第62話 ファースト・コンタクト
未確認生物は、ロボットだった。
アルターホールが鎮座していた跡地は直径が五十メートルくらいのエリアに草が繁茂しているだけで、高い木々はその外周から広がっていた。
ついさっきまで、チームカガリはその端っこの樹木と草地の間あたりで、楽しそうな激戦を繰り広げていた。
「警報!」
ペティが異変に気づいて、二人に警戒を呼びかけると、三人は樹木の陰に隠れた。
そして、対岸から現れたのが、二足歩行、全身が黒光りする金属で覆われた体長一六〇センチ前後の人型。中世のプレートメールアーマーを纏った騎士のような装甲板に身を固めていて、頭部は黒いガラス張りで、ちらちらと、赤いランプが点滅していた。
「……おねえさま、あの者から気配がありません」
リズは目標が呼吸をしていないことを喚起した。
「つまりさ……あれは無機物の塊ってことだよね? 鎧着ているヒトじゃない。アンドロイド?」
「捕獲でいいんだよな? アネゴ」
「うん。 ロボットだから鹵獲になるのかな。方針に変更はないよ」
目標が逃げる様子はなかった。
むしろこちらに向かってきている。
「腕に武器を装備してるね。飛び道具かな? ユリっちが言ってたレールガンかも」
射撃ユニットというのだろうか、チキンを丸焼きにしたようなボディに、四角柱状の銃口が手の甲のあたりまで伸びていて、色違いの二対の金属が四角柱の面を囲っている
「レールガンだと弾体は高熱だから”透過”は難しいかもだね。リズ。弾着に備えて」
「水壁!」
リズの詠唱でチームカガリの眼前に水の壁が現れた。直方体の巨大な水槽のようだった。
水の壁が出現した瞬間、目標は銃口を向けて「バスッ、バスッ、バスッ」と三発の弾丸を放った。
射線上に火花を散らして、水の壁にゴポゴポと側面から空気が入った。弾丸を止めることができたようだけれど、水中のどこにも弾が見つからなかった。水壁が完成したことで、三人は木陰から出て目標を見据えた。
「アネゴ、あっちはやる気だ!」
「弾が液状化してるんだネ。あれはやっぱりレールガンだよ」
目標が走り始める。動きはそんなに速くはない。
「ペティ、足止め!」
「レッド・サイドワインダー!」
ペティが両腕を広げると手のひらから二つの炎が伸びた。炎は意思を持っているかのように素早く蛇行し、リズの水壁を迂回して目標へと向かっていく。
ペティの炎が目標の脚部に直撃したけれど、ひるむ様子はない。
「だめだ、ゼンゼン効いてないぜ」
「やっぱロボだよ、あの子。リズ、水壁もう一個造れる?」
「できます!」
「あの子を閉じこめて!」
「水壁!」
リズは今度は走ってくる目標の足下に水壁を造った。
「凍れ!」
水中で目標の動きが緩慢になったところで、リズがさらに魔法を付加した。目標を閉じこめた水壁に氷が張った。
氷はさらに水壁の内部に浸食していき、目標は氷付けになった。
「やったな! リズ」
「あんがとね!」
「ふぅ。ちょっと疲れてしまいました」
「これでショートしてくれるとイイんだけど……森で活動してるンならきっと完全防水だよね」
チームカガリは接近することなく、警戒態勢を維持したまま目標を観察した。
氷の一部が「バリリリ!!」と音を立てて割れた。
「嘘ぉ?!」
カガリさんもさすがに驚いている。
レールガンの射線部分の氷が粉々になって蒸発した。
「銃口まで水浸しになっても使えるって? ユリっち喜びそうだね! ちょっと笑えないかな」
リズの手のひらが防弾用の水壁にふれると、壁から水球が独立して飛んでいき、目標が空けた穴を塞いだ。
「凍らせなくていいからね」
「わかってます」
これでレールガンを撃っても水で勢いを殺せる。
