31話 強さこそルール
「許せない」
お兄様を愛玩奴隷にした? 何をふざけたことを言っているのですか?
「猿園というのはね、女王がアルデマグラ公国の人間を奴隷商から買い取って王宮の中庭に放って無残な姿を見て楽しむものさ」
「今すぐ乗り込みましょう」
お兄様をなんとしても助けなければ。
私はすぐにここから飛び出していこうとしますが、グレイ様が私の腕を掴みます。
「何をするのですか!?」
「諦めろとは言わない。だが策もなく突っ込む場所じゃない」
「行けるわよ! 行けるでしょ!? ここにいるみんななら!」
私はグレイ様の腕を振り払おうとしましたが、更に強く捕まれバランスを崩し転びましたわ。
「いたた」
「冷静になった?」
「え、ええ」
そうよね、いくらなんでも一国の城に攻め入る戦力じゃないわよね。
ここにいる人数は私を含めて…………いえ、私を除いて考えますと六人。そこに私を足して合計戦力は三人。
私が乗り込まなければいいのでは? 私だって今回参加しなくてもいいですよね? 公爵令嬢は戦争で何もしなくてもいいはず。
でも、それでも…………私の知らないところで私の知っているみんなが苦しんで帰ってくるのを信じて待って、何もしないで部屋で過ごすなんて…………
「もういや。ねえグレイ様教えてください。私のようなポン……」
「ポン?」
この言葉を口に出すのが恥ずかしい。それでも恥をかいてでも避けられないことが今ここにある。
「私のようなポンコツでもできることを! 何か、お兄様を救える何かを教えてください!」
みんなが私を見ている。私が自ら自分をポンコツだと認めたことに驚いている。
エレナだけがなぜか誇らしげな表情をしているのは、私の発言を予期していたのかもしれませんね。
エミリアさんは、さきほどから私の足元でうつぶせになっていますので、お顔を拝見できませんが、多分きっと驚いています。
むしろ、そこにうつぶせになっていることに今、気付いた私が驚いています。
グレイ様が私の腕を強く引っ張り、私を思いっきり抱きしめました。
「君がここまで危なっかしいじゃじゃ馬だって知っていたら、あの日君にすぐ婚約をしていただろうね」
「グレイ様はどういう風になると思ってあの半年後までにとかいう面倒な条件を?」
「ああ、どうせ何もできないだろうなって思ってました。または失敗続きで引きこもるか泣き言を僕に言いに来るかなって」
小さな声で、泣き言を言いに来る君が見たかったと聞こえた気がしてなぜか背筋が凍りました。
そういえば、この王子ってこういう変態でしたね。
「イサアークさえいなければ、そうなっていた気がします。なんかむかつきました。私が殴っても意味がないので馬に蹴られてください」
「話を戻そう」
戻して欲しいけど、逃げられましたわ。
「君にできることだったよね? どんなことでも覚悟できているかな?」
「兄を助けられるなら」
私の覚悟が伝わったのでしょう。グレイ様は私にあることを教えてくださりましたわ。
「え? 本気?」
「うん、きっと女王唯一の弱点をつけるのはルーだけだよ」
「もしこの攻撃が効いたとしても、私はグレイ様をぶん殴りたいです」
「いつでもおいで。でも怪我しないでね」
私が殴る側なのに、私が怪我する前提なんですね。気に入りませんが、わからなくもないです。
グレイ様から教えて頂いた、私だけができることの為にエレナに用意して頂くことになりましたわ。
「あとはどうやって王宮に攻め行くかですね」
私がそう言いますと、オルガお義姉様が、声を発しました。
「僕は過去にジバジデオ王国に訪れたことがあるのだが、古い知り合いにあたってみようと思う」
「その方は安全なのでしょうか?」
「デークルーガ帝国は強い者がルールだ。勝てばアルデマグラ公国民だろうが、いうことを聞いてくれる」
敵国という概念は御座いませんのでしょうか?
初めて来る土地。初めて知る風習のためいまいち理解に追いつきませんが、そういうことでしたら、大丈夫ってことですよね。
オルガお義姉様のお話を聞いたジェスカが手を挙げて質問してきました。
「なあ、つまりだ。門番を毎回倒して、通して貰えばいいんじゃないか?」
正面突破ですか。ですがそれは何人と連続で戦うことになるかわからないですし、こちら側も人数は必要ですよね。
「もう作戦はそれで行きましょう」
「雑すぎやしないかい? まあ、ルーがそれでいいならいいけど、こちら側は誰も負けちゃいけないね」
負けたら相手の言うことを聞くのがルールと言うことは、負けたら敵になるということですかね? そのルールはアルデマグラ公国民が言うこと聞く必要ってあるのかしら?
