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第18話 スカウト

 僕たちが、小惑星アエトラに戻り、チューブ式の宇宙船乗降口を通って、小さな体育館ほどの広さの宇宙船搭乗エリアに降り立つと、十数人の人間が出迎えに来ていた。ほとんどの人間が身体にぴったりフィットした赤と黒の簡易宇宙服姿だ。

 例のスキンヘッドのカマル・カーンとツインテールのカマラちゃんの親子もいた。年齢性別がバラバラな雑多な集団だったが、皆、安堵や歓喜といったプラスの表情を浮かべている。

「お疲れ様です」

「キャプテン、万歳!」

「よくぞ、御無事で」

「みんな、ありがとう!」

 その集団の中に、一人だけ僕と同じ赤い簡易宇宙服に身を包んだ若い男を見つけた。

 僕は、その姿に激しい違和感と憤りを感じた。

「やあ、御苦労。大活躍だったみたいじゃん」

 そいつは無神経な笑顔を浮かべて僕に声をかけてきた。

 ダニエルだ。個室に軟禁されていたはずなのに何故か自由の身になっている。

 半分はこいつのせいで地球を裏切ったようなものなのになんなんだ。

「囚われの身じゃなかったのかよ!」

「まあ、俺様くらい色々な才能に恵まれていると、無駄飯食わせて監禁するよりも有意義な使い道があるからな」

「なんだよ、使い道って!」

「採掘作業の手伝いとか、まっ、いろいろな」

 あのカマル・カーンがよく許したもんだ。

「うんとね、ダニエルはレーザー削岩機の使い方がとってもお上手なんだよ」

 ツインテールの少女、カマラちゃんが笑顔で説明してくれた。

「いやぁ、それほどでも」

〈敵におだてられやがって、馬鹿かこいつ!〉

 しかし、よくよく考えてみれば、ダニエル・ダテはもともと生粋の火星人だ。火星解放戦線の連中に与しても何の問題もない。

 それに比べて僕は地球人だ。保身のために火星人たちに協力した。それも嫌々最低限のことをしたわけでなく、地球連邦宇宙軍を打倒するための戦術にも関与した。地球人の目から見れば許されざる裏切り行為だ。

 先程の戦闘で、多くの地球連邦宇宙軍兵士が命を失ったに違いない。

 母親にも、そして今も地球連邦宇宙軍にいるイザベルにも合わせる顔がなかった。


「ちょっと、私たちと一緒に来てもらってもいいですか?」

 僕が自分でもわかるほど暗い顔をしていると、長身のノーラが僕のそばにやってきて耳元でささやいた。冷たい口調ではない。どちらかというと暖かく、優しい感じだ。

「いいですけど」

 僕に拒否権はなかった。

 僕が暗い思考にとらわれている一方、ステルス戦闘艦マクベスの他のクルーたちは、人々の歓喜の声に応えて愛想を振りまいていた。

 やがて、キャプテンと副長、そしてノーラが手を振りながら人ごみから抜け出し、少し離れたところに設置してあるエレベーターへと向かった。ノーラが振り返り、僕に目配せをする。

 僕は微弱な重力の中、磁力靴を床にグリップさせて彼らの後を追った。

 彼らはエレベーターのゴンドラの中で僕の到着を待ち、僕が追い付いてゴンドラに乗り込むと、待っていたように扉を閉めた。

「悪いな。疲れているところ」

 キャプテンは相変わらず紳士的だった。

「いえ。何か御用ですか?」

「うん、実は折り入って頼みたいことがあってね。図々しいことだとは認識している」

 非合法組織の首領というより名家の御曹司だ。事実そうなのかもしれない。ある程度の資金力がなければ、このような組織は維持できないだろう。

「仲間になれということですか?」

「勘が良いね。先程の戦闘も君のおかげで助かった。改めて礼を言う」

「いえ」

 評価されるのも感謝されるのも喜ばしいことだが、時と場合による。

 僕が暗い表情を浮かべると、エレベーターのゴンドラは目的のフロアについた。

「続きは、お部屋で」

 副長がキャプテンを促した。

「そうだな」

 キャプテン、副長、ノーラ、そして僕はエレベーターホールのすぐ近くの部屋に入った。

 キャプテンの部屋らしい。

 小さな執務用の机と五~六人用の打ち合わせスペースがあるだけのこじんまりした部屋だ。ブルーとグレイを基調とした落ち着いた内装の部屋で、ぜいたくな印象はないが清潔で、よく整理されており、上品な雰囲気を漂わせていた。

