始まりの始まり!
その後、父と俺は警察署に一晩泊まった。次の日起きると父の姿はなく婦警さんが替わりに部屋にいた。俺が起きたことを確認すると食事を運んで来てくれて、食べ終わったら病院に行くとの旨を告げる。
朝飯を食べ終え出口に向かうと父が立っていた。父は泣きながら俺の手を掴みレンタカーに乗せた。運転中の父は無口だったがもう泣いてはいなかった。
「犯人は捕まったの?」
俺は小さく呟いた。
「ああ。19歳のクソガキ2人が昨日捕まった」
その声は怒りに満ちていた。
今思えばこいつらはただ上から命令されただけだったんだろう。
しばらくして病院に着くと、何故か地下へ向った。
扉の上のパネルに大きく三文字で"霊安室"と書いてあった。医療ドラマでよく聞いた言葉だったので母の死を理解した。
小4の俺には荷が重すぎた。冷たい母との面会中俺は泣かなかった。いや、泣けなかった。守りたいものを守れなかったという情けなさ、人生で初めて意識した殺意、父へのもどかしい気持ち。この全てが心を支配していて、哀しみが入る余地など無かったのだ。ここから心が壊れた。
しばらく経ち、母の葬儀を終えた。そこには父と母の親戚がずらりと並んでいた。父と母は二人共自分の親や親戚と仲が悪かったらしくこれまでの経緯も全く知らせていなかったらしい。大人のちんけなプライドに反吐が出た。
「てめぇは一体何をしたんだ!!このクソ野郎が!」
母の親が父へ怒号を飛ばす。仲が悪かったとはいえ親の子供への愛は消えてないようだ。
遠目に父と父の両親が土下座をしてるのが見える。背中を丸めて今にも壊れてしまいそうなくらい儚く、ビックリするぐらい小さく見えた。こんな憐れな父を俺は許した。
親戚からは父と離れて暮らそうと散々持ちかけられたが俺は全てを断った。俺が父を裏切ったらきっと父は消えてしまう、そう思ったからだ。
「本当にすまなかった。でも俺はお前を育てたい。本当にありがとう」
父は号泣していた。
(やっぱり親の謝罪なんか聞きたくないな)
そう思った。
俺はいつか父を"楽"にしてやろうと誓った。