「弾切れになってくれればいいんだけどね。……ユリっち言ってたっけな”使える環境が限られていて運用は難しいけど、弾体はパチンコ玉でもいいし、弾のコストと装弾数はかなり優秀なのよ、レールガン”って。あの子、あと何発撃てるのかな……」
射線に詰め込まれていた水が弾け飛んだ。
チームに緊張が走る。
射線から突き出ていたのは、細く、青白い紐状の光だった。
紐状の光が目標を閉じこめていた氷塊に巻き付き、締めてつけて、氷を粉々に砕くまでは一瞬だった。
「アネゴ! 魔法鞭だ」
「無機物が魔法を使った!?」
バスッ、バスッ、バスッ
「キャァ!」
リズが被弾した。
「「リズ!!」」
目標が放ったレールガンが、防弾用水壁の全く同じ箇所に三発の弾を放ち、力任せに貫通させていた。
弾はリズの腹部を貫いて、背後の樹木に穴を空けていた。リズの集中が切れたことで、水壁が消える。
直後に魔法鞭がカガリさんに伸びていた。僅差でカガリさんがこれをかわす。
「えっ?!」
鞭はもう一本あった。目標の左手から伸びる魔法鞭がカガリさんの足首に巻きついて、そのままカガリさんを転倒させ、引きずりだした。
透過ができないならばこれは魔法だ! 僕はカガリさんを引きずる鞭に手を触れた。
鞭がマナとなって拡散する。
「ウォ……高圧水刃!」
倒れたリズが半身をおこし、鋼鉄を切断する水圧を放った。
しかし、距離が離れすぎていた。切断こそ叶わなかったけれど、目標を後方へと押し離した。
「炎壁!」
ペティがカガリさんと目標の間に炎の壁を造った。
「退くよ! ペティ」
「了解!」
カガリさんがリズを抱えると、ペティと共に木々の奥深くに入って行った。
「リズ、無事?」
「おねえ……さま」
「しっかりして、リズ!」
「ワタクシ、おねえさまに抱かれて逝けるなら!」
リズがカガリさんの首に腕を絡ませてギュゥっとかき抱いた。
すでに自分に治癒魔法をかけていていたようで、傷口はすっかりふさがっていた。
カガリさんの首に巻き付けついたリズの両手を、カガリさんが”透過”で抜けた。
「おねえさまのイケズぅ!」
「元気でよかったよ!」
「アネゴ、どうしましょうか」
「捕まえるのは無理だね。あのロボは、破壊する」
「このまま野放しにもできねぇもんな」
「トンファーの電撃も有効かわからない。手榴弾で爆破させたいところだね。射撃があんなに正確なら、遠くから投げても撃ち落とされるかも。……なんとか接近しないと」
[あの、カガリさん]
「お、さっきはあんがとね。エアっち」
[いえいえ。それより、ロボの様子見てこようか?]
「うん、たのむよ。リズはちょっと隠れて休んでて」
「おねえさまの腕の中がいいです」
「だめ、動きにくい」
カガリさんがリズを高く放りなげて、リズが樹木に手を触れて同化するのを横目に、僕は来た道を戻った。
足が遅いから距離はだいぶ引き離したかと思ったけれど、いつまでたっても遭遇することなく、ついには元来た場所へ戻ってしまった。
目標はさっきと同じ位置に突っ立ったまま、あたりをキョロキョロしていた。ペティが放った魔法の炎はすっかり消えているものの、目標の目前には、魔法の熱で草木に引火した低い炎が上がっていた。
目標と”目”があった。特になにもしてこなかった。僕は取るに足らないってことだろうか。
僕は後をつけられないように迂回しながら、カガリさんのところへ戻った。追ってくる様子はなかった。その奇妙な光景を報告し、カガリさんは少し考えると、一つの答えを出した。
「熱探知、かも」
目標が人工知能(AI)だとすると、熱探知で、植物と自分たちを見極めているのかもしれない、と。
攻勢に出るべく、リズをその場に待機させ、僕たちは来た道を引き返した。




