新しい一面を知りました
目的の店の前は、すでに人だかりができていた。
繚の背丈では見えそうにもない。
「これじゃあ見えませんね...クレイグ様、私の代わりにどんな魚か見て教えてください!」
「こうすれば見えるんじゃないか?」
「うぉお!」
彼女の脇に手を入れて持ち上げると頭上から色気のない声がした。
そのまま彼女を肩に座らせ、足と腰を支える。
うまくバランスが取れないのか、私の頭にぎゅっと抱きついてきた。
女性特有の柔らかさと、なんだかいい香りに顔が熱くなるのを感じた。
「こ、これ恥ずかしいです////
おろしてくださいー///」
「こうしないと見えないんだからしょうがないだろ?
ほら、解体が始まったぞ」
背に腹は替えられぬとおもったのか、そのままの格好で魚へと視線を移し食い入るように見つめ始めた。
特大のまな板に載せられた魚は本当に大きく、解体するのも二人係での作業だった。
あまりの迫力に私も繚も目が釘付けになった。
所々で周りの客から歓声もあがりながら、解体ショーは終わった。
「よし、解体はここで終了だ!次は販売に入るぞ!まずは一番貴重な頭の肉と頬肉だ!味は絶品だぞー
欲しい物は手を上げてくれー」
「300ティル!」
「500でどうだ!」
「1000ティル!」
次々と手が上がり、値段もつり上がっていく。
「うわー、すごいですね!
みんなこんなに競うほど美味しいんだー」
「5万ティル!」
「5万きた!他はいないか?」
「10万ティルでどうだ?」
「ク、クレイグ様??」
繚の静かにつぶやいた声を聞いて、私はいつの間にか手を上げ競りに参加していた。
いきなり入って行ったから、周りの客の目が一気に私たちへと集まる。
一気に値段を上げたせいで他に手を上げるものはいない。
「他はいないな?では、10万ティルの旦那がこの部位を購入だ!
あっちで会計と商品を受け取ってくれ!」
「クレイグ様!こんなに高級な部位を買って大丈夫ですか!?」
「繚が食べたそうにしていたからな。
私もどんな味か興味があるから、料理のほう頼むぞ。」
「こんな高給食材使ったことがないので、失敗しないように頑張ります」
繚を肩から降ろし、会計を済ませる。
受け取った商品は値段の割に量が少ないが、きっと味は最高なのだろう。
買ったものをバスケットに入れ魚屋をあとにした。
市場の中を歩きながら他にも必要なものを買っていく。
「最後は野菜を買いに行きますね♪」
「ウォン!ウォン!」
「ああ。では行こう。」
野菜と聞いたレティは興奮して繚の足元をぐるぐると回っている。
次の目的地へと向かう途中、路地裏から子どもの声が聞こえてきた。
「やめて!それは妹たちにパンを買う大事なお金なんだ!」
「うるせぇー!お前が俺にぶつかってきたから、慰謝料にこの金をもらってやるって言ってるんだよ。
わかったらとっとと失せろ!」
「だめー!誰か助けてー!」
「お前いい加減にしろ!」
ガラの悪いゴロツキが、10歳くらいの子どもから金を巻き上げようとしている。
周りには多少の通行人がいるが、みんな見ないふりをして行ってしまう。
ゴロツキが足にすがりつく子どもに、手を振り上げ殴りかかろうとした時私が止めに入ろうとするよりも早く動いたものがいた。
バシーン!
飛び出したのは私の前を歩いていた繚だった。
子どもを抱きしめ守り、ゴロツキの拳が彼女の背中を思いっきり殴る。
その光景は俺の怒りを一気に燃え上がらせた。
「おま「あなた。こんな子どもからお金を取って恥ずかしくないんですか?今すぐお金を返してこの子に謝ってください。」
「あ?急に出てきて文句言ってんじゃねぇよ!
こいつが路地から飛び出してきて俺にぶつかったから、慰謝料もらおうってだけだろ?」
「その程度で怪我をする訳ありません。むしろ、それくらいで怪我するほど軟弱な体なんですか?」
「このクソ女!言わせておけばズケズケと!」
「あなたみたいな最低野郎なんてこの世から消えてください。社会のゴミです。さ、早くお金を返しなさい」
「うるせえ!黙れ!
