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無可有郷のスーサイド  作者: 一ノ瀬隆
真崎龍也 『明日へのスーサイド』

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20/20

『僕の物語』

※この話は各章全てのENDを読んだ後に読むことを想定しています※

白熱の蒼穹が、僕の意識を保たせる。

嘘に塗れた世界は、虚栄となった”可能性”によって、僕の脳髄を焼き切り。


真実の世界が、幕を開けた。


───そこには、既に雪は止んでおり。


死の匂いを照り付ける、太陽が煌々と輝いていた。

それは、この無可有郷の世界に。僕がようやく降り立つこの特異点となる。


目を開けろ。


真実を見ろ。


僕ができる最期のその瞬間まで。


───罪へと向き合う時が来たれり。


◇◇◇


龍也「こ、ここは……?」


長い……とても長い夢を見ていた気がする。

記憶から抜け落ちたであろう”夢”は、僕の何かを軋ませていた。


拉げたコンテナハウスから外に出るとそこには。死んでしまった札幌が僕の前に広がっていた。


あの台風から、どれだけの時間が経ったのであろうか。

既に街に人の気配は完全に消えていた。


龍也「みんなを……探さないと!」


盛夏の札幌を駆け回る。

走る僕の鼻腔には、死臭しか入ってこない。


行く度行く度、死体が転がっていた。

僕はそれを、積もった”雪”のように現実逃避しようとしたが、真実がそれを許してくれなかった。


龍也「……やめろ」


僕を襲うデジャヴュが、避難所の近くへと足を運ばせる。

……見たくない。


見たくないものが、絶対にそこにある。

でも、僕に残っている”真実”と”虚構”の果てが、それを許してくれなかった。


死体が沢山積まれた、山。その頂点に、それはあった。


祭壇に捧げられた巫女のように、安らかに眠っている真莉が、そこには居た。


龍也「……真莉?」


手を握る。しかし、既に真莉の体温はそこにない。

その冷たさが、取り返しのつかない現実を僕に突き付けてくる。


龍也「……こんなの……こんなのは!!!」


僕は逃げるように、真莉の死体を後にした。


足取りはどんどん重くなっていく。

でも、やめることは自分自身が許してくれなかった。


龍也「恋……恋は……?」


足がもつれて、思い切り転ぶ。でも、それでも。必死に走りだしていった。


龍也「……学校が」


何とか訪れた僕の学校は、既に崩壊していた。

窓ガラスはバキバキに割れており、体育館の方では放棄された避難食の腐敗臭がする。


それでも、何かにすがるように校内に入っていく。


正に空虚だった。鳴る音は、僕の足音しか無くて。楽しかった学校生活の喧騒が嘘のようになっている。


龍也「……なんだ、アレ」


その中で、一か所だけ階段が崩落している場所を見つけた。

瓦礫が積もっており階段としての役目を放棄している。これは……。


龍也「……あ……あぁ」


僕の前には、満足そうな表情をしながらもたれ掛かっている恋が居た。

その隣には、誰かを引っ張り出したであろう穴があり、恋が誰かを助けたということを語っている。


龍也「……恋?」


もうわかっている。恋の右足は、瓦礫によって潰されており……乾ききった血だまりが広がっていた。

恋は……もう……。


龍也「助けて……サクラ……!」


僕の声はもう、生気を失っていた。

それでも、何かにすがるしかなくて。何回もサクラの名前を呼んだ。


龍也「真莉……恋……」


誰でもいいから、フラっとまた、僕を誘って連れ出してよ。

あの、楽しかった日常へと、僕を戻してよ……!


龍也「かはっ……」


三人の名前を叫びすぎて、僕は血を吐いた。

喉が痛い。それでも、そんなの……。こんな絶望にとって些細な問題だった。


龍也「……なんで」


◇◇◇


僕は恋の亡骸を背負いながら、何とかコンテナハウスに戻ってきた。

戻ってこないって……わかってる。でも、おはようって言ってくれるのを信じて。


龍也「……真莉も、寂しいだろうな。今、迎えに行くからな」


歩きすぎて、僕の足は既に感覚が無くなっている。だけど、それでも歩いた。


龍也「……ただいま。真莉。行こうか」


真莉の亡骸は綺麗だった。外傷なんて一切なくて、あの時のまんまだった。

背負うと、その軽さに胸が痛くなる。


龍也「寂しい思いさせたな……」


ふらふらになりながら、二人をコンテナハウスの雨が当たらない所まで安置した。


龍也「……これで、もう寂しくないから」


二人の姿を見て、僕は安心したのか気絶するようにベッドで寝てしまった。

……起きたら、全てが良くなっていますように。


───そう、無謀な願いを掲げて。


起きても事態は何も好転しなかった。

当たり前だ。そんな上手くいくことなんて……そんなご都合展開。あるはずなかったんだ。


僕の心は粉々に砕け散って、嘘を吐く元気すらも無くなったその時。

……サクラ?


