第27話 豊穣の女神
ラズリーが古城を爆破する10分ほど前――
暁の星の軍勢三千を完食したヴェルディは、口元の赤をきちんと拭き取ってから街へと戻った。すると――
「ほ、ほんとにあの子が三千の敵兵をやっちまったぞ……」
「ま、街は救われた! あの獣人の子は英雄だ!!」
「「バンザーイ! バンザーイ!!」」
ヴェルディのやった事は偉業だ。街側に犠牲者ひとり出すことなく、敵を殲滅したのだから。
そんなお祭りムードな群衆をかき分け、領主ベープはヴェルディの元へとたどり着いた。
「持て囃されている所すまない、ヴェルディくん。至急屋敷に来てくれないか」
「ん。……ちやほやされるの苦手だったから、助かる……」
そうしてヴェルディはベープに連れられ、執務室にて事後処理について会話を交わす。
「――軍勢による街の蹂躙……という危機はひとまずは去った。ありがとう。……しかしまだ、驚異はある。設置されたという爆撃魔法だが……現状はまだひとつも発見できていない」
「……ボクも鼻で探してみてるけど、よくわかんない」
「参ったな、ヴェルディくんにも分からないか」
「お姉ちゃんならわかったかも。……でもボクの力はお姉ちゃんほどじゃない。……なのにばくげきまほーをどうにかしないとお姉ちゃんはここに戻れない……」
ヴェルディの頭の中はぐるぐるしていて、それでいて答えは出ない。
――はやくしないとお姉ちゃんが『結婚』させられちゃう。
「隣街から魔術師を派遣してもらおうか、検討しましょうか。多少の魔力感知ならできるはずです。……法外な対価を吹っ掛けられそうですが、やむを得ません」
隣街の魔術師は、腕は良いという噂だがその代わりに金にうるさいという。
だが、領民の命には変えられない。
ベープは隣街へ使者を派遣しようと人を呼ぼうとした――その時。
『その必要はありませんよ』
透き通った、柔らかな女性の声がどこからか響き渡る。
「誰……?」
「な、何者だ?! 姿を見せなさい!!」
異様な現象に、ヴェルディは臨戦態勢に、ベープはいつでもこの場から離脱できるよう構える。
『わたしはこの土地の神と言えば、伝わるでしょうか。豊穣の神、かつては国を支える守護神でもありました』
「豊穣の神……ですと?! もしや貴女は――」
ベープの脳裏にかつて必死になって学んだこの街の歴史の記憶が甦る。
嘗て――この街が国だった頃、心優しき豊穣神がいた。
人々は飢えることなく常に満腹で幸福な国だった……という。
しかしある時……理由は定かではないが、信仰が途絶えてしまう。それにより豊穣神の力は国から失われ、そうして滅んだ……と、数少ない資料には伝わっている。
その豊穣神の名は忘れ去られている。残された記録にもほとんど記載がない。
だがベープは、朽ちた書物を解読することにより断片的だが豊穣神の呼び名を推定する事に成功する。
『わたしの名は――"ミイヴルス"。この街を旧くからみまm』「なっ……なんと、なんとっ……!! 我らの祖先に愛想を尽かし消えてしまっていたのでは、なかったのですね……!!」
ベープの目元が紅く腫れ、そこから雫が溢れるように流れ出る。
先祖代々引き継いできたこの街は、ベープにとって命よりも大切な宝。そんな街の守護神が、今も存在していたという事実に彼の情緒は耐えられなかった。
『あの、落ち着いてください』
「ズビッ……。申し訳ありまぜん、してミイヴルス様は、我々に力を貸してくださるのですか?」
『もちろんです。その為に来たのですから』
そんな二人(一方は神)の会話を横で聞いていたヴェルディは、薄々ながらミイヴルスの正体について察しつつあった。
あの『御守り』から、ヴェルディも神力を感じ取っていた。
あの時は疑問しかなかったのだが、彼女の正体がミイヴルスという神だったのならば納得できる。
「……ミルスさんだよね?」
『なっ、ななななな、何の事でしょう!?』
「み、ミイヴルス様……?」
「ミルスさんってなんで薄っすら神様の力を出してるのか不思議だったんだけど、ホントに神様だったんだね」
『そ、そんな訳……』
否定しようにも、否定する材料がない。
というかラズリーには100%バレているだろう。
ミイヴルスは、腹をくくる。
『はい……正直に申し上げます。ミルスという女性は、わたしの化身です……』
「な、なっ、なっ!? なんですってぇ!?!?」
『……証拠にこの場にミルスとして顕現してもよろしいですか?』
「いいよ」
「か、構いませんとも……!」
色々と諦めたミイヴルスは、人としての姿を見せることを決心する。
すると執務室の中心にいつの間にかあった『赤い御守り』が、宙に浮き……そしてそのすぐ隣に、緑の光を放つ人形のシルエットが形成される。
そしてやがて現れたのは……緑の衣を纏った紫色の髪の女性――ベープにとっては顔なじみの、紛うことなきミルスの姿であった。
「ほ、ほん、ほんとにミルスさん!?」
「はい……今まで騙していてすみませんでした……」
「騙していたなんてとんでもない! ずっと見守ってくださったのでしょう?! 今回兵たちから聞いています!
