第26話 正義を自称する者ども
(サブタイトルつけ忘れてました)
「で、何処に向かってるの?」
暁の星の男にシリスの街から連れ出された私は、目的地についてを問いかける。だって徒歩だよ? 二人きりで。
そんなに遠くなさそうなら、アルコア様経由でヴェルディちゃんと連携してこいつらの支部なりを叩き潰せたりはしないかなぁ、なんて思っていたら……
「遠くですよ、とっても」
突然、金ぴかの光が私たちを包み込んだ。
これは……神聖魔法?!
って事は、まさかまた変な神が関わってるの? 勘弁してよ。
『この感じ……まさかアイツかしら』
「アイツ?」
『ちょっと厄介な神がいてね……』
アルコア様をもってして『厄介』と言わせるとは、かなりヤバい相手なんじゃ……
そうこうしている内に光が収まった。
するとそこは、シリスの街の周囲ではなく……見慣れない場所。
山の上……?
切り立った崖の上に、古城のようなものが見える。
「あそこがアルス様のおわす居城にございます。そして、これからラズリー様の住まう場所でもあります」
「……」
周囲には打ち捨てられたと見られる建物がらいくつかある。どれも雑草や蔦が生い茂っており、何十年かは人の手が入っていないように見えるね。
あの古城も半世紀くらい放置されていたのを最近使い始めたって感じだ。
となると、ここはもしかして昔あった王国の城下町なのかな。時期的に帝国に滅ぼされたとかそんなかな?
そしてこいつの神聖魔法は、転移とかそんな感じかな
私はそのまま城へと足を踏み入れた。
「やぁ、初めまして僕の許嫁」
古びた玉座に座るのは、ずいぶんと小さな男の子だった。
歳はヴェルディちゃんと同じ11か12くらい?
「君がアルス? 思ったより幼いんだね」
てっきり青年くらいかと思ってたよ。しかしまさかこんな小さな子供だったとは……。
「僕の名前を事前に覚えてきてくれるなんて嬉しいよ!」
「……どうせすぐ忘れるだろうけどね」
私が今こいつらを殺せないのは、シリスの街を人質にされているからだ。
転移の神聖魔法を使ったヤツ……だけじゃない。アルスというガキも周りにいる他の連中も、どうやら殺したら街に仕掛けられた爆撃魔法が起爆する仕掛けらしい。
「……で、私に何をさせたいのさ?」
「僕のお嫁さんになってほしいの!! いいでしょ! この僕のお嫁さんだよ? 幸せにするって誓うよ!!!」
「……私と結婚して、それで何? 何を君たちは得る?」
「……? 何って何?」
暁の星のリーダーだと聞いてたけど、もしかしてこいつは傀儡か?
見たまんま子供だし、操ってるヤツは他にいるのか?
「私が君のお嫁さんになったとして、君はどう得をするのかって聞いてんの」
「それについてはワタクシが。我々はアルス・フォルスター様を新たな神聖帝国の皇帝にしたいのです。そこでラズリー様には、以前のように契約なさっている女神様と取り次いでいただきたいのです。
……貴女も損をする話ではありません。かの帝国のように政治的発言権を封殺などせず、貴女には皇后として統治に携わっていただきたい」
……私をこのガキの皇后とし、アルコア様の神聖魔法でまた帝国を支えろ……と。
で、その条件として私にも政治に口出しできるように……か。
「――そして悠久の時を生きる貴女は、アルス様の死後も強力な権限を持ち続けることになるでしょう。皇族たる子孫たちの上に立ち、実質的に後の皇帝よりも強い権力を得られるのです」
権力、ね。
私が望むのは平穏。不相応な権力なんていらない。というか、子供を作るとかマジで考えられない。何が悲しくてこんな世間知らずなガキに抱かれなきゃいけないのさ。
しかしまぁ、この特徴のない男がアルスを唆してるとみていいかな。
「その条件で私が従うとでも?」
「否が応でも従ってもらうぞ。アベラ」
パチンッ、男が指を鳴らす。すると、後ろから誰かがカツカツと音を鳴らしてやって来て――
「これが聖女ラズリーか? はっ、ガキではないか」
それは白い鎧を着た、騎士のような女だった。
……そこそこ強いねこいつ。歩き方からして、重心にブレがない。ボルガより強そうだね。
「アベラ、別室で彼女に少々教育してやれ」
「くく……我らに逆らうとどうなるか、その身に刻んでくれよう。来い」
私はそのまま別室へと連れていかれ――それから、抵抗できないままにアベラという女騎士に詰られた。
「正義とは何か、お前は知っているか?」
「正義か。常に移ろい決まった形を持たない概念ね」
そう答えた瞬間――私のお腹に衝撃が走る。
殴られた、のかな?
……身体強化してるおかげで痛くはないけども。
「これが、正義の痛みというものだ。正義とは唯一無二の絶対たる概念であり、そして我々を意味する言葉だ!!! 我々は正義であり正義は我々なのである!!!!」
「……意味不明だね」
「正義を妨げ愚弄する存在は全てが悪……!! 貴様は今悪なのだぞ? だが安心しろ、この私が貴様を『正義』にしてくれよう」
それから私は、アベラという女騎士に一時間ほど殴る蹴るなどの攻撃を加えられ続けた。
……効かないけど。
効かないけど、かといって反撃もできない。こいつらの命とシリスの街に設置された爆撃魔法は連動しているのだ。殺せば街が危ない。
「ぜぇ……ぜぇ……ずいぶんと頑丈なのだな、貴様は。だがどうだ、頑丈であろうと痛いものは痛いだろう?」
「余裕。むしろこの程度な事に驚いてるわ」
こうやって煽っておけば、この短気で傲慢な自称正義おばさんはずっと私相手に精神を磨り減らしてくれるだろう。現状抵抗もできない今、こうして嫌がらせをするくらいしかやれる事はない。
「ぜぇ、ぜぇ、休憩だ。貴様に慈悲をかけてやる。いいか、逃げようなどと思うなよ? 我々はあの街をいつでも破壊できるのだからな」
「疲れたのなら素直に疲れたって言えばいいのに」
「黙れ……正義は勝つのだ、貴様もいずれ必ず我らに屈し正義となるのだ……」
そうしてアベラは部屋を後にした。
あれだけ怒鳴り散らして殴ったり蹴ったりしたら疲れるよね。なんなら殴った方の拳の方が痛そうだし。
けどね、この戦いはもう――私たちの勝ちなんだよね。
ひらりと私の影から魔法陣の刻まれた紙が数枚舞い落ちた。
『迎えに来たよ、お姉ちゃん』
*
それから十数秒後――
古城のあった場所には、遠目からでも分かるほどに巨大な黒いキノコ雲が立ち昇っていたのであった。
お読みいただきありがとうございます。「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたらブクマや星評価をお願いします。
少々立て込んでおり1週間ほど隔日投稿とさせていただきます。




