迫る飛翔体
ここまでの登場人物
「八坂」・・・主人公。オカルト研究会の部長で大学3年生
「柳玲奈」・・主人公の同輩女子。オカルト研究会の部員で人文学部の3年生
「弘崎和也」・主人公の後輩。オカルト研究会の部員で人文学部の2年生のマッシュルームヘアの男。
「バグー」・・粘土板の中で「運命の神」とされ、古代のバビロンの都を破壊したと記録されている。
これまでのあらすじ。
オカルト研究会は、ネット上で公開されている「新発見粘土板10万枚」の内の300枚を解読。その結果、バビロンの都を焦土にせし「運命の神バグー」が復活すると記されてしまった八坂のアパート。3人が八坂の部屋に入ると、何故か炊飯器の中が異界につながってしまっているのであった。異界の中の竜に襲われそうになり、思わず炊飯器の蓋を閉めてしまった八坂だが、超常現象の証拠を得たと喜ぶのだった・・・。
ドンドンドン!
その時、激しく部屋のドアをノックする音が響いた。こんな感動的なタイミングに水を差しやがるなんて、一体誰だよ。
「新聞の勧誘かな。ちょっと断ってくる」
「待って八坂君!予言を思い出して。ドアの向こうにいるのはバグーかもしれないわ!」
突然、柳が変なことを言い出すので困った。
「どゆこと?お前が、炊飯器がバグーの通り道とか言ってたんじゃないか。あの竜じゃないのバグーって」
「そうなんだけどっ!でも玄関から入ってきてもおかしくはないわよね。予言的には」
そりゃまあ、粘土板には出現ポイントがザックリと示されていただけで、炊飯器から現れるのか玄関から現れるのかについては触れられてないけど。常識的に考えて炊飯器内の異界トンネルから来るもんだとは思うんだが・・・。
「ていうか柳。バグーって、ドアをノックしてから部屋に入ってくるような奴なの?」
「ノックぐらいできるわよきっと。運命の神って名乗ってるんだから」
「え?え?どういうイメージなのか分かんないぞ!」
我々の中で、バグーに対する認識がまるで一致してなかったようだ。まあ運命の神としか書かれてなかったので、どんな奴なのかを想像するのは無理というものなのだが。しかし徐々に弘崎の奴が、柳の意見に同意しはじめる。
「確かに柳さんの言うとおりかもしれません。予言は絶対だとすると、炊飯器の蓋を閉めたぐらいでバグーの到来を防げるとは思えません。迂闊にドアを開けるのは危険ですよ」
「いやだからっ。そいつ玄関から入ってくるのかよ!?」
2人が色々と忠告してくれたが、ドアをノックするようなご親切な神なら、十分に話し合えると思った俺。炊飯器を抱えたまま、恐る恐るドアを開けてみた。するとそこに立っていたのは緑色の神々しい神バグー・・ではなく迷彩服を着た大柄な男だった。
「八坂さんですね?避難命令が出てます。すぐにこの部屋から出てください」
「えっと。貴方は運命の神バグーですか?遠いバビロンからわざわざ我が家にようこそ」
「私は自衛隊員であります!時間がありません八坂さん。すみやかに我々の指示に従って頂きたい」
どうやらこの人物は運命の神・バグーではないらしい。だがあまりにも唐突なので彼が本当に自衛隊の関係者なのかも疑問である。単なるコスプレ好きの大学生という可能性もゼロじゃない。なんにしろ突然現れた自称・自衛隊員の指示に従うほど俺は従順ではないのだ。
「悪いんですけどこっちは今、歴史的大発見の最中なんです。それでは失礼」
そう答えてドアを閉じようとしたが、自衛隊を名乗る彼は必死にドアを閉じさせまいとした。
「聞きなさい!この地域に住む人は、貴方以外は全員避難してるんだ。もうすぐここに核弾頭を搭載したミサイルが飛んでくるかもしれないんだぞ!いや確実に飛んでくる」
「核ミサイルがここに?」
まるで話にならないと思い、全力でドアを閉めようとしたところに部屋の奥から柳と弘崎の奴がシャシャり出て、なんと彼に同調しやがった。
「ちょっとそこの自衛隊員さん!核ミサイルの話って本当なのかしら!?説明してくださる?」
「ずっと変だと思ったんですよ僕は!ここに来る途中で通行人もいなかったですし。すぐに逃げましょう部長。絶対やばいですって」
「な••なんだ突然お前らは!なんで信じてるんだこんな話を」
呆れてる俺をよそに、自衛隊員を名乗る男の呆れる与太話は加速していく。
「君達、落ち着いて聞きたまえ。今、世界中の核保有国がこのアパートに核ミサイルの照準を合わしてるんだ。それを理解して欲しい」
「はいっ?」
「自衛隊も厳戒態勢でいる。少なくともあと1時間以内に核ミサイルが飛んでくることだけは確実だ」
なんという噴飯物の話だ。なぜこのオンボロのアパートを核で狙う理由があるのか。更地にしたいのならもっとマシな方法があるだろう!
