ドライフルーツ系女子、恋に落ちる
「え!? イケオジに一目惚れした!?」
秋の気配が感じられる、休日の昼下がり。町外れの小さな喫茶店に、友人のハスキーボイスと『カチャン!』という甲高い音が響いた。
私こと新道 千名月は、肩を縮ませ窓際の席から周囲をちらっと確認する。⋯⋯うん。案の定、周りのお客さんがこっちを見てるわ。
いたたまれない空気を感じながら、向かいの席に座るセミロングの女──友人の実果に目をやった。彼女は身を乗り出しており、両耳にかけていたオレンジブラウンの横髪が、さらりと落ちて頬にかかっている。
ただでさえ大きい目は、転がり出るんじゃないかと心配になるほど開いていて、右手に持っていたフォークは皿へ落ちていた。
「……ちょっと実果! 他のお客さんの迷惑でしょ! 静かにしてよ!」
慌てて小声で注意すると、実果は「だってあんたがびっくりさせるからー」とのたまった。ふてぶてしい態度に、思わずため息が漏れる。
「あのさぁ、そんなに驚かなくて良くない? 私だっていい歳だよ? 好きな人の一人くらい、できてもおかしくないでしょ」
私はガトーショコラをフォークで小さく切って口に運んでいく。しっとりしていてカカオの味と香りが濃厚だ。横に添えられた生クリームをつけてみると、ミルクのまろやかさも加わって、よりいっそう美味しい。
もぐもぐと幸せを噛み締めていたら、実果は冷めた目をして鋭い言葉を返してきた。
「そのいい歳した三十路の女に、これまで一度たりとも色恋の話が無かったわけだけど」
「ん゛っ」
痛いところを突かれてガトーショコラが喉に引っ掛かった。私はそれを悟られないよう咳払いをしてから、涼しい顔で紅茶を飲む。実果は真面目な表情でこちらを見つめて、頬杖をついた。
「千名月は基本、男と接するのが苦手だよね。高校の時からさ、あまりにも浮いた話がないから、私、千名月は恋したい気持ちがカピカピなんだと思ってた」
「え、私って、そんな乾いてるイメージ?」
「うん、そうだね。水分十パーセントくらい」
「つまりドライフルーツみたく、甘みと栄養素が凝縮されてると?」
「すごく良い風に例えるじゃん。ポジティブ」
「そう考えないと辛いんだよ。察して」
「ふーん。まあ、そんなことはどうでもいいけど」
「どうでもいいんかい」
「それより、そのイケオジといつ知り合ったの? どの辺にキュンときたの? 超気になるわ。詳しく教えて」
実果はニヤニヤと、からかう気満々の笑みを向けてくる。しまった、やっぱり言うのやめようかな、なんてためらっていると、無言でじーっと見つめてきた。早く言えと強い目力で訴えてくる。まばたきすらしてない。やめろ、ドライアイになるぞ。
あー、やばいな。これ話すまで見つめてくる気だ。
私はうーんと長めに唸ってから、観念して「素敵なあの人」に出会った日のことを話し始めた。