う?うぉ!」
私が止めに入るよりも先に繚がゴロツキに向かって辛辣な言葉を吐いた。
いつものニコニコしている彼女からは想像できないほど冷たい声と表情だ。
再び殴りかかろうと拳を上げたゴロツキの腕を掴みそのまま上へ持ち上げる。
「うちのメイドに手を上げたな?この罪どうやって償うんだ?」
「お、お前は風使いのシルヴァ!なんで魔剣士団団長がこんなとこに!?」
「ウー!!!」
「ほら、飼い主を傷つけられてレティも怒ってるぞ?」
「く、くそ!こんな端金返してやるよ!
クソ女、おぼえてろよ!!」
セオリー通りのセリフを吐いて、ゴロツキは逃げていった。
情けないやつだ。
まあ、私の家の者と知ったら今後繚に手を出すこともないだろう。
「お姉ちゃん、ごめんね?背中大丈夫?」
「全然、大丈夫よ!それよりハイ。これ大事なお金でしょ?」
「ありがとう!これでパンを買って帰れる!」
「このパンを持って帰りなさい。そのお金は大事に取っておくといい。」
「シルヴァ様!こんなところで国の英雄に会えるなんて!ありがとうございます!」
何度も何度もこちらを振り返り、お礼を言いながらその子は帰っていった。
さっきまでの冷たい表情ではなく、暖かい笑顔で子どもと接する繚はまるで母親のようだった。
まだ座り込んだままの彼女に、レティも心配そうに顔を優しく舐めている。
「繚、大丈夫か?」
「はい!ちょっと背中が痛いだけなので、もう少ししたら立てると思います!」
「無理は禁物だ。家までは私が連れて行こう。」
「あ!あ!また!これ、嫌ですー////」
膝裏と脇に手を通し横抱きに抱えあげる。
恥ずかしいのか顔を両手で覆ってしまったが、怪我のことが心配なのでなんと言われようともこのまま帰ることにする。
「野菜は、レティ用くらいはまだ家にあるか?」
「はい。フルーツはないけど、いくつか野菜ならまだあります!」
「レティ、今日は繚もこんな状態だ。
残り物で我慢してくれ。」
「ウォン!ウォン!」
レティも繚が心配なのだろう、もちろんというように返事をした。
腕の中で顔を赤くして文句をいっている彼女からはさっきの冷たい表情を想像することができない。
かなり怒っていたのだろう。
「繚はいつもあんなふうに子どもをかばったりしているのか?」
「そんな、いつもではないですよ?でも、困ってる人とか見ると放っておけなくて...でも今日みたいに殴られたのは初めてです!」
「....人を助けるのはいいことだが、怪我をするようなことはやめてくれ。私の肝が冷える。
今回は武器を持っていなかったからまだ良かったが、もしナイフでも持っていたら怪我だけじゃ済まないぞ?」
「.....わかりました」
この返事、絶対また危険なことに首を突っ込むな。
「今後買い物は一人で行くのを禁止にする。」
「えー!それでは、どうやって買い物にいけばいいんですか!?」
「極力私がついていくが、無理なときは部下をつけよう。荷物持ちもそいつらにさせるといい。」
「そんな!ただのメイドの買い物に剣士団の方たちを付き合わせるわけにはいきません!」
「ただのメイドではない。うちのメイドだ。
どうするかは私が決める」
「そ、そんなぁ...」
自分でもなぜこんなに彼女のことが心配なのかわからない。
貴重なレシティアントに選ばれたからなのか、いやそれ以上の感情が自分の中に芽生えつつあるのがわかってはいるが今はその感情に名前をつけるのはやめておこう。
明日からは繚と買い出し係を考えなければ。
今後、その係への立候補者が多く魔剣士団でひと悶着が起きるのを今の私は知る由もなかった。
なかなか更新ができず、すみません。
リアルのほうが忙しく、しばらくのんびり更新になると思われます↓
ご迷惑おかけしますが、よかったら読んでくださいね♪
次回から繚視点に戻りまーす!




