第七話 扉
真央と別れ、マンションに着くと日付が変わっていた。
TVを点け、軽くシャワーを浴びる。
早く眠りにつかねば明日の仕事に差し支えるのは分かっているのだが、どうしたことか眠気が来ないのだ。
敦は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、プルタブを押し開けた。
ぼんやりとTVを眺めながら、今日のニュースを確認しているのだ。その日にあったことを頭に入れておけば、客先でのトークに幅が広がる。
特に重要なのは、スポーツのニュースだ。大方は野球の話をすれば乗ってくるが、相手によっては相撲が好きな人や、プロレスに興味がある人もいる。
敦は自分が担当する客の興味のあることを調べると、その情報を元にあらゆる情報を集めるのだ。
以前TVで、ホステスの心得のようなものをやっていたが、彼女たちも又同じ様に常に新鮮な情報を集めることに神経を研ぎ澄ましているという。
情報量の多さとその情報をいつでも引き出せる引き出しがあるか否かで、客との会話が成立するのだ。
そのTVを見たときに、ホステスも営業マンも同じ営業職だなと笑ったものだった。
だからこそ、今TVから流れている情報は仕事へ繋がる大切なものなのだ。
それなのに、どんなに集中しようとしても音声が流れているだけで、理解が出来ないのだ。
(変だな……)
自分自身を訝しがりながらも、缶ビールを空けると台所へと持っていった。
「よし! 寝るか!」
誰に言うわけでもなく、言葉が出る。
一人暮らしが長くなると、独り言が増えるというが確かにそのようだ。
明かりを消しベッドに入ると、暗闇の中に真央の顔が浮かんできた。
明るい笑顔で笑いかけてくる。
しかし、その笑顔が歪み悲しみを帯びる。
(真央の笑顔が歪む理由は何なのだろう? そんなに仕事がしたいのか?)
確かに仕事も順調で、大きなプロジェクトに抜擢されたとも聞いている。
好きで入った業界ではなかったにせよ、やり始めれば楽しい。
入社して六年ともなればベテランの域だ。
真央の会社の女性は結婚退職する人が多く、彼女の同期で残っている女性はいないと聞く。
そうなれば、必然的に真央が下の女性を纏める役に立たされるというものだ。
しかし、どんどん若い女性が入ってきて、それを纏めることがそんなに楽しいことなのだろうか。
(もし自分だったら……)
そう考えてみても、所詮男である自分には理解が出来ない。
プロポーズされたら普通は喜ぶものだろう。
しかも、真央は二十八歳だ。二十歳も前半なら、まだ先があるし遊びたいだろう。
その為に躊躇するのは分かるが、二十八歳の女性が躊躇う理由があるのだろうか。
眠ろうと試みるはずが余計な事を考え出してしまったために、眠れなくなるという悪循環。
敦は寝返りを打ち、目を瞑った。
(寝るぞ! 明日も仕事だ!)
自分に言い聞かせる。
無心の境地だと分かっていながらも、小さな棘が浮き上がってくる。
『……今度その夢を見たら、扉を開けてみたら?』
『……開ける?』
『そうよ、開けないから悪い事が起きてるのかもよ。だったら、開けてみればいいのよ』
真央の言葉が渦を巻く。
(そうだな、開けられるものなら次は開けてみるか。
そうしたら、何かが変わるのかも知れない)
夢の世界の扉。
その扉を開けるべく、敦は眠りへと落ちていった。
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