神聖魔法に酷似した光が傷ついた者を癒し、漲る力をくれたと! それは貴女の力なのですね?
ありがとうございます、おかげで誰一人欠けることなく乗り切れました!」
「はい。しかし……ホントならそれだけで済ませるつもりでしたが、まさか街に爆撃魔法が仕掛けられているなんて……」
ミルスの表情は重い。目先の問題は解決したが、まだ仕掛けられた爆撃魔法というものも残っているし、また襲撃してくる可能性だってある。
「はっ、そうでした! 爆撃魔法の設置場所が解らないという所に貴女様がいらしたのでした。もしや、爆撃魔法の位置が判るのですか?」
「はい。実はわたしは『風』の神なのです。神としての姿は、実体のない空気の塊のようなもの。その姿のわたしが街中を吹き抜け、設置型魔法の位置はもう全て察知できました」
「はっ、話が早くて助かります!!! これはこの街の見取り図です!!」
ベープは棚から円柱形に丸まった紙を取り出し、机に広げる。
「数は五つ。紙に魔法陣が刻まれたものです。そして場所は――」
*
ベープの指示により、兵たちは街中に隠されていた5枚の魔法陣を全て回収した。
……したはいいが、どう処理するべきか。
人のいないどこか遠くに棄てるべきだろう。しかしそれは森林火災という危険と隣り合わせでもある。
「……ボクに任せて。いいところを知ってるから」
「いいところ、とは?」
「ん。お姉ちゃんを拐ったあいつらの家」
ヴェルディは鋭角を起点に空間を繋げ、移動する能力を持っている。
通常、それは1度行ったことのある場所か視認できる範囲内に限られる。
……しかしひとつだけ例外がある。ラズリーだ。
ヴェルディはラズリーの側ならば視認できず行ったことの無い場所でも移動可能である。
『迎えに来たよ、お姉ちゃん』
――そうして現在に至る。
「ヴェルディちゃんありがとう……!! 助かったよ~!!」
「えへっ、えへへ、ボク偉い?」
「偉い偉い、とぉ~っても偉い!! ありがとう、よく頑張ったね」
「ところでこの紙って?」
「うん。これがばくげきまほーらしいよ?」
「なぁるほど……」
ヴェルディは暁の星の最高指導者の潜む城へと爆撃魔法陣を5枚持ち込んだ。
つまりは人質はもう存在しない。
そして威力が高かろうと、爆撃魔法はただの魔法。神聖魔法を込めたラズリーの結界を破る力はない。
そしてラズリーは部屋の扉を蹴破りアルスの前へと現れる。
「あ、ラズリーちゃん! 僕と結婚する気に……だれ、そいつ?」
「知る必要はない。さようなら、クソガキ」
それだけ呟くと、ラズリーはアルスの隣に立つ特徴のない男の首を切り飛ばした。
それと同時にヴェルディは『魔獣』の姿となり、ラズリーをその巨体で包み込む。ラズリーもまた、ヴェルディと自身に絶対防御と多重結界を付与する。
そして一拍遅れて、全ては爆炎に飲み込まれた。
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次回更新は24日を予定しております。




