プロローグ『全部A級の男』
「――お前は、器用貧乏だ」
王都。
騎士団本部の広間で、
レイン・クラウディアは静かにその言葉を聞いていた。
周囲には冷たい視線。
呆れ。
嘲笑。
失望。
誰もが、
彼を“半端者”として見ている。
「剣術A級」
「治癒魔法A級」
「料理A級」
「鍛冶A級」
「建築A級」
「生活魔法A級」
読み上げられる評価。
普通なら、
十分すぎる才能だ。
だが。
「……全部A級止まり」
団長は冷たく告げる。
「突出した才能がない」
騎士たちの間から笑い声が漏れる。
「便利屋だな」
「何でもできるけど、それだけ」
「器用貧乏ってやつか」
レインは小さく首を傾げた。
「……そうでしょうか?」
その反応が、
余計に周囲を苛立たせる。
そして。
団長は最後の書類を机へ置いた。
「――聖騎士適性、S級」
その瞬間。
空気が少しだけ変わる。
だが。
「だからこそ厄介だ」
団長は鋭くレインを睨む。
「お前は戦場に立てば強すぎる」
「だが、それ以外は中途半端」
「補助部隊には不要だ」
静寂。
やがて。
「よって――レイン・クラウディアを補助部隊から追放する」
その言葉が、静かに響いた。
誰かが笑う。
誰かが安心したように息を吐く。
レインは少しだけ考え込み――やがて静かに頷いた。
「わかりました」
あまりにもあっさりした返事だった。
騎士たちが戸惑う。
するとレインは、
本当に不思議そうに口を開く。
「では、宿でも開こうと思います」
「……は?」
広間が静まり返る。
宿。
追放された直後に出る言葉じゃない。
だがレイン本人は、
いたって真面目だった。
「料理も掃除も修理もできますし」
「…………」
「静かな場所で暮らすのも悪くないかと」
その言葉に。
誰も返事ができなかった。
そしてこの時。
まだ誰も知らない。
追放された“全部A級”の青年が、
後に“英雄たちの帰る場所”を作ることになるなど。




