66不遇なるもの
遅くなりました。
「あぁ…ぐすっ…くすりぃ…ぐすっ……」
暗く深い『闇』の中でまたいつもの『騒音』がする。
「ウルッセェな!キリカズ!黙ってねぇと殺すぞ!」
まただ…。
今の自分が一番気に入っている大切な時間を、屑どもの『騒音』が掻き乱していく。
「ヒック……だって俺ずっと薬やって無いんスよ?
こんな…こんなの…ヴハぁぁ~ん!ヴふぅ~!」
勘弁してくれ……。
精神的にキツい状況で男の泣き声なんて聞きたくない。
こいつは『イソジマ キリカズ』という薬の売人。
殺すと喚いているのは『タグチ ジュンヤ』元ホストで殺人と死体損壊、死体遺棄で実刑をうけて、刑務所にいたらしい。
ちなみに死体遺棄にイソジマも手伝ったそうな。
「チッ!こっちはてめえのせいでブタ箱にブチ込まれてんだ!
せめて邪魔にならねぇ様に黙ってろ!
息もすんな!」
タグチは元の世界でイソジマから買った『薬』を使ってタグチの太客(金払いの良い客)の女とベッドイン。
その『最中』に女が泡吹いて死亡。
慌ててイソジマを呼び出して、二人で仲良く『バラして』捨てた間柄だそうだ。
…まったく。
この同じ空間で知りたくもない事をベラベラと……。
はぁ…勘弁してくれ……。
私の大切な時間がこんな奴らの『クソの様な話』で汚されていく……。
この部屋に同居させられ、この下らない会話を何度聞いたことか。
訳も分からずこんな場所にぶちこまれ、私は極力黙って様子を観てた。
その間この二人は、『元の世界』でもつるんでいたらしく、ベラベラと喋り続けている。
そんな中、
「キリカズさん、そんな薬なんかに頼っていてはいけません。
薬等に頼らなくても脳内麻薬をドバドバ出せる素敵な方法があるのです。
そんな方法、キリカズさんは興味ありませんか?」
闇の中からもう一つの『屑』の騒音が聞こえる。
「え!?ツトムさんマジぱねぇっス!
どうやるんすか!?」
そんな下らない話で、よくそこまで盛り上がれるなんて『マジぱねぇ』よお前ら。
暗闇の中で恍惚と高揚を感じさせる声音で、
「私と一緒に神に祈るのです!信仰による高揚こそ至高!」
なるほど納得。
こいつも確かに本質は『ジャンキー』と一緒だ。
この『ツトム』と呼ばれている男。
ヒロナカ ツトムは新興宗教の幹部だ。
私が小学生ぐらいの時にヒロナカの所属していた宗教団体『光導会』は薬品による大量殺人を計画、一部実行して、数十人を死傷させた。
その『一部実行』を指導していたのがヒロナカだ。
逮捕され、死刑が確定したと、私は最近ニュースで見ていた。
容姿が変わっていて気付かなかったが、イカれた奴らの特徴なのか、コイツら全員自分の事を良く語る。
おかげさまで、自分がどんなクソと『同居』しているのか知る羽目になった。
「おい!変なことキリカズに吹き込もうとしてんじゃねぇよ!
このイカれ野郎!」
タグチが声を荒立てる。
おい、ホスト。お前も十分イカれてる。
「そんな警戒しないでも大丈夫ですよ?
我々は『スキルの使用を禁止』されているのですし。」
「うるせぇ!てめえみたいなヤバいスキル持ち、警戒しない訳ねぇだろ!」
確かにホストの言う通り、ヒロナカ ツトムのスキルは『とてつもなく危険』だ。
本人曰く【固有スキル】信仰の導き
【相手と一定の『信頼関係』を構築した時のみ『洗脳』する】
というものらしい。
本人がそう言っているだけなので実際には分からない。
ブラフ(嘘)の可能性もある。
「それを言ったらあなた達もそうでしょう?
あなた方二人のスキルを使えば私と同等以上の効果がありますし。
だからこそ私としても『仲良く』していきたいのです。」
元ホストの『タグチ ジュンヤ』の固有スキルは
『夜の皇帝』
酩酊状態にした相手を従属させる。
そして、やかましい馬鹿『イソジマ キリカズ』の固有スキルは『ドラッグマイスター』
あらゆる『薬品』を『無』から作り出す。
確かにこの二人の『相性』はとてつもなく良い。
この四人の中で一番の『最弱』は私だ。
幸か不幸か私は警戒してコイツらに、自分の『名字』だけを一度告げて、それ以後一切の会話をしていない。
今、私に出来る事は『自分の情報を渡さない』これだけだ。
ここにいる者達は『教皇の奴隷』。
召喚した高いスキル持ちではあるのだが、戦争での『直接の戦闘』にはあまり向かない者と、『守りに特化したスキル』を持つ者だ。
つまり戦地での『教皇の布教活動』の為のスタッフ。
だからか全員主を『教皇』にされている。
「それにしてもまさか若返りを経験するとは思いませんでした。」
ヒロナカは話を変えたかったのか、そんな話を言い出した。
おそらく召喚されてから10日ぐらいは経つのだろうか?
我々は『戦闘訓練』で表に出される事が全く無い。
必要無いから表に出されないため、真っ暗な部屋で隔離されたまま。
おかげさまで時間感覚がさっぱりだ。
「あんたみたいな『オッサン』はともかく、俺やキリカズは元々『若返り』を有り難がるほどの歳でもねぇよ、むしろナニがバキバキなって朝とか超ツレぇし。
それに今は処理させる『女』が居ねぇ。
マジで最悪だ。」
「俺もジュンヤさんもイケメンになってましたね。ほら水浴びさせられた時。」
「俺は昔からイケメンだったから変わんねぇよ。
どっちかっていうと、ナニがでかくなってたのがラッキーかな?」
ホスト『タグチ』はサラッと自分を自慢しだす。
「そうだ!そこに居る『スズキ』。
そいつメチャクチャ『巨根』でしたね。」
ジャンキー。そこに触れるな。
「そう!おい、『イトウ』!お前メチャクチャでかいな!
元々あんなデカいのか!?」
ねえよ。
「………。」
「…チッ無視か。
それにしても『500ミリのペットボトル』を『縦に繋げたようなの』が股からぶら下がってるのを見たときはビビったぜ。
中性的なイケメンだし。
元の世界にそのまま帰れたらウチの店で働けるぜ!
その無口が直ればな?」
働くかクソが!
それにしても、そうか私は中性的なイケメンか。
この情報には感謝しとく。
私のステータスは
【名前】チナツ イトウ
【種族】人属
【性別】男
【年齢】16
【職業】学士
【レベル】19
【体力】34/34
【魔力】80/80
【知力】86
【素早さ】213
【能力】
固有スキル
言語理解
異空間収納
鑑定
鉄壁の槍
スキル
疾走Lv7
【称号】
スプリンター 不遇の女子高生
【加護】なし
固有スキル
【鉄壁の槍】
自身が槍を装備している限り、『物理』及び『魔法』によるダメージ無効。
『毒』『精神』による作用完全無効
私は『女』だ。




