私はアンドロイドだ
ーー21××年ーー
朝。7時起床。眠たい瞼を擦る必要は無い。
7時10分。歯を磨く。歯磨き粉を出しすぎる心配は無い。
7時15分。朝ご飯を食べる。ご飯粒をうっかりこぼしてしまうことは無い。
7時30分。服を着替える。ボタンをかけ違うことは無い。
7時40分。家族に『行ってきます』と声をかける。
地球温暖化でドームに覆われた世界、その中で人口太陽が地面を照りつける。自転車に跨りキツい坂道をのぼる。途中で猫が目の前を横切った。それについても、慌てず対処をする。ブレーキを握り、自転車を一時停止。猫が目の前を通行する。途中でイレギュラーがあったものの、いつも通り8時10分に着いた。息は整っている。正常だ。
「おはよ〜」
「はよ、ねみぃ〜〜」
「ねぇごめん〜数学の課題見せてくんない?」
「今日もかよ…じゃ、ジュース奢りな」
「やった〜!もち!」
学校の校門は相も変わらず騒がしい。
平和だ。
「おはよ〜、きーちゃん!」
明るい声が耳に入る。右の方面からだ。右に身体を向けて顔を認識する。ツインテールが揺れている。
「きーちゃん?なんか疲れてる?」
「おはよう、理智。いいや、疲れてなどいない。」
「そっかそっか、朝だもんね!」
ピョコンとアホ毛を揺らし、元気に挨拶をしてくる篠原 理智。高校1年からの付き合いで、ちょうど2年目になるだろうか。
2人で校舎に向かって歩いていると、背にコンッっと後ろから小さな衝撃がきた。先程の感触的に革製の鞄だろうか。
「鉄の塊が、人間の目の前を歩かないでくれるかな?」
振り返ると私の背を叩いた…触った?であろう金髪の男、松村フィルだ。
「ちょっと、ちょっかいかけるんのやめてよ!」
「…あぁ、またキミか」
金髪の男がイラついた様子で理智を睨みつけている。
「…あんたもそろそろやめなさいよ!なんでそんなに構うわけ?」
「ッは!気に食わないからさ。自分で鉄女だ〜言っているだろう?機械に何しても構わないと思うけれど?」
「きーちゃんのことを、そんなふうに言わないで!」
「え?…あー、そうかそうか。もしかして君キミも鉄の塊?だから庇う?とか?」
男はケラケラと下卑た笑みを浮かべて指を指してくる。私が鉄の塊であることは本当のことなのだ。理智は眉を顰めて不快な感情を露わにしている。
「…違うよ」
理智は熱くなった掌をギュッと強く握った。
体温が上昇している、瞳に揺らいだ水面が数ミリ動いた。データとして脳内に記憶した。
私はアンドロイド。少子高齢化によって出生率が日本国内で10万人を切った現代において、人口の減少は凄まじいものとなった。
そこで政府は現代の象徴とも言えるアンドロイドに目をつけた。科学が発達した現代において、アンドロイドには人間と同様に喜怒哀楽を植え付けることに成功。しかし、より多くの情報を搭載し人間に近づけるためにこの学園に入学させられたのが私だ。アンドロイドを学生と同じように入学させてもらう代わりに、多額の支援金を政府が学園に補助するという形で大多数の学校へ送り込まれた。そのうちの1人が私、と言うわけだ。
「きーちゃんは人間、だもん……」
「いいや、私はアンドロイドだ」
アンドロイドと人間が共存する世界。
近いうちに訪れる、未来のお話。
「なーにがアンドロイドだ」
後ろから男の声が1人。
同じクラスの桜宮が横から半笑いの表情で突っ込んでくる。
「いや、だからアンドロ…」
「はいはい」
桜宮は仁美の肩をグイッと押しつづける。
「…。おい、痛いぞ」
「アンドロイドは痛覚薄いらしいぜー?」
「痛くない」
「へぇ」
「あいだだだ、痛い!痛い!」
「痛いんじゃーん」
頬が痛い。とても痛い。
ヒリヒリするのはどこか故障しているんじゃないか?昨日食べた鶏肉のささみが当たったのか?