「私も詳しいことは知らない。だが古代メソポタミア文明の文献が解読された結果、このアパートは人類にとっての脅威が発生する地点だと世界中の首脳達が判断した。この決定は緊急的に国連の理事会も通ってしまっている」
ちょっと待った。古代メソポタミア文明の文献というのは、まさか我々が解読した粘土板の予言の事を言っているのか?
「そんな馬鹿な。何故に予言の事を貴方が知ってるの?俺達しか知らないはずですよ」
「何を言ってるんだ、予言のことは皆が知ってるよ。君たちは夕方のニュースを見てないのか?もうメディアを通じて大々的に発表されてるんだぞ」
なんで皆が予言の事を知ってるんだ。いやそれ以上になんで予言を皆が信じちゃってるんだ?オカルト研究会の俺ですら疑ってたような予言を。
だが一つ確かなことは、彼の言ってることは完全に荒唐無稽な話というわけではなかったということだ。そこに気づいてしまった俺の顔から血の気が引く。思わず2人と顔を見合わせるが、2人も固まっていた。
自衛隊員は腕時計を確認した。
「スマン。もう時間的に限界だ。私も撤退しなければならない。君たちも早く逃げろ!」
「ちょ•••ちょっと待ってくれ!おいっ。置いてくなって」
彼は素早くアパート前に待機していた軍用車に乗って、全速力で退避していった。そのまま蒸し暑い六畳間に残された俺達3人は、呆然と顔を見合わせた。
「部長。どうします••」
「馬鹿馬鹿しい。こんな与太話を信じるわけがないだろ・・・って言いたいけど、一旦逃げるぞ弘崎!」
「あぁ!前もって予言の事を知ってたのに面白半分にここに来なきゃ良かったわ!私のバカバカッ」
我々はアパートから脱出するべく大急ぎで靴を履いた。
「私達だけじゃなかったのね!粘土板No.87795を翻訳してたの」
「だからっていきなり核ミサイル撃ち込むか?バカだぜ世界の首脳達は」
粘土板が既にどこぞの政府機関に翻訳されていたというのは理解できる。そして運命の神バグー襲来の予言が世界のお偉い人達に伝えられたところまでも理解できないことはない。しかしこんな与太話がどうしてお彼らを動かし、核ミサイル発射を決断させたのかは分からない。まったく軽々しくミサイルを撃つなよな。人のアパートをなんだと思ってんだ!
