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2、感染症対策を決意しました。

 

 聖堂で具合が悪くなったとして、私は両親に連れられて、公爵邸まで先に帰ることになった。

 

 帰宅してすぐに私は自室のベッドに横になる。実際に頭が混乱していたので、こうしてゆっくり考えられるのはありがたかった。


 まず気にかかったのは、私が火炙りになった時の両親の処遇である。

 実の娘が魔女認定などされたなら、いくら公爵と言えど、無事には済まないだろう。


 ゆっくりと記憶を辿ると、私の両親への嫌疑は、聖女シルヴィが晴らしてくれていたのを思い出した。

 私への嫌疑を晴らすのは間に合わなかった聖女は、それを悔やみ、私の両親であるオルレアン公爵全体への嫌疑は、必死に頑張って晴らしてくれたのである。

 聖女マジ聖女であった。


 このため、オルレアン公爵への処遇は、一時不問に付される。

 けれどこの後、帝都に流行病が蔓延し、その原因が私の怨霊だと囁かれたことから、再びオルレアン公の立場は悪くなるのだ。


 ペスト。

 黒死病とも呼ばれる、恐ろしい病気が、この時期中世ヨーロッパを席巻し、おびただしい数の死者を生み出した。

 更に目に見えない病原の恐怖は、疑心暗鬼と人種差別を生み、この後の歴史にまで暗い影を落とす。

 授業で習った、それは恐ろしい世界の歴史だった。


 小説『アンフィニ・アフェクシオン』の舞台は、その歴史を元に作られていた。

 この世界を、聖なる力を使って浄化することができたら良いのに。

 そんな願いが込められていたのかもしれない。


 流行病、それは前世の私の死因でもあった。


 未知のウイルスは、時代を変えても、いつでも人類の脅威である。


 もしもこれからこのウイルスが流行ると分かっていれば、もっと感染対策に力を入れていたのに、と、私は病院のベッドで思っていた。


 世界的感染、それがいつどこで起こるか分かっていれば、もっと最初から封じ込める方法も見つけられたはずだった。


 そこまで考えて、私はハッとした。


 私は、知っている。


 私は、この世界において、いつどこでどんな風にウイルスが発生し、どんな風に感染が拡大していったかを知っていた。


 この知識を利用すれば、この世界において、黒死病の蔓延を防ぐことができるかもしれなかった。


 もしも私が予定通りに火炙りで死罪になるとしたら、残された時間はたったの3年間。

 その間に、感染症対策を万全にして、死後にも感染症が発生しない街を作る。

 それは難しいミッションだった。

 けれど同時に、やりがいのあるミッションでもあった。

 私は死んでも、国民は殺さない。


 私はこうして、悪役令嬢としての残された時間を、感染症対策のために捧げる覚悟を決めたのだった。


 目標は決まった。

 次に、決めなくてはいけないのは、目標達成のための方法だった。



「カミュ、具合はどうだい?」

しばらく思案していると、私の具合を心配したお父様が、わざわざ部屋までお見舞いに来てくれた。

「もう大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありませんでした、お父様。」

私はベッドから起き上がると、お父様に挨拶をした。

「まだ起きなくて良いんだよ、寝てなさい。」

そんな私に、お父様はとても優しくしてくれる。


「明日は聖女お披露目の、王宮でのパーティーに呼ばれているけど、カミュはまだ休んでいた方が良いね。」

私の頭を撫でながら、お父様はそう、私を気遣ってくれた。

「明日…。」


 聖女お披露目のパーティー、それは小説ではどんな風に書かれていただろうかと、私は頑張って思い出そうとした。


 聖女お披露目パーティー、そう、その中でカミーユは、婚約を一年後に控えた王太子に会うために、精一杯着飾って、パーティーに臨む。


 けれど、聖女の美しさと清らかさに心を奪われたシャルマーニュ王太子は、婚約者候補のカミーユ令嬢には目もくれず、ひたすら聖女シルヴィとばかり話をする。


 カミーユ令嬢が、初めての屈辱に、聖女シルヴィを憎み始めるイベントである。


 うん、最悪だ。行く価値なし。


 私は一人で頷いた。


 私は最初から顔を出さないから、王太子様には、心ゆくまで、存分に、聖女様と親睦をお深めになられましたればよいのです、と思う。


「カミュ?」

「ああ、申し訳ありません、お父様。やはりまだ少し気分が優れないので、明日のパーティーは欠席させてください。」

「そうだね、無理はしないのが一番だ。明日はゆっくり身体を治しなさい。」

「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありません、お父様。」

「何が迷惑なものか、大丈夫だからゆっくりしなさい。」


 私の言葉に、お父様は優しく微笑むと、頭を撫でてから、部屋を後にしてくれた。


 優しくて大好きなお父様、大切なお父様にも、出来る限り辛い思いはさせたくないと思う。


 できれば、火炙りになるなんていう未来もごめん被りたいけれど、そこまで回避できるかどうかはわからない。


 ひとまず、今私のできることは何なのか、必要なことは何なのか、それを知るのが大切だった。


 私はベッドの上にノートを持ってくると、ベッドに座ったまま、まず今必要なことから書き出していくことにしたのだった。


 

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