「さて、本題に入ろう」

 キャプテンは自分の執務机に座ると、その前に置いてある打ち合わせ用テーブルの正面の座席に僕に座るよう促し、副長とノーラは僕の左右九〇度の座席に腰を下ろした。

 副長はともかくとして、ノーラは何故キャプテンに近いポジションなのだろう? 秘書とか護衛とか、そんな役回りなのだろうか。親密なのも気になるところだ。

 年齢も近そうだし、美男美女同士だし、二人とも育ちがよさそうだし、僕の胸に嫉妬に近い感情が沸き上がってきた。

 我ながらとんでもない下種野郎だ。僕は、さらに自己嫌悪に陥った。

「私の名前はニコライ・ノルデンフェルト。火星解放戦線に所属し、ステルス戦闘艦マクベスの艦長であると同時に、この小惑星アエトラ資源採掘基地の責任者を務めている」

 キャプテンは僕の暗い雰囲気に影響されず、誠実で折り目正しい自己紹介を行った。

「実は、君のことは、かなり詳しく調べさせてもらった。そして、先程の戦闘の様子を観察させてもらったうえで、是非、私たちの仲間になって欲しいと思っている」

「宇宙船の操縦ができる人間なら、火星にもいっぱいいると思いますけど」

 そもそも彼らに協力させられたのは、宇宙船の操縦資格がある事が理由だった。

「その通りだ。だが自分を犠牲にして非戦闘員を助けようとする人間は滅多にいない」

「何のことですか?」

 先程の戦闘には非戦闘員などいなかった。

「謝肉祭の惨劇で、子供を庇って上官に銃口を向けただろ。そのことだ」

「どうして?」

 そんなことを知っているのだろう。

「あの時の動画は火星のネットワークで拡散している。当局は必死に削除しているがね。きっと、あの兵士は厳しい処分を受けるだろうと心配した火星人も多いんだよ」

「それ、僕じゃないかもしれないじゃないですか」

 装甲擲弾兵のフル装備では顔などわからない。

 おまけに、あの一件は、僕にとっては誇らしい気持ちよりも『なんて軽率なことをしたのだろう』という後悔の念の方が強かった。もし時間を遡ることができたら、もっと別の解決策を試したい、なかったことにしたいと思っている。

「あの後、処分された装甲擲弾兵は君だけだ。あの兵士が君である可能性が極めて高い」

「でも、だからと言って、僕が地球を裏切って火星人の味方になるとは限りませんよ」

「そうだな。だから、お願いしている。正直言って、我々の組織はまだ小さい。人材も不足している。元軍人は喉から手が出るくらい欲しいんだよ」

「そうは言っても僕は弱いですよ。元装甲擲弾兵のくせにノーラに瞬殺されたくらいだし」

 初めて出会った時の白兵戦で、あっという間に彼女に絞め落とされてしまっている。

 ちらりとノーラに視線を向けると、彼女は功を誇る様子は見せず、少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。

「確かにその辺はちょっと期待外れだったな」

 キャプテン・ノルデンフェルトは端正な顔に苦笑のような微笑みを浮かべた。

「だが、仕方ないさ。ノーラとカマル・カーンは無重力環境での格闘技が得意だからな。それに君に期待しているのは白兵戦の技量ではない。先程の戦闘で、論理性、協調性、瞬時の判断力で、卓越した能力を示してくれた。君に期待しているのはそこだよ」

「しかし、そう言われても……」

 僕は地球人だし、地球には母親がいる。

「しばらく考えてくれ。他の連中に話を聞いてもらっても構わない」

「……わかりました」

 僕は小さくうなづいた。

「今後、個室に監禁するのはやめるが、監視はつけさせてもらうよ。さすがにまだ完全な自由は与えられないからね」

「担当はどうしますか?」

 副長がキャプテンの方に目を向けた。担当というのはおそらく監視係のことだ。

「ノーラ、お願いできるかな」

「はい、キャプテンのご指示に従います」

 ノーラは嫌な顔一つせず、即答した。

 呆れたことに僕は美人による監視に少しだけ心を躍らせていた。


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