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炊飯器内空間

ここまでの登場人物


「八坂」・・・主人公。オカルト研究会の部長で大学3年生

「柳玲奈」・・主人公の同輩女子。オカルト研究会の部員で人文学部の3年生

「弘崎和也」・主人公の後輩。オカルト研究会の部員で人文学部の2年生のマッシュルームヘアの男。


「バグー」・・粘土板の中で「運命の神」とされ、古代のバビロンの都を破壊したと記録されている。



これまでのあらすじ。


オカルト研究会は、ネット上で公開されている「新発見粘土板10万枚」の内の300枚を解読。その結果、バビロンの都を焦土にせし「運命の神バグー」が現代に蘇るとの予言が記されていることが判明した。さらに予言を精査する内に、今日中に部長の八坂のアパートに「運命の神バグー」が到来するとの内容であるという結論に至ってしまうのであった。

ノストラダムスの大予言をはじめ、終末予言というものは遠い未来に起こると予言されているから説得力があるのである。我々が発見した終末予言が示す災厄の日は、直近過ぎるが故に信憑性が低くなってしまった。


と言うものの一方で出現場所に俺のアパートが選ばれている••。この偶然はどう解釈して良いものか。全部、弘崎が仕組んだ罠なんだろうか?コイツがいきなり「ドッキリ大成功」とか言い出したら、洒落にならないよ?まあ考えても仕方が無い。結果はじきに判明するのだ。俺のアパートで••。



「はじめて部長の部屋に来ましたけど、いいですね〜。大学生って感じっすね」


「そうかな弘崎くん?今時、エアコンもない部屋って結構なものよ」



終末予言が炸裂することを楽しみにしている2人はしっかり俺の部屋に上がっていた。そしてこの部屋で運命の神・バグーの降臨を見届けると息巻いている。困るんだよね、暑いから。何しろ俺の住む六畳間はエアコンがないので、この季節は普段でも蒸し暑くて往生する。


その上、マッシュルームヘアの男子学生が混じるとさらに湿度と温度が増してしまう。女子の柳がいなかったら、男2人の暑苦しさで室温40℃を越えちゃうんじゃないだろうか?



「だけど来る途中思ったんですけど、八坂さんのアパートの周りって妙ですよね。民家は多いのに全く人は全然歩いてないし。車も通ってないんですね」


「そうか?今日はたまたまじゃないか?お前らは予言を意識し過ぎるから、そんな事も予兆に思えるんだよ」


「ああ!楽しみだわ〜。世界を破滅させるような神が八坂君の家に現れるのよね!」



本当に神が現れたら彼ら自身も終わりだということを、2人は分かってるんだろうか?予言を信じてるのか信じないのかよく分からない態度だな。それにしても小汚い六畳間で齢二十歳になろうという若者3人が運命の神バグーの降臨を待ってるこの姿ときたらどうだ。なんて不健康なんだろう。


そうこうしてる内に時刻は既に午後7時。柳は床に正座したまま、キョロキョロと部屋の中を眺めていた。



「八坂くん家は色んなオモチャあるのね〜。棚の上はルーピックキューブだらけじゃない。5個ぐらいはあるわよ」


「まあね。練習用に、観賞用、学校に持っていく用。あと4✕4キューブの練習用と観賞用あるんだ」


「そんなにいるの?1個で十分でしょ」



鞄から学校に持っていく用のキューブを取り出して、柳の前で高速でカチャカチャと回してみせる。一瞬で一面を青色に揃えてしまうこの才能。俺にかかれば、こんな作業は5秒もかからない。



「凄い凄い!就活に全く役に立たない才能だけれど、凄いわ〜」



とっとと一面揃えたところで、キューブをポケットにしまった。心なしかルーピックキューブの色がいつもより澱んでるように見えるけれども。まあいいや。


それにしても2人の目はキラキラと輝いている。出現予定地が自分の家だと思ってくれよ。こっちは予言に当たってもらっちゃ困るんだよね。とは言うもののオカルト同志として、彼らの興奮も理解できる。せっかくだから今日は同志達を労わってやろうではないか。