目の前に、サクラが現れた。

サクラは僕を見つめながらも、何も言わずにただ泣きそうな表情を見せてくる。


龍也「サクラ……心配したんだ。何処に行ってたんだよ?」


僕の悲痛な声を聴いて、彼女は優しく首を振った。

そして、僕を抱きしめる。その温かさは、無くしていた”半身”の様で。


龍也「……ああ。そうだったんだな」


僕は、無くしていた記憶を、サクラの存在と引き換えにこじ開けた。


◇◇◇


サクラ「やっと思い出した?」


僕の意識の奥。ここは暗闇の世界。そこには僕とサクラしかいない。

そうだった。サクラは、僕が生み出した……”イマジナリーフレンド”。僕が引き起こしたサテライトクラッシュへの、罪悪感の権化。


サテライトクラッシュによって、僕は真莉の人生を歪ませ。恋の性別を捻じ曲げ、サクラと言う少女を作り出した。


龍也「……ああ。全部……僕だったんだな」


僕が追っていた陰謀論。その中心にあったのは政府でも、世界を操る組織でもなかった。

僕が起こしてしまった罪を、陰謀として処理しようとした……そんな最低な逃避だったんだ。


サクラ「ほんと、あなたの世界を維持するの、大変だったんだからね?」


サクラは軽く言っているが、その裏で沢山のことをしていたのが、今ならわかる。

僕の罪悪感や逃避を、すべて一心に背負わせていたんだ。


龍也「……結局、お前は僕の妄想なのか?」


確かに僕はサクラを生み出した。でも、実際サクラ自身がどうなってるのかはよくわかっていない。

だから包み隠さず聞いた。


サクラ「失礼ね。そんなわけないでしょう?」


彼女はちょっとそっぽを向いて、懐かしむように話し始めた。


サクラ「貴方が想ったのは、都合のいい相手だけじゃなかった。自立した思考をもって、日常を真実から遠ざけてほしい。そう思ったのよ。だから、私はその感情から生まれた個人。わかった?」


そう……だったのか。


サクラ「でも勘違いしないでよね。あの日常だけは、私も本気で楽しんでたから。……なんて。そんな無駄話してたらもう時間みたい。私はあなたの意識に統合される。……お別れね」


一度分離した意識はこの真実を知る時に統合する。それが決められた運命か。


龍也「……僕は……皆の人生をめちゃくちゃにした……。そんなクズだった」


サクラ「いいえ。聞いて……龍也。確かに、貴方は無数の嘘を吐いた。でも───」


サクラは震える体で、僕を抱きしめながら噛み締めるように口を開く。


サクラ「私達……貴方の物語に巻き込まれた私達が想ったこの感情は……嘘じゃない」


……想った……感情?


