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獣人の街で流行りのカフェは、推しからファンサが貰えるようです。  作者: 大木悠樹


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10/10

ヤドリギの下で君に会いたい

短くてすみません。

クリスマスイブなことに、数時間前に気づいたもので⋯⋯。


12/31後半に倍以上の加筆しました!

もう今年も終わる!来年も良いお年をお過ごしください!



ピーニャの前で車が止まり、全身黒い服装で降り立った。

しっかりかぶった帽子にマフラー、コートは襟を立てて、これならバレにくいだろう。

それにしても、外は寒いな、息が白い。

早く店の中に入ろう。

カランコロン。


「いらっしゃいませ〜」


ドアベルの鳴る音に、店長のゆるい、いらっしゃいませの声がする。

クリスマスイブだからだろう、豪華なクリスマスツリーやリースが入り口に飾られていた。

まだ何ヶ月もたっていないはずなのに、もう懐かしい。

ここの制服は、相変わらず可愛いな。

こちらに向かってくるユリナに、よく似合っている。


「お待たせしました。1名様ですか?あれ、ティ⋯⋯」


驚いた顔をした、ユリナの唇に人差し指をあてる。


「この近くで、1時間暇になったの。予約はしていないんだけれど、ユリナに会いたくて⋯⋯。隅っこにいさせてもらえないかな?」


ユリナは、嬉しそうに、うんと頷いた。


「店長さんに、聞いてみるね!」


ユリナは厨房にちょこちょこ走ると、店長と話して、また戻ってきた。


「奥の休憩室、使っていいって!お客様1名、ご案内します」


途中で、ソウとすれ違うと、私に気づいたのか、声を出さずに笑われた。

休憩室は一つも変わっておらず、店長の好みのガラステーブルと革張りのソファが置いてあった。


「ティアの大好きなチーズケーキと紅茶を持ってくるから、ちょっと待っててね!」


ユリナはそう言うと、私をソファに座らせて部屋を出ていった。

休憩室の中を見渡すと、クリスマスの飾り付けがちょこんと置いてある。

小さいサンタとトナカイの陶器の置物。

隣には、クリスマスの絵本が、表紙が見えるように飾ってある。そして、偽物の暖炉が、薪を爆ぜる音をたてながら赤く光っていた。

店長が、今日出勤のスタッフも、クリスマス気分を味わえるように、休憩室をクリスマス仕様にしたのだろう。

そういう細かい所に、こだわりを持つ人だ。

休憩室を眺めているだけで、ゆったりした気分になる。


コンコンコン。


ノックの音がする。

私が扉を開けると、トレイに2人分のチーズケーキと紅茶を乗せた、笑顔のユリナがいた。


「お待たせしました。店長特製のチーズケーキとクリスマス仕様の特別な紅茶だよ!」


湯気があがった紅茶からは、特別いい香りがする。

チーズケーキも働いて賄いで食べていた時と同じように美味しそうだ。


「ありがとう。美味しそうだ。」


「えへへ。私も休憩もらったから、一緒に食べよう!」


扉をゆっくり閉めたユリナは、トレイをテーブルに置くと、こちらに抱きついてきた。


「クリスマスイブなんて、仕事が忙しいから、絶対会えないと思ってたのに!会えて嬉しい!」


「私もだよ。本当はビッチリスケジュールが埋まっていたのだけれど、先方のミスで穴が空いたから、1時間でもユリナに会いたくて、マネージャーにここまで送ってもらったんだ」


ユリナの抱きしめる力が強くなる。


「これ、私からの手紙だよ」


差し出された手紙は、ピーニャお決まりのファンサの手紙だ。


今度、私とデートしてくれませんか?

大好きなティアと、もっと一緒にいたいです。


「もちろん、今度休みの日があったら、絶対にデートしよう!」


最近忙しすぎるから、余り会えていなかったが、さすがに年末か正月辺りに休みが貰えるはずだ。

その日は丸一日、ユリナと一緒に過ごそう。


「ティア大好き」


私も負けじと抱きしめ返す。


「ユリナ大好き」


窓の外では、はらはらと雪が舞い始めた。

扉の外で、サイン色紙を持った店長が、静かに厨房に戻っていった。


「休憩室に、ヤドリギも飾っておけばよかったかなぁ〜」


今日はホワイトクリスマス。

愛し合う恋人達が、幸せな時間を過ごせますように。


「店長、奥さんの会社の方から、電話です。急ぎの用事だそうです」


「タイガくん、ありがとう〜」


ヒューが職場に電話してくるなんて、始めてだな。


「もしもし、電話代わりました。」


「代表が産気づきました。私共のほうで病院に運んでいるところです。直ぐに総合病院に来てください。受付に言えば、案内出来るようにしておきます」


代表が産気づいた?

病院に来てください?


「え?」


突然の事で、よく頭に入ってこなかった。


「代表が頑張っています。もうすぐ産まれそうなので、病院に来てください」


産まれる??

僕とヒューの子どもが産まれる??

大変だ!

直ぐに行かなきゃ!


「わかりました!!タクシーを捕まえて、すぐ行きます!」


「会社の者が、そちらの裏手に到着したので、その車に乗ってください」


流石、ヒューの会社の人、仕事が早い!