「よし。運命の神を待つまでの間、レトルトカレーでも食べよう」


「え?作ってくれんの八坂くん」


「マジですか部長。ご馳走様です」



浮かれた彼らに一言忠告せねば。



「でも飯は今から炊くよ。そもそも炊飯器に電源を入れてないしな」


「今からだと1時間ぐらいかかっちゃうわよ!」


「まあ気長に待とう。しかし予言も日付ってのみってのが良くないよね。待つ方の事を考えて出現時刻も書いておいてくれないと親切じゃないな」



その時、スイッチが入っていないはずの炊飯器からブザーが鳴りはじめた。米が炊けたことを意味するメロディーである。



「な〜んだ八坂くん。もう炊けてるんじゃない。カラかうのやめてよね」


「••••バカな」


「部長、お米炊けたみたいですよ。でも蓋が開きっぱなしですけど」



俺はガクガクと震えた。



「そんなはずはないよ!炊飯器の電源なんて入ってないだろ。ほらコードが抜けてるし。っていうか炊飯器の蓋なんて誰が開けた?柳か?」


「私じゃないわよ。自分じゃないの?八坂くんの家なんだから」


「違うよ俺じゃないって」



しばし部屋に沈黙が訪れる。ここで導き出される答えは唯一。



「も・・・もしやこれはオカルト現象ですか部長!?」


「そのようだ。これが我々が探し求めていた現象」



弘前は慌ててスマホを取り出した。



「これが噂のポルターガイスト現象か。動画撮影しなきゃ!い・・・いつでもこいっ」


「頑張ってね弘崎くん」


「弘崎、声が震えてるぞ。あと柳、俺を盾にしないでくれるか」



大学生3人が炊飯器にビビってる姿はさぞかし滑稽だったろう。でもって動画撮影すると言い出した弘崎が一向に炊飯器に近づかない。しかしいつまでも炊飯器ごときにビビっていられないので、俺は覚悟を決めて炊飯器に立ち向うことにした。



「や••やめといた方がいいですよ部長!蒸気が吹き出してますし危険です」



弘崎の制止を振り切って炊飯器の中を確認してみると、目にしたのは衝撃的な光景だった。


湯気が吹き出す炊飯器の中にあったのは米でも空の釜でもなく、果てしなく広がる空間だった。どこでもドアの行き先を上空5000メートルに設定してドアを開けたような景色。炊飯器の中がどこまでも続くお空みたいなのだ。どういうこと?



「こ•••これは••見ろ、柳、弘崎」



俺は炊飯器を持って、中の様子を2人に見せた。



「嘘っ!何よこれ!」


「•••‼こんな•••バカな••」



ありていに表現するなら炊飯器の中は異次元の世界と言ったところか。「異次元って何だ!時間含めて4次元だ」という野暮なツッコミはしないで欲しい。



「はっ!運命の神バグー降臨の予兆なのよ!これが神が通ってくる道なのよ」


「どゆこと柳?」


「だから、バグーはここから現世に出てくるの。やだ怖いっ!」


「マジ!?」


「僕もそう思います。部長の炊飯器は、まさに異界につながるトンネルという感じです!」



異界か。素敵な響きなんだけれどな〜生活に支障さえなければ。しかしながら異界に通じる炊飯器では米が炊けないし、なにより俺が部屋で寛げない!



「ここからバグーが出てくるって寸法か••。ならば今の内にこの炊飯器を破棄したほうがいいかもしれん」


「そんな勿体無いです部長!歴史的大発見なんですよ!終末予言が正しかったという証拠なんです。これはとっておきましょう」


「お前、自分の言ってること分かってるか?」



この瞬間、この世のものとは思えない凄まじい咆哮が炊飯器の中から聞こえてきた。その迫力たるや凄まじく、震え上がってしまう。



「きゃあっ!八坂君、その炊飯器の蓋を閉めて早く外に捨てて」


「いやっ!捨てるったってどこに!」



とりあえずもう一度だけ炊飯器の中を確認してみた。遠くを漂っているのでよく分からないが、咆哮主は巨大な生き物のようだ。謎の巨大生物が炊飯器内空間を自由自在に飛んでるのである。



「な••なんだアイツは!?」



比較しうる建造物などあまりない世界を漂っているヤツなので推測しかできないが、ワニの何十倍もある生き物のように見える。何者かは分からないが、その細長い風貌からここはオカルト研究会らしく「竜」と呼ばせてもらおう。(西洋タイプではなく東洋タイプの竜だ!)