サクラ「その真実まで、否定しないで」


そう言い遺して、サクラはどこか僕の中に消えていった。


◇◇◇


……全て……全て思い出した。僕が虚構へと送った全ての果てを。


僕の犯したすべての罪が、背中に圧しかかる。


龍也「……全部、僕のせいだったんだ」


サクラは僕のせいとは決して言わなかった。でも、それすらも自分が言わせた可能性に腹が立つ。

何処まで行っても、僕は最低な嘘つきだったんだ。


龍也「……真実を、拒絶した罰。か」


僕一人の嘘で、僕は大切な3人の運命を愚弄した。それどころか、サテライトクラッシュとこの未曽有の台風によって、より多くの人を殺したんだ。


◇◇◇


それから、僕は自暴自棄になってベッドで自分への呪詛を唱えながらずっと横たわっていた。しかし、その間も、札幌はずっと静か。


……わかってるさ。これが、罪悪感から逃げるための体裁に過ぎないって。

でも、僕はただの高校生だ。こんな真実……耐えられないよ。


誰も、助けてくれる人はいない。だってこれは、僕が作り出してしまった物語だから。


そんな時、ふとデスクを見た。

そこあったのは、カラオケの時に真莉、そして恋と撮った3人の写真だった。


その顔を見ると、涙が出てしまいそうで。

終わるわけにはいかないと、背中を優しく押してくれる。そんな感じがしたんだ。


もう。逃げたくない。だから、僕はサクラの言ってくれた言葉を、受け止める。


龍也「受け取ったよ。サクラ」


───真莉へと感じた”護ってあげたい”と言う感情。


───恋へと感じた”一緒に何処までも行きたい”と言う感情。


───サクラへと感じた”ずっと僕を見てくれている安心感”という感情。


その全部は、嘘にしたくない。


だから。

僕は、コンテナハウスの扉を蹴破った。


───そして。自分の意思ではなく、”自分の意思”で足が前に出る。


半歩。


僅かにして臆病な歩幅が、今刻まれる。だが、その半歩は、未来を向いていた。


過去をなぞりながら歩いていた足取りではなく────。


未来へと死に急ぐ、力強い半歩が、そこにあった。


そうして一息。


肺いっぱいに現実を吸い込み、

静かに、けれど確かに世界へと告げた。


龍也「僕は.....嘘しかつけないんだ。それ以上でも、それ以下でもない。でも。それが、”僕”だ──────。」


確かに、僕は物語の主人公みたいに強い人間じゃない。実際、沢山の数、僕は嘘に逃げた。だとしても。その経験の全てが、僕を構成する真実になる。

だから。本当の真実を知るため、僕は記憶を頼りに病院へと向かった。


龍也「今なら……逃げない。だから、僕の真実を……知りたいんだ───!!!」


◇◇◇


病院へと駆ける中、僕は恋と真莉のことを思い出す。

……心の傷は癒えない。でも、僕の力の真実さえ知れば、まだ何とかなるかもしれない。


実際に、僕にはいくつかのタイムラインを駆けた記憶がある。

そして……それから逃避して、ここにいることも。


それなら、僕の持っている”何か”を知った時、まだ希望はあるかもしれない。

だから───。


龍也「まだ……諦めない。僕が止まらない限り、終わらせない!」


さっきまでずっと絶望しか感じなかった景色が、今はそれ以外の感情を生み出す。

───行け。僕!


そしてようやく病院の前までやってきた。

もちろん、自動ドアは機能を停止している。それを見越して、僕は瓦礫片を持ってきた。


龍也「……強化ガラスなら、こうすれば!」


瓦礫片の鋭い所を思い切り何度も叩きつける。すると───

バリィ!と大きな音を立てて蜘蛛の巣状に粉々へとなった。


龍也「よし……」


病院の中は、酷いほど散乱していた。

エントランスにあった照明は全て落ちてバリバリに割れており、床に破片が散乱していた。


奥からは腐敗臭がする。おそらく、体を動かせない患者が逃げ切れずに……。

いや、考えることは良そう。


龍也「腐敗臭を嗅ぐのに慣れてきた自分が怖いな……」


暗がりの中、散乱したソファーなどをどけて”あの”レッドスクリーンを探す。

……あれは、何処だったか。


記憶があいまいになっていることが、今は何より憎まらしい。希薄な記憶を何とか辿っていく。


龍也「あの時は、アイスを二人は食べていて……。それで、視界の端に映ったハズだ」


ふと、サクラの言った言葉がフラッシュバックする。


「だって会いに来なかったじゃない。貴方は見たい動画があれば、検索しない状態で”なんで流れてこないんだよ!!!”って怒るのかしら」


そうだ。サクラが教えてくれた。

僕が知ろうと強く願い、見ようとしないと……”ソレ”は現れない。


知りたい。


知りたい!


───知りたい!!


僕の願いに呼応するよう、頭が発熱していく。ぼんやりとしていく視界の端に、赤が現れた。

頭が軋む。現実を直視させないように意識を手放そうと狙ってくる。それでも!!!


龍也「あ……あああぁ。よし……!」


僕は、強い気持ちと共に”ソレ”を見た。


==============================================

Wandoows [Version XXX-XXX-XXX]

Moicrosoft Corporation. All rights reserved.