「…きーちゃんは……ちょっとメンテナンス不良なだけだよ」
「変なフォローすんなよ」
「メンテナンスは…しっかりしたはずなんだがな…」
「お前も乗るな」
きゃいきゃいと3人は楽しそうに会話を弾ませている。
「松村もおはよーまた仁美にちょっかいかけてんの?」
「ただの世間話さ」
「あね。つか今日の3限提出のプリント見せてくれん?」
「いやだよ」
「松村はガチで見せてくんねーからなぁ」
ちぇ、と諦めて1限にやろっかなーとぼやいている桜宮の隣で青醒めている人物が1人。アンドロイドさんが青ざめていた。
「プリント…」
「きーちゃん!安心して!こんなこともあろうかと2枚やってるから!複製したものが、こちら!」
「え…いや、ありがたいが、理智。それは不正と言うやつじゃないか?」
「そうかな?バレなきゃセーフ!」
完全にプリントの存在を忘れていた仁美に、介護士もビックリするくらいのサポート力を篠原は披露している。篠原が出してきたプリントを桜宮が覗き込み、感嘆の声を上げる。
「お、篠原めっちゃ頭いいじゃーん!この問題わかんだ。はなまるつけちゃお、あ。」
プリントに丸をつけようとしてそのまま赤ボールペンがプリントを貫通する。
「あー!ちょ、ちょっと!宮くん何穴あけてんの!?一枚使えなくなったじゃん」
「ごめんじゃん。うわ、てかもう時間やばくね?急げ急げ!」
3人は慌ててバタバタと教室へ走っていく。
松村は3人の後ろ姿を見てポツリと呟き、本人は変わらぬ速度でチャイムが鳴ることも気にも止めずに速度はそのまま教室に向かっていく。
「……うるさい奴らだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チャイムが鳴る。
1限目、数学だ。
「はい、佐藤。こことけるかな?」
「え〜……あーしよく分かんないけどォ、まァ……こうじゃね?」
難問を難なく解いていく佐藤。
佐藤は頭が良い。かっこいいな、佐藤。
「お、模試1位は伊達じゃないね。じゃ、次は…」
私も次の問題は理解した。
是非「当ててくれ。」
「あ〜〜〜〜…やる気満々の」
「15だ」
「はは、食い気味だなぁ。ちなみにYは?」
Y…は…
なんだ?り、理解不能だ。なんだ、あの問題は。
コレって…もしかしてどちらも解かなければならない問題か?
「…22!…17…!」
隣から桜宮の22、という声。小声でずっと呟いているが、なるほどな。お前も答えたかったのか、すまないな。
「22だ!」
「うん、惜しい。Xが22でYが17な」
「久我先生が間違っているんじゃないか」
「えぇ?俺が間違えてたら教員免許剥奪じゃない?」
じゃあ私が間違いか。
間違えた。ふむ、演算ミス、か。
メンテナンスを行わなければならないな。
「そうか、着席する」
間違えた?いや、違うな。認識ミスだ。問題の認識に相違があった。うん、計算し直したら正解だ。狂いはない。
「お前、相当恥ずかったんだな…」
隣の桜宮から熱が集中した耳を指で指される。
「…耳、故障した」
「故障しちまった…か〜。」
コクっと頷く。故障とは厄介なものだ。はぁ。
2限目、体育。
2限目は2クラス合同だから、隣のクラスの理智とも同じだ。
「きーちゃんっ!」
「あぁ、受け取った!……せいっ!」
理智から受け取ったボールを標準定めて、ゴールへと投げる。
……決まった。
これはとても格好いいぞ、と思って思わず髪を靡かせてみる。
「「リバウンドーッ!!」」
「……ほいっ」
ゴール下の佐藤がリバウンドボールをひょいっとゴールに入れる。それと同時に試合終了のブザーがなり、佐藤の入れた点で自陣の勝ちだ。
「ナイシュー!佐藤やるじゃーん」
「いぇーい、コソ練コソ練」
ピースを決めている佐藤。カッコよすぎる……
「きーちゃんもナイスだったね!めっちゃ惜しかったよ!」
背中をバンバン叩いてくる理智。痛い、痛いぞ。
というか、理智は敵チームだよな?
「あぁ、ありがとう理智」
「ふふ、ダッサイねぇ」
「うっさい松村!あっちいって!」
ケラケラ笑いながら横をすり抜けていく松村。男子のバスケも隣の半面で行われている。外側にでたボールを中にいれて、コートの中でボールを受け取る。
スリーポイントを狙う松村。周囲に相手チームはおらず、ベストポジションから投げる体制に入る。誰もが入る、と思った時に外から黄色い声が上がる。
「凄いな、村松!!」
「チッ…松村だよ!!」
「「リバウンドーッ!!」」
ポロッとスリーポイントが外れる。手からボールの位置がずれて、ゴールから外れてボールは跳ね返る。
「っと!色ボケてんな!」
リバウンドを掻っ攫って桜宮が自らの陣地にボールを決める。
「おいおい、ポケポケしすぎてんじゃねぇの〜?」
桜宮は自らのシュートしたボールを拾いながらニヤニヤと松村へ視線を送る。
「はぁ…そんなんじゃないよ」
シュートを打った桜宮を見ている仁美を横目に説得力のない否定をしている自分の情けなさに、ため息が出そうになった。
国語、化学、日本史、科学。
6限目を終えるチャイムが軽快に響いた。
頭から湯気を出し、脳みそパンク気味の仁美が机につっぷしている。
「疲れた……」
「お疲れさん」
「きーちゃんほら!これあげる!新作のチョコだよ〜!」
「む、糖分補給。……ふむ、バッチリだ。ありがとう、理智」
「ふふ〜、私はきーちゃんのスーパーフレンドだから、ねっ」
「あぁ、スーパーフレンドだ」
「スーパーフレンドォ?ダサいねぇ 」
「変にちゃちゃ入れてくるあんたの方がダサいに決まってんじゃん」
「うるさいねぇピーピーツインテール」
「ピーピーツインテール!?ネーミングセンス終わってんだから人にあだ名つけないでよ」
「はぁ?名は体を表しすぎているだろう」
目の前では理智と松村が争いあっている。制止しなければ。
「私はアンドロイドだ。問題ない」