「竜だ••!竜がいるぞ柳。見てみろ」


「無理よ八坂君!私、爬虫類駄目なの!」



柳はそう叫ぶと俺の後ろに隠れてしまった。代わりに弘崎が炊飯器を覗き込んでいる。



「信じられない!本物ですよ部長。しかもなかなかエキセントリックなヤツですね」



竜と表現したものの、その動きと言えば実に不気味だった。ユスリカの幼虫の如く、その細い体をくねらせている。さらにその体は半透明で、臓器も丸見え。様々な発光器がついており、そこから強烈な青色光を放っており、深海生物のような様相である••。



「よしっ!写真に撮ってやりましたよ部長。これが動かぬ証拠になるぞ!」


「あ、バカ!」



何故かフラッシュを使った弘崎のせいで、竜は俺たちの存在に気づいてしまった。すぐさま不気味な半透明の竜はその巨大な口を全開にして、猛烈なスピードでこちらに接近してきた。



「やべっ!」



しかしながら・・・この謎の空間に通じる出入り口が炊飯器の釜の大きさしか無いことが幸いする。つまりこんな巨大な化物に通り抜けることはできないのだ。竜が炊飯器のこちら側を攻撃しよう何度も顎を上下させて噛もうとしても、向こうの世界とこちらを繋いでいるのは炊飯器の釜だけ。当然届かない。


炊飯器の中を除きこんでも、化物の口の中が見えるだけだ。これならば安心安全である。ところが不運なことに牙の一つが、炊飯器の中から飛び出してきたのだ。その長さは1メートルはあるだろうか。飛び出した牙は俺の頬をかすって、部屋の柱に刺さった。


「ゲエエッ!危なっ!」


「きゃぁ!八坂くん!」


「くそっ」



バタンッ。牙が釜の中へと引っ込んだ瞬間、俺は全力で炊飯器の蓋を閉めた。全身から冷や汗が流れてくる。



「ハァー、ハァー。静かになったぞ••。蓋さえ閉めとけばなんてことなさそうだ」


「た•••助かったわね」


「あ・・・あれがバグーなんですかね先輩方?」


「そうだわ・・・。あれがバビロンの都を焦土にしちゃったのよ」



凄まじい恐怖を体験した俺は、とりあえずズボンのポケットからキューブを取り出した。そして3秒で再び赤面だけを揃えた。



「突然ルーピックキューブってどういうことなの!なんか怖いわよ八坂君!」


「いや!これは俺のルーティーンなんだ。これで平静が保てるのだ」



一旦心を落ち着かせると、再びポケットにキューブを仕舞った。そして俺は炊飯器を持って凛々しく立ち上がる。



「へへへ。蓋さえ閉めておけば何も怖くないってことはだね・・・諸君。我々は超常現象の証拠となりし炊飯器を手に入れたわけだぞ。冷静に考えれば、これはノーベル賞ものの大発見じゃなかろうか!」



だが部員達の反応は薄い。何故だ!?我々の長きに渡る苦労が報われるというのに。




「部長は野心家ですね••。僕はもう怖くてそれどころじゃないですよ」


「もうその炊飯器を捨ててきなさいよ。バグーが出てきたら危ないから焼却した方がいいわよ」


「何を弱気な事を言ってるんだお前たち!これは比類なき大発見なんだぞ。我々の勝利だ!」



彼らはネガティブに一連の現象を捉えているようだが、俺はポジティブに捉えるね。

やったのだ我々は。終末予言にうち勝ったのだ!


だって炊飯器の蓋を閉めちゃったんだからバグーも外には出られまい。これで俺は人類の救世主。そして我々「オカルト研究会」は、人類世界に新地平を齎すような大発見をしたわけだから、これから栄光の道を驀進するはずだ。


大学だって、あの蒸し暑い部室にクーラーぐらい用意してくれるに違いない!

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