仁美は松村から背を向けて学校へと戻った。
戻ろうとドアノブを回して外に出た直後、
大きな音を立てて落ちていく。仁美の身体が。
「寝心地はどうかな?落とし穴の」
「……ふかふかだ」
「そりゃこんなんでも死なれたら殺人罪だからね」
小屋の外には落とし穴。この私有地には部外者を立ち入らせないための仕掛けが無数に存在していた。
「さっき言ったばかりなのに、言わんこっちゃないねぇ」
「ここから出してくれ」
「無理、僕は戻るのに全面反対だからね」
「松村は待っててもらっていい。私は」
「行かなきゃいけないって?スーパーマンにでもなったつもり?無駄死にするだけだよ」
「私は死なない」
「何言ってんだ、死ぬんだよ。頭打って伸びてたヤツの言うことなんて説得力ゼロさ」
「私は死ぬより友人が気づいていたら死んでる方が嫌なんだ」
「たどり着く前に死ぬのが関の山だね」
「なぜ決めつける。松村が私の行動を制限する権利も無いはずだ」
「ないね、でもそれを制限するいわれもない。
僕が何しようが僕の勝手ってことね」
「……」
落とし穴の上と下。どちらにいる方が有利かなんて明白だ。
「……待機だ」
「合理的判断だね」
松村はニヤニヤと分かっていたかのような顔で見下ろしてくる。
「助けてくれ」
「えー?なんだってー?」
「助けてくれ!!!」
「うわ、うっさ。ほら、コレ」
松村がどこから出してきたのか、ハシゴがガコンとおとす。仁美はそそくさと、助けてくれるならとハシゴをガシガシ登っていく。
穴から顔を出すと笑顔のような怒っているような、眉間をひくつかせた松村の顔があった。
「言ったろう?安易に開けるなって」
「忘れていた」
「だろうね」
「穴から出した瞬間に助けに向かうかとも思ったけれど、そこは素直に従うんだね」
「嘘はつかない」
いつもアンドロイドだのなんだの嘘をつきまくっている割には、それ以外ではクソが付くほど真面目らしい。仁美と松村はプレハブ小屋で日が傾くまで過ごした。
なんとなく非日常が始まったような気がしたが、一度安全圏にて身を包ませた。
明日から日常が帰ってこなければどうしよう、そう考えながら、他愛もない話をした。
世界が滅んだらどうしよう、どうしようもない世界になっていたらどうしよう、そんな話をない世界かのように、創作話のように話していたら放課後くらいの時間になっていた。
「もう日が暮れてきた。戻らないか?」
「まだ危ないさ、ゆっくりしていこう」
「不安なのか?」
「はぁ?んな訳ないでしょ?」
んな訳ありそうな顔で反論してくる。
「大丈夫だ。なんとかなる。私が何とかしよう」
「心強いことだねぇ」
「さて」
急に立ち上がり、プレハブ小屋から意気揚々と出ていく。
「では下までの道案内をしてくれ」
と言いながら前に進むとドア前の穴に落ちていった。
「何回落ちるんだ…」
「…助けてくれ」
少し考える素振りをして、はしごに伸ばしかけていた手を止める。
「いや、まだだな」
「…?」
「君は生き急ぎすぎ。落ち着きなよ」
「見にいかなければどうなっているかも分からないだろう」
「それはそうだね」
「ではどうするんだ」
「僕が一度様子を見に行くからさ、君はこの中にいたら?」
「松村、一人で行くつもりか?」
「君がいたらだいぶ足手まといだからね」
「危険だ!私も着いていく」
「い、や、だ。それに、ここの山の降り方を知られたくないのさ」
「山のおり方…?」
「ここはちゃんと手順を踏まないと下山できないからね。逆もまた然り。だからこそ知られないことこそが安全なのさ」
「そう言われてもだな」
「まだ納得できないって?納得できなくて結構さ。勝手に降りるからね」
「あ!おい」
松村が穴から遠ざかる。しかし、急に上から毛布と非常食、飲水が落ちてくる。
「わっ」
上を見上げるとハシゴが上部で固定されている。
作業が終わったのか、上から完全に気配が消える。
「…置いていかれてしまった」
毛布に包まり、自身の無力さに筋肉は強ばるが、身体の力は抜けていくようだった。
「うまくできないな」
体育座りで蹲るだけの生物だった。