C:\Users\Kuon Kamishiro> open --classified WWer_report.txt



報告者:K.C


ワンダーワールダー(Wonder Worlder)

1. 概要と起源

病学的基礎: AIWS(不思議の国のアリス症候群:Alice in Wonderland Syndrome)の重度・変異型。


5年前の事件: 5年前、世界中で一部のAIWS患者が同時に「過剰な認知の加速」を起こし、一斉に原因不明の昏睡状態に陥る事件が発生。

研究機関はこの特異体質者を『ワンダーワールダー(以下:WWer)』と命名し、極秘裏に監視・研究対象に置いた。


2. 身体的・生理的特徴


「脳の熱量が常人の6倍」であると計測された。


WWerの脳は、ハイエンドCPUを限界突破でオーバークロックしているような状態にあり、常人の6倍の代謝熱量・電気信号を常時放出している。


物理的代償: 無からエネルギーを生み出しているわけではなく、自身の肉体の糖分・熱量を猛烈に消費する。

そのため、本人は絶えず極度の倦怠感、偏頭痛・高熱、昏睡リスクに晒される。


3. 特異能力:【認知の同期】

能力のメカニズム:物質を無から生成・消滅させる魔法ではなく、脳の発する6倍の超高出力な波長によって、周囲の人間の感覚野を直接ハッキングする広域精神汚染能力。


感染現象:WWer本人が抱く強固な認知の歪み(例:「ここは冬だ」「目の前にあるのは雪だ」など)が、周囲の人間へ強制的に「同期」する。


近くにいる人間ほどWWerの脳の波長に巻き込まれ、現実とは異なる環境や物体を本物として認識してしまう。


WWerが集まった時、もしくは強力なWWerが居た場合、現実改変の可能性が示唆されている。

ただし、未だその実情は情報不足であり、この情報は参考程度にされたし。


【機密情報をアンロックしますか?】 (Y/N) > _

==============================================


……なんなんだ……これは?

僕の記憶を辿っていくと、”ソレ”は現実のものだと嫌でもわかってしまう。


僕のことを丸ごと理解されたような気持ち悪さに思わず身震いした。そして、なにより。


龍也「機密……情報。これが、僕の知りたかったことか」


直観だった。でも、その直感を僕の希望だってことを信じる。


龍也「アンロック」


すると、一つのボイスデータが再生された。録音者は───K.C。


「キミは……恐らく、沢山の悲劇を乗り越えて……ここにいるんだろう。詳しいことは、ここから語るのは難しい。遅れるデータの容量も、あまりないからな。だから、一言だけ。僕は、キミの選択がどうなろうと尊重するよ。キミの、”真崎龍也”君の選択をね。そのために、僕のわかった全てを送ろう。読んでくれると、うれしい。」