「訳が分からん!だいたいこれじゃあバグーが降臨する前に、街は壊滅じゃないか。順序が逆だぞ!」
「てか部長!まだその炊飯器抱えたまままなんですか?捨てて逃げた方がいいですって」
「いやオカルト研究会部長として、異界の証拠をだね・・・」
玄関から出ようとした俺が振り返ると、こんな時に柳はスマホ画面を見て突っ立っている。
「なにしてんだお前!置いてくぞ」
「あ、待って八坂くん。たった今、超危険な知らせが届いたんです」
「いや急げ柳!スマホなんて見てる場合じゃないぞ」
「えっと••。北と西の方角から国籍不明の飛翔体が合計25個、猛スピードで日本海上空を通過中だって。どちらも、あと30秒でこちらに着弾するみたい」
「な•••なんだと!?」
25個の飛翔体が2方向から30秒でここに着弾とは・・・!?なんでそんなたくさん・・・いやもう無理無理無理。俺の頭はパニック。
「あ。速報入りました。飛翔体は全部核弾頭を搭載したミサイルの模様だって」
俺たちの命運はアパート玄関前で突然に尽きたらしい。25回も念入りに核ミサイルが炸裂するならば今更どこに逃げても無駄だろう。今にして思えば2人を巻き込む形になったのは残念だが仕方がない。もはや是非に及ばず。
ヤケクソになった俺は持っていた炊飯器を投げ捨て、悠然と地面に胡座をかいて座る。炊飯器は蓋が開き、そのまま転がっていく。そして俺はズボンのポケットから再びルーピックキューブキューブを取り出し、今から人生最後のルービックキューブを味わうことに決めた。
「ちょっ!何やってんですか部長。諦め早過ぎですよ!」
「そうよ八坂くん!まだ28秒は残ってるのよ」
「お前達は逃げろ!逃げてくれ!」
俺はルーピックキューブと共に、穏やかに潔く核爆発に巻き込まれるつもりだ。
ポケットから取り出したルーピックキューブは、すでに上面は赤面で揃っていた。人生最後の局面に、この上面を崩さずに下面を一瞬で青色に揃えてやった。鮮やかなり。あと少しで全面を揃えることができるはずだ。
しかしその瞬間にルーピックキューブは眩く輝きだし『キュインキュインキュイン!』とブザーがなりだす。そして『コールセンターにつなぎます。イベント一時中止』というメッセージがルーピックキューブ内から発せられた。
「な、なんだこの音。どうした!?」
「なんで八坂くんのルーピックキューブからそんな音が・・」
その時、俺が道路に打ち捨てたはずの炊飯器から突然人の上半身が出てきた。
「せ・・・狭っ!お客様。今、出ますので少々お待ちを・・・」
「ええええええ!ちょっと部長。大変ですよ。なんだこれ!」
炊飯器から人が芋虫のようにノソノソと出てくる。しかも女のようだ。もしや・・・こいつがバグーだろうか!?しかし彼女は我々の想像を越えたセリフを発する。
「はぁ、はぁ。ようやく出れた。どうもお客様。こちらコールセンターから来ました」
炊飯器から出てきたのメガネをかけ、作業着を着た同年代と思しき女性である。パッと見は電気技師と言った風貌だろうか。
「八坂くん、誰なのこの人!?知り合いなの?」
「知らない知らないっ」
彼女は俺のルーピックキューブを覗き込むと、メガネを上げて直接肉眼で確認した。
「お客様、申し訳ないのですけれど、それ使用中止して頂けませんか?」
「はいっ?」
「そちらの商品はリコール対象でして。本来なら回収済みになるはずなんですが、一部の在庫を悪徳業者が時空の狭間に不法投棄しちゃったらしくて」
彼女は実にワケの分からないことを言っている。こんな妙な人物の相手で俺の人生は終わってしまうのか?せめて最後のルーピックキューブを完遂させて欲しいのだけれど。
「アンタ、今の状況分かってるのか!?せっかく炊飯器から出てきたところ悪いけどさ、もうすぐここは焦土になっちまうんだぞ」
「それはもう重々承知しております」
一体なんなんだろう彼女の余裕は!?
「てかそもそもアンタ誰?ま・・・まさか貴方がバグー?」
「あ、申し遅れました。私、301世紀からタイムスリップしてきたオモチャ製造メーカーのお客様担当のサクラ・花山です」
柳は泣きそうな声で怒ってる。
「いいから逃げなさいよ八坂くん!井戸端会議してる場合じゃないでしょ!核ミサイルがこっちに向かってるのよ」
すると謎の女は柳の発した核ミサイルという言葉に反応した。
「核ミサイルがここに向かってる?お客様、もうスイッチ入れちゃいましたか」
彼女は俺が握ってるルーピックキューブをチラリとみる。
「このタイプの製品ですね~。申し訳ありませんが設定上の欠陥が判明しまして」
「欠陥?」
彼女は何やら複雑な手順を述べ始めた。しかもルーピックキューブの色の揃え方の順番のようだ。
「・・・という順番で色を揃えたその次に、赤色を揃えてしまったら、いきなり災厄イベントのスイッチが入るんです。ちょっとしたバグなんですが。まあ本来はただのパーティ用の罰ゲーム玩具なんですけど」
「どういうこと?」
「301世紀では、目隠しして遊ぶんです。こう、適当に回して・・」
全ての謎が解けることになった・・。実に馬鹿馬鹿しい謎が。




