第十話 決意
可笑しなもので、夢の中の進展を真央に話したくなっていた。
休日の朝だが、もし寝ているようなら低調に謝って話をしようと思いながら、ケイタイを手にする。
コールが三回。真央との通話が繋がる音がする。
『はい……』
『おはよう、寝てた?』
『いいえ、起きてたわ』
『良かった。又、夢を見たよ』
『そう……』
『扉を開けてみたよ』
『……』
『何が起こったと思う?』
『さぁ……』
いつもと違う真央の反応が気になった。
いつもなら、こんな話をすれば『朝からばかばかしいことで電話しないで!』と笑われるのだ。
しかし、笑いながらもちゃんと敦の気持ちを汲んで話は終わりまで聞いてくれる。
それが今は、心ここにあらずという感じで、返事をすることすら辛そうなのだ。
『どうした?』
『何が?』
『辛そうだよ』
『……風邪で……熱がある……だるいの』
『そんなに酷いのか?』
『だから、今日はごめんね』
『まって! じゃぁ、そっちに行くよ。
何も食べてないんだろう? おかゆのパックを買っていこうか?
バナナか? グレープフルーツとかレモンがいいか?』
電話に向かって慌てている敦。敦の優しさが心に沁みる。
『敦……』
『何?』
『のど痛いのに、レモンは無いわ』
電話の向こうで真央が小さく笑ったのが分かった。
『今日は本当に辛いから……来て欲しくないの』
『来て欲しくないって、真央……』
『ごめんね、言葉を選べない』
真央の辛さが伝わってきて、本当なら今すぐにでも行きたいところだが、敦は静かに了解すると電話を切った。
通話が切れたことを知らせる音が耳に響く。
真央はケイタイを耳から離すと、ぼんやりとベッドに寄りかかった。
近藤との事が思い起こされる。
近藤の身勝手な行動や言動。
その逆に敦の温かく優しい、思いやりの言葉の数々。
真央は流れる涙を拭うことも無く、じっとしていた。
長い長い時間がゆっくりと流れていく。
その長い時間の中で、真央は心の痛みに耐えた。
この五年間を振り返り、一体自分は何をしてきたのか。
本当に愛している人が誰なのか。
一日が暮れようとした時、真央の顔がゆっくりと上げられた。
(別れよう。どんなに時間が掛かっても別れよう。なんと言われても、別れるんだ)




