第14話 囚われの身
見たことがない天井が目に入った。
水色を背景に白い雲が浮かんでいる絵柄の壁紙だ。
その中で太陽の代わりに円形の照明器具がぼんやりとした光を放っている。
「目が覚めた!」
元気のいい女の子の声が室内に響いた。
僕はあまり広くない部屋の中央付近でベッドに寝かされていた。
幅広のベルトで身体がベッドに拘束されていて、身動きができない。
周囲を見回すと、赤と黒の簡易宇宙服を着た浅黒い肌のツインテールの少女がこちらを見て嬉しそうに笑みを浮かべていた。
多分ローティーンだ。それなりの身長だが、少し幼い感じがする。
さらに見回すと隣のベッドではダニエルが拘束されていた。すでに目を覚ましていて、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「ここは?」
「保健室だよ!」
「ええと、どこの?」
「それを教えてやるわけにはいかねえな」
元気な少女の声ではなく、以前聞いたことのあるふてぶてしい声がした。
「あっ、パパ」
部屋の扉が開き、少女の後ろから現れたのは、顎髭を生やした褐色の肌のスキンヘッドのおやじだった。ダニエルを瞬殺した関節技の遣い手だ。
「ええと、お見舞いですか?」
「いいや、尋問だ」
そうだと思った。
スキンヘッドのおやじの後ろから、背の高いきれいなお姉さんと、彼女よりもさらに背の高い育ちのよさそうな金髪のイケメンが部屋の中に入ってきた。全員、赤と黒の簡易宇宙服姿だ。
「カマラ、看病お疲れさま。ありがとね」
スキンヘッドのおやじは目を細め、見た目に似合わない猫なで声で少女に話しかけた。
「いぃえぇ、パパもあんまりこの人たちに酷いことしないでね」
そう言うと、ツインテールの女の子は部屋から出て行ってしまった。
できたら、スキンヘッドのおやじの抑止力として彼のすぐ近くにいて欲しかった。
それにしても、タコ入道の娘が、あんなにかわいいのは不条理だと思った。奥さんが美人なのだろうか。だとしたら、ますます不条理だ。僕が思い描いている幸せそのものじゃないか。
「さてと、痛くしないから色々としゃべってもらおうか」
「やなこった!」
隣からダニエルの不貞腐れた声が聞こえてきた。往生際の悪い奴だ。
「ほお、いい根性だな。若造が!」
「あなたたちの乗ってきた資源探査船のメインコンピューターを調べれば、黙っていても、かなりのことはわかりますよ。協力してくれませんか?」
不毛なやり取りに割って入った背の高いきれいなお姉さんはプラチナブロンドで、肌は白磁のように滑らかで白く、瞳は温かみを感じる濃い碧だった。
スキンヘッドのおやじと違って、物腰は丁寧でやわらかで、育ちの良さが感じられた。
僕は首を絞められた時に感じた柔らかい背中の感触を思い出した。こんな時に僕は一体何を考えているんだろう。
不謹慎といえば、資源探査船スズカゼのメインコンピューターを解析されると、通信履歴から僕とダニエルが恥ずかしいタイトルのB級映画を見ていたことが分かってしまうのではないかという思いにとらわれた。それを、このきれいなお姉さんに知られるのは相当恥ずかしい。
「わかりました。協力します」
「おい!」
ダニエルが不機嫌そうな唸り声を上げたが仕方がない。
きれいなお姉さんに悪い印象を持たれるのと、ダニエルの機嫌を損なうことのどちらが重要かは深く検討するまでもない。僕は包み隠さず、僕たちの名前、所属、船名、航海の目的などを説明した。
「ということで、怪しい者じゃありませんから釈放してください」
説明が終わると僕はさっそく交渉を開始した。
ベッドに括り付けられているこの状況では、口を動かすこと以外に状況を改善する方策がなかったからだ。
「ノーラ、身元確認はできたか?」
金髪のイケメンが、腕につけた携帯端末を操作して何かを調べている長身のお姉さんに話しかけた。本当に憎らしいくらいのイケメンだ。彫が深く、どちらかというと甘いマスクで、それでいて誠実さを感じさせる。
「はい、キャプテン。ダニエル・ダテは三世代目の火星人です。経歴も申告通り、特に怪しいところはありません。しかし、もう一人のマサヤ・マツダイラは極東エリア出身の生粋の地球人です。ただ、つい先日、地球連邦宇宙軍を不名誉除隊になっており、地球の市民権は剥奪されています」
ノーラと呼ばれた長身のお姉さんは資源探査船スズカゼのメインコンピューターにアクセスして僕たちの身元をチェックしていたらしい。裏を取るのは必要なことだと思うが嫌な感じだ。映画の視聴履歴は見ていないだろうな。
「表向きはな」
スキンヘッドのおやじが唸り声を響かせた。
「どういう意味ですか? カーンさん」
僕もスキンヘッドのおやじが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「地球の市民権を剥奪されていることになってるらしいが、地球連邦宇宙軍の情報部なら、その程度の小細工はするだろうさという意味だ」
「えっ?」
僕は思わず声を上げてしまった。どうも僕が軍のスパイではないかと疑われているらしい。
「どうします? キャプテン」
ノーラが長身のイケメンを仰ぎ見た。
「残念ながら現時点では釈放するわけにはいかないな。しばらく様子を見よう」
キャプテンの有難い判断で、僕たちは引き続き軟禁状態に置かれることになった。
ふと横を見ると、ダニエルがジットリした視線を僕に送っていた。
その目は『お前のせいだ』と言っているように見えた。