立ち上げられた一つのデータベース。そのタイトルは───。


『真崎龍也』


ここに、僕のすべてがある。一つ息を吐いて、僕はそれをクリックした。


◇◇◇


報告書:真崎龍也


初めて報告されたcAIWSの患者であり、担当した患者の中で一番の現実改変力を記録した。

そのことから、恐らく『原初』であると推察する。


彼の特異な点は、”嘘”にある。

他人に嘘を吐くことは決してないが、自分自身へと完全な嘘を吐くことが記録されている。


それがWWerの力と結びつき、こんなこと考えたくはないが、”真実という因果をも嘘にする”力を無自覚・無差別に使用する。


その最たる例が”サテライトクラッシュ”であろう。

記憶障害を持つ以前の彼からは、「衛星」・「隕石」などといった証言をしており、まさに因果を捻じ曲げた例として記録していいはずだ。


幼くしてこのような偶然の産物を授かってしまった彼は、きっといつか自らの力によって破滅へと向かってしまうかもしれない。


でも、それが自分の運命だと、”あの時”の彼は言っていた。だから。僕はそれを信じようと思う。あとは、君次第だ。


◇◇◇


それを見て。思わず数分立ち尽くしていた。

情報がいつまで経っても処理されない。正にオーバークロックだ。


つまり……僕の力は。


龍也「自分のついた嘘を、真実にする能力……なんだ」


長い……長い旅の末に、ようやく僕は追っていたサテライトクラッシュの真実へと達した。

でも、ちっとも嬉しくない。それが、自分自身の業だったから。


龍也「この現実を嘘にしたら……嘘に……する?」


そしてやっと、この現状に気づいてしまった。

僕は、ずっと現実を逃避していた。現実を逃避できるように、自らが紡ぐ物語のように世界に僕の認知を被せていた。


だから真莉の髪は桃色になり、恋の性別は曖昧になっていた。

しかし、この。この現状は、その欺瞞が剥がれ落ちた世界。嘘にできない、確定した”真実”なのだ。


龍也「それを知ろうとした、その時に。僕のタイムラインを嘘にするという逃避は、できなくなっている……?」


仮説だった。でも、自分の力は自分の体が知っている。その自分の体が、”できない”と警鐘を鳴らしているのだ。


龍也「……もう。遅かったのか」


積みあがっていた一縷の希望が積み木のように崩れ落ちる。

世界が僕を嘲笑っているような酷い被害妄想に陥った。……もう、終わりなんだ。


足がもつれる。体に力が入らない。

この、真莉も恋もサクラもいない世界で……僕は孤独だ。孤独は怖い。いっそ、いなくなってしまいたい。


◇◇◇


足の感覚がもうすでに消え去ったころ、夜が明けた。

僕はあれから、ずっと妄想の自分を殺し続けている。でも、全く現実は変わってくれなかった。


龍也「……ははっ。そりゃそうだろ」


もう、何もする気が起きない。

一度持った希望をへし折られるのは、ただ絶望した以上の心の傷を負わせる。


龍也「……僕に、どうしろっていうんだ。もう……碌に能力を使えやしない僕に」


いっそ僕がいない世界なら……WWerの悲劇も起きず、サテライトクラッシュで沢山の命も奪わず……この台風だって、起きなかったのに。


僕が、いない世界なら。


いや。


違う。


───それだ。


僕が吐ける、最後の嘘。それが、その気づきが。逆転の一手を、僕に示してくれた。

素質が無いのに、この展開を紡いでしまった主人公には良い末路……か。


龍也「ちゃんと……広げた風呂敷は……畳まないとな」


感触のない足を、無理やり壁に手をついて立ち上がらせる。足がブルブル震えて滑稽だが、それでも僕は立ち上がった。


死ぬことはちっとも怖くない。

それは現象であり、節理だ。それは問題にすらならない。


────でも。


これからすることは、ただ死ぬことじゃない。それ以上の、”存在の抹消”。

正直、手が震えている。心が追い付いていない。


それでも、悩み(ブレインフォグ)は全くかからず。


僕はヒーローでも、物語の英雄でもない。だから、世界のために居なくなるなんてそんなこと、絶対にお断りだ。

だけど、僕を信じてくれて、僕を愛してくれた、その”真実”だけは、忘れちゃいけない。それをサクラが教えてくれた。


龍也「忘れちゃ……いけないんだ」


だから、少しずつ世界に、嘘を紡ぐ。


最期の、嘘を────。


◇◇◇


消えゆく因果の最後を見届けるため、僕はこの札幌を歩く。

必死に”楽しかったあの頃”の情景を思い出して、それでこの荒廃した景色を上書きした。


龍也「時計台、最後まで恋に良さが伝わらなかったな」


───歩く。


龍也「ははっ。やっぱりサクラには赤レンガが似合うな。ムカつくけど」


───歩く。


龍也「結局、真莉のオタク趣味について全然知れなかったな。知りたかったのに」


───まだ歩く。


龍也「本当は四人でカラオケ行きたかったな。いや、でもサクラあいつ僕の歌バカにすんだろ」


───まだ歩く。


龍也「ありがとう。コンテナハウス。PC。お前たちがいなかったら僕は退屈だったよ」


───まだ歩く。


龍也「ここは、ずっと変わらないな。いつだって、僕の想いに耽る場所だ。」


───そして着く。


龍也「ここなら、大通公園が一望できるか。最期はここが良かったからな」


───目を閉じる。


龍也「ありがとう。楽しかったよ。……僕は、皆のことが。好きだったから」


グランドトゥルーエンド-FIN

札幌は、今も”普通”を謳歌している。

9月5日。全てが始まった、████が学校で起きたあの日と同じ日。まあ、”彼”は春だと誤認していたけどな。


彼のいない、この世界でも。彼を愛した人達は、普通を生き続けているんだ。


◇◇◇


私はいつも夢に見る。主が訪れて、世界を救済するところを。

でも、それは夢。現実はそううまくいかないみたい。今日もお父さんは荒れていた。


明日、私は自由になろう。

”私の人生”は、私が決めたいから────。


◇◇◇


俺の半身が、引き裂かれたような痛みを覚えた。

理由はわからない。でも、心が痛いんだ。


翌日、その痛みは重さへと変わった。わからない。何もわからないけど、俺はこの重さと生きて行きたい。

仮想の質量は、確かに命の暖かさを持っているから。


◇◇◇


私は、知覚しちゃいけないモノを知っている。

私、真崎桜の元の名前が、シュイト・テッラ・サクラだってことを。

どこにも居なかった私は、彼が居た座標に置き換えられたことを。


生きなきゃいけない。”彼”の残した、この世界で。


────強く。

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