でもそうね、負けても言うことを聞かないなら、相手も聞いてくれなくなってしまいそうだわ。それは困る。
「つまり出てくる門番や衛兵は片っ端から倒し、いうことを聞かせて、こちら側は無敗で玉座まで行けばいいってことですね」
「まあ、そうだけど」
オルガお義姉様は心当たりのある方の所に向かって頂き、エレナは必要なものの用意をしにでかけました。
オルガお義姉様とご一緒に行動されていたオーロフには一度アルデマグラ公国に帰って頂き、他の兵を呼んで頂くことになりましたわ。
「あの、オーロフ」
「ん? なんだよ?」
本当に騎士なのって喋り方のオーロフ。ただし声と顔が完全に女性。さすがはヨハンネス兄。
「できればヨハンネス、いえユーハンはこちらに呼ばない様にお願い致します。そしてできれば増援が来てくだされば、フランスワ家の貴方もアルデマグラ公国で待機して頂ければ」
女王アンジェリカの真の目的は、ヨハン・フランスワの子孫を殺すこと。
つまりヨハンネスとオーロフ。このお二人はアンジェリカのターゲットにほかならない。であればジバジデオ王国にいない方が安全のはずですわ。
「それはできねえ。騎士として俺は働くし、ユーハンの奴もお前の為に必ず来る。そもそもお前自身だってこれからデークルーガ帝国に乗り込むのに、ユーハンにはダメ? 馬鹿言ういうな」
オーロフに言われたこと。返す言葉もありませんわ。私、これから自分を狙っている国に向かおうとしているのに、ヨハンネスにはそれをダメって彼は騎士。私は令嬢。
本来、令嬢である私が出向く方がおかしいという事態。
「で、ですが私は命を狙われていませんし」
「男ってのはな。自分の命より愛した女を取られる方が問題なんだ」
「はぁ?」
私、まだヨハンネスのものじゃないんですけど? いえ、そういう意味ではなくてですね。
つまり、奪われることは大問題と考えるヨハンネスと、命を狙われることが大問題と考える私。
お互いの主張が異なっていてはきっと私の説得なんて聞く耳持たないでしょうね。
「わかりました。もしヨハンネスがこちらに気付いてもなるべく止めてください」
「まあ、期待しないでくれ」
オーロフはそう言って馬に跨り、一度アルデマグラ公国に帰って頂きました。
さてと、残ったのは護衛のジェスカにグレイ様。それからなぜか視界にいないアレ。踏み心地は最悪。
「エミリアさんちょっといいかしら?」
「ふぁいおべえふぁま(はいお姉様)」
あからさまに不自然な声の返事。
恐る恐る確認すると、私はどうやらエミリアさんの横顔を踏んでいたみたいです。
「ええ、気持ち悪い」
「ありがとうございます!! でも足はそのまま! そのままが良いです!!」
気持ち悪い。声にも出せないじゃないよ。本当にもうこの人は大丈夫?
可哀そうにすら感じない彼女を無理やり起こしてさしあげようとしましたが、私には無理なのでジェスカにお願いしました。
「その変な嬢ちゃんって一応さ。貴族様なんでしょ? 俺平民なんだけど乱暴に触っても大丈夫なんだよな?」
「私から引きはがす目的なので問題ありませんわ」
そういわれたジェスカがエミリアさんの脇腹を掴んで持ち上げ、エミリアさんがじたばたする様子もなく…………なんでしょうね、突然大人しくなってしまいましたわ。
「なんで私じゃないとそこまで大人しくなるのよ」
「いえ、その暴れるメリットがありませんし、お姉様に絡みつくのはまた数秒後でもいいからとにかくこの方の拘束が終わるまで大人しくしていようかと」
数秒後に絡みつくののですね。
「ジェスカ、何もしていない時は令嬢捕まえててくださる? あ、縄縛りはダメよ? 抜け出せそうだから」
「ええ、それはある意味俺が拷問受けてる気分ですよ姫さん」
「でも縄抜け、しそうでしょ?」
「はい」
さてと、実質グレイ様と私だけになってしまいましたが、どうしましょうか。
グレイ様しかいない部屋に戻り、ちょうど紅茶を入れている王子を目撃。
メイドも執事もいない。私とグレイ様という組み合わせだと当然給仕はグレイ様しかできないのですね。
王子に何をやらせているのかしらね。
「飲むでしょ?」
「頂きます」
グレイ様に入れて頂いた紅茶を頂くため、私はしぶしぶグレイ様のお隣に腰をおろしてお義姉様やエレナ、オーロフが引き連れてきてくださる増援を待つのでした。
三章長いですよね。分けようか迷ってます。
今回もありがとうございました。




