第八話 結婚
翌日はすっきりと晴れ渡る空とは裏腹に、二日酔いという最悪の状態が待っていた。
それでも仕事を休むわけには行かない。
敦は、二日酔いのムカつく胃に何かを流し込むべく休憩室へと足を向けた。
ガラスで仕切られた小さなスペースに飲み物の自動販売機が三台とテーブルが二つ置かれているだけだ。
そのテーブルを挟んで大きな体が揺れている。
それが、どんなに遠くからでも佳枝であることは歴然だ。
(佳枝ちゃんか……声が大きいんだよな……頭に響きそうだな……)
多少の躊躇いを感じながらも、ドアを開けると佳枝が振り向いた。
その顔は、バツが悪いところを見られたとでもいいたそうに見えた。
しかし、バツが悪いも何も室内には彼女以外いないのだ。
(休憩時間じゃないからかな? いや、それなら俺も同罪だしなぁ)
そんな事を考えていると、佳枝が手に持っていた紙コップを丸めて「すいません。すぐに戻りますから」とその場を退いた。
「あ! 俺も同じだから、気にしなくていいよ」
思いやりのつもりで言った言葉だったが、彼女は慌てたようにその場を後にした。
ただ、彼女が一歩退いたときに出現した者とアイコンタクトを交わした事を見逃さなかった。
その表情は柔らかく、恋する乙女であることが一目で分かった。
佳枝が大きな体を小さくしながら退室すると、二人の男が目を合わせた。
「彼女、可愛いでしょ」
言うべき言葉が浮かばなくて発した言葉なのだろうが、敦は心の中で(自爆)と呟いていた。
「付き合ってるのか?」
敦は自動販売機にコインを入れると、レモン水のボタンを押した。
実際、今の辛い胃のむかつきを押さえられるなら、何でも良いのだ。
「結婚するつもりです」
ペットボトルを口につけたところでの結婚宣言だ。最初の一口が口中で止まった。
言葉の意味を反芻して、ようやっと理解できた。
「プロポーズはしたのか?」
「しました。昨日!」
なるほど、それで二人で話していたのかと合点が行った。
「返事はOKだったわけか」
我ながら間抜けな質問だと思ったが、つい真央の微妙な表情が浮かび、多少なりとも妬ましさが込上げてきたのだった。
「ええ、彼女もの凄く喜んでくれました」
「式はいつだ?」
「六月がいいって言うんですよ」
「六月? 梅雨だな」
「ジューンブライドは幸せになれるって信じてるんです。可愛いですよね」
「……」
「だから、早く準備しないとダメなので、業務時間中でしたが話してたんです」
「なるほどね、おめでとう」
おめでとうと口では言っても、どう見ても二十歳前半の女性と二十代中盤の男性だ。
何も怖い物などないと言いたげに、満面に笑みを浮かべている。
それが又、気に入らないというのが事実だ。
どんなに頑張っても、うんと言ってくれない真央を思い浮かべると辛くさえなってくる。
(こいつらはこんなに簡単に結婚までいけるのに、何で俺はダメなんだ?)
そんなグチも出ようというものだ。
(それにしても、プロポーズされれば普通はYESかNOかで話が決まるよな)
喜ぶ若者を見ながら、レモン水を口にし、無理やり胃に流し込む。
流し込まれたそれは、ゆっくりと胃に染み渡っていった。
真央への不安と共に。
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