「今、行きます!」


「店長?どうしましたか?」


「奥さんが赤ちゃん産むって!僕はパパになるんだ!今すぐ病院に行かないと!」


エプロンを外し、携帯と財布をポケットに突っ込む。


「マジっすか!今日はクリスマス特別メニューで、基本温めるだけになってるから、俺一人でもなんとかなります!戸締まりもするんで、早く行ってあげてください!」


「うん。明日は元々休みだし、問題ないね。タイガくん、任せたよ!」


人生で、こんなにも急いだ日はない。

店の裏口まで走ると、黒塗りの車が後ろの扉を開けて待機していた。


「こちらにどうぞ」


人生で一度も乗ったことがないような、ふかふかのリムジンだ。


「法定速度ギリギリまで飛ばします。シートベルト締めてください」


「頼む!」


凄い勢いで車が走り出す。

これ、絶対に法定速度より出ているけれど、今はこの荒っぽい運転が何より嬉しい。

10分もしないで、総合病院の入り口に着く。


「こちらです」


既に話が回っていたのか、助産師が案内をしてくれる。

これがVIP待遇というやつだろう。

流石、ヒュー。

エレベーターに乗ると、産科病棟へ向かった。


「こちらの分娩室です」


部屋のドアが開くと、獣の唸り声が響いた。


「ぐるるるっ」


「ヒュー!」


奥さんが、顔を真っ赤に苦しそうにしている。

僕は一目散に駆け寄ると、四つん這いのヒューに声をかける。


「こんな大事な時にいなくてごめんね。これからは、ずっとそばにいるからね。」


ヒュー、短く頷いた。


「これを奥様に、欲しい時に飲ませてあげて」


助産師が、僕にペットボトルつきのストローを渡す。

僕は受け取ると、ヒューの口元に持っていく。

ヒューは10秒程経つと痛みが落ち着いたのか、ストローから飲み物を飲む。

かなり喉が渇いていたのだろう。


「こんな大事な時に、僕は何も力になってあげられなくてごめんね」


「⋯私、頑張るから、このまま飲み物を欲しいって言ったら頂戴。腰とかは、助産師さんがさすってくれるから。とにかく喉が渇いて、あなたはこのまま飲み物に専念して」


「わかった」


ヒューのお産は長かった。

30時間以上に渡り、苦しみ、唸り、そして念願の⋯⋯。


「ほぎゃあ!ほぎゃあ!」


「1人目、元気な女の子です。おめでとうございます。次、直ぐに2人目が出ます!」


産まれた赤ん坊は、大きな声で泣いた。

良かった、元気そうだ。

でも、これで終わりじゃない。

もう1人、出てくる。


「ヒュー、元気な子が産まれたよ。後もう少しだよ」


ヒューの顔は、大分前から真っ青で酸素マスクがついた状態で僕にしがみついていた。

骨がきしむ音がするけれど、ヒューの痛みに比べれば大したことない。

獣のような唸り声、たくさんの血、酸素マスクをつけた真っ青な顔。

よく見なくてもヒューは、満身創痍だ。


「次のタイミングでもう一度、いきんでね。いきむ前に大きく吸って、そのまま力をいれて!」


「ぐるるるっ!」


「はい!もういきまない!浅く呼吸して、もう頭がでたからね。いきむと赤ちゃん苦しいから、いきまないよ!はっはっはって呼吸してね」


いつの間にか来ていた女医が、ヒューに声をかける。

程なくして、2人目の赤ん坊の身体がでてきた。


「⋯⋯!」


泣き声が聞こえない⋯⋯。

女医が赤ん坊の口に管を突っ込んだ。


「⋯ほぎゃあ!ほぎゃあ!」


良かった!

泣いてくれた!


「おめでとうございます!2人目は男の子です!」


「⋯⋯良かった。私の赤ちゃん達。」


ヒューは、全身の力が抜けたようだった。


「ヒュー、ありがとう。僕は、この感動を一生忘れないよ。」


僕は涙が止まらなかった。

赤ん坊の体重を聞かされ、写真を一緒に撮り、ヒューの後産が終わり、会陰切開後の傷を女医が縫い始めていた。

赤ん坊達は処置があるからと直ぐに外にだされ、ヒューはこの場で2時間安静となった。

その間、ずっと僕は泣き続けた。

酸素マスクがとれ、いくらか顔色が戻ったヒューに笑われた。


「もう、そんなに泣いていると、パパ泣き虫ねって、赤ちゃん達に笑われちゃうわ」


「⋯そうか。僕はパパになったんだ。君はママ。なんて素晴らしいんだ」


「まだ、泣くのね」


分娩室を出て、ヒューとともに、病室に行くとそこでやっと涙が引いてきた。

助産師さん達が、赤ん坊達を連れてくる。

それぞれ、コットに入れられた赤ん坊達はぐっすり眠っているようだ。


「なんて、かわいいんだろう!」


小さな豹の耳のついた赤ん坊は、とってもかわいい。


「ヒュー、君に似て、とってもかわいいよ!」


「私もあなたに似て、とてもかわいいと思うわ。でも、そんなに赤ちゃん達にばかりくっついているとさみしいわ」


「僕、ごめん。君の方が、赤ん坊達より世界で一番大切だよ。この子達は世界で2番目さ。」


「まあ、あなたったら」


くすくす笑うヒューに口づけた。

ふと、目線をあげると、ヤドリギのリースが飾ってあるのが目に入る。

この病院、やるな。


今の僕は、世界で一番幸せだ。

叶うなら、ヒューも赤ん坊達も、僕と同じ位、幸せにしてあげたい。

そして、この幸福の一部分だけでも世界中の人達にわけてあげたい。

今度こそ、世界中の人達へ、メリークリスマス。

良いクリスマスを!



読んで頂きありがとうございます!

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