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第12話 射撃訓練

 宇宙は本当に広くて、そして、とても孤独だ。

 先日、『アスクレウス資源開発』という会社の資源探査船とすれ違ってから数日間というもの、私たちは、私たち以外の存在に出会うことはなかった。

 毎日が訓練とトレーニングで過ぎ去っていく。

「全く実感がわかないと思うが、現在、宇宙巡航艦ペルセウスは、秒速三〇キロで航行中だ。ペルセウスの周囲は電磁シールドで守られているが、飛来物には気をつけろ」

 リヒャルト・リシャーネク軍曹の声がヘルメットの中で響いた。

「サー・イエス・サー」

 私たち装甲擲弾兵は、装甲強化宇宙服に身を固め、宇宙巡航艦ペルセウスの外部装甲板の上に立っていた。その数十九人。

 空気がないので風がなく、周囲に天体が見えるわけでないので風景も変わらない。漆黒の宇宙の闇が広がるだけだ。移動している実感がまるでないので、軍曹の言うとおり、つい油断してしまいそうだ。

「これより射撃訓練を開始する。成績の悪い奴は訓練終了後、追加でトレーニングだ。気を引き締めろよ!」

「サー・イエス・サー」

 殊更、高圧的は発言は、部隊長のレオンハルト・レンバッハ大尉だった。

 一人だけ、ヘルメットの額にドリルのような角をつけ、両肩に黒い焔のデザインを入れた装甲強化宇宙服を身に着けている。私たちから少し離れたところで、偉そうに腕を組んで立っていた。

 私は内心むっとしたが、絶対服従の『サー・イエス・サー』という言葉以外の答えなど、私たちには用意されていない。

 私たち兵隊に求められているのは感情を押し殺して、マシーンのように命令に従い、ただひたすら任務を遂行することだけだ。

「標的のドローンは1分間飛行する。制限時間の間、狙撃モードで何発命中させることができるかを競う。射撃姿勢は立ち撃ちだ。飛行パターンは、その都度変わるから、前の奴の動きを参考にしようとしても無駄だぞ」

 訓練内容の解説をしたのはリシャーネク軍曹だった。

 私のすぐ近くにいるヘルメットに黒いコブラのパーソナルマークを付けた装甲強化宇宙服の主だ。彼のおかげで私のささくれ立った心は少し落ち着いてきた。

「順番に一人づつ合計三セット行う。では、最初はイングラム一等兵から」

「はい!」

 名を呼ばれた私は一歩前に出た。手にしたレーザーライフルを連射モードから、狙撃モードに変更する。

 装甲擲弾兵の本来の装備は、実体弾を発射する電磁誘導ライフルだ。しかし、射撃訓練では、電磁誘導ライフルと同じ大きさ、形、重さにつくられた訓練用の低出力レーザーライフルを使用するのが常だった。

 訓練用のライフルは微弱なレーザーエネルギーしか発射しないので、何も破壊することはできなかったが、ドローンにつけられたセンサーは、そのエネルギーに反応し、命中したか否かをジャッジすることができた。

「ドローンは五〇メートルほど離れた場所で動き始める。準備はいいか?」

 軍曹が腕で示した方向に、白地に黒丸が描かれた小さな標的が見えた。実際の黒丸の大きさは人間の胸部くらいだ。

 私は外部カメラが広角モードである事を確認して、ライフルの銃口を標的に向けた。

 望遠モードにしておいた方が遠くの標的はよく見えるが、それだと動きのある標的には対応できなくなる。

「大丈夫です」

「よし、では、はじめ!」

 声と同時に引き金を引いた。まずは一発。

 黒丸の中心が赤く光って、命中したことを知らせた。

 次の瞬間、ドローンは急上昇した。

 動きを追いながら引き金を引く。なかなか当たらない。

 右に方向転換し、停止し、下降する。予想以上に激しい動きだ。

 銃口が標的を追いきれない。

「くっ」

 大尉の罰トレーニングなんか食らうものかという思いが強すぎた。

 時間がどんどん過ぎていき、悔しさで頭が熱くなる。

 だが、指先に力が入って、引き金を引いた瞬間に銃口がぶれる。

 当たるものも当たらない。

 私は必死で自分を落ち着かせた。

 でも、一分間という短い時間に、平常心を取り戻すことはできなかった。

「やめ」

 リシャーネク軍曹の声がヘルメットの中に響いた。

 命中したのは、結局、最初の一発だけだった。

「どうした? 調子でも悪いのか?」

 軍曹は私のことを真剣に気遣ってくれた。

 以前はもっと射撃の成績は良かったはずだ。本当にどうしたのだろう。

 結局、三セットやっても、私の成績は部隊で最下位だった。

 私は屈辱感にまみれながら、レンバッハ大尉から、追加のトレーニングを命じられた。

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