第63話 アルティメット・シールド
「エアっち、先行して」
[はい]
カガリさんの立てた作戦を実行する前に、目標が熱探知でカガリさん達の居場所を特定しているのか、試す必要があった。
僕は上昇して、かつてアルターホールが鎮座していた開けた場所を見下ろした。目標の位置を確認したあと、カガリさんとペティが潜んでいる場所を確認した。
生い茂る枝葉の僅かな隙間の奥にカガリさんはいた、大きく手を振っている。目標はまだカガリさん達を見つけていない。
僕は手を挙げて合図を送る。
「ピィィィ!!」
カガリさんが指笛を吹いた。目標に変化はみられない。
挙げた手は降ろさなかった。これは”目標に変化なし”の合図だ。
今度はペティが手のひらに炎を出現させた。
キョロキョロしていた目標の視点がペティ達の方を向き、走り出した。
”目標に動きあり、そちらに接近中!”僕は合図を送るため、両手を上げ下げした。鳥になった気分だった。
ペティとカガリさんは二手に分かれ、左右に散った。
「ピィッ!、ピィッ!、ピィッ!」
カガリさんが短く三回、指笛を鳴らす。作戦開始の合図だ。
「……気になってたんだよね、どうしてレールガンの射線にいたアタシに魔法鞭を使ったのか」
カガリさんは草木に隠れて円形エリアを四分の一ほど走破した所で立ち止まり、僕と合流した。
ペティは囮役として、手のひらに炎を纏いながら木々の間を抜け円形エリアを半周、反対側に向かう。目標はレールガンを放ちながら、ノロい駆け足でペティを追っていた。
「あの子は、アタシにレールガンを使わない」
カガリさんが茂みを透過しながら、円形エリアに飛び出し、目標と対峙した。
目標の頭部が動いて、カガリさんを補足する。
「そして……アタシを狙ってる」
目標はペティへの攻撃をやめ、カガリさんの方へと駆け出しながら、両腕から魔法鞭を繰り出した。
彼女の読みは当たっていた。僕は伸びてくる魔法鞭を掴んで拡散させる。
カガリさんが指笛を鳴らす。
瞬間、目標の足下から火柱があがった。直径二十メートルはあるだろうか、ペティの”業火”の魔法だ。炎は僕たちの眼前まで届いて、燃え盛っている。
「……やっぱり、ちょっと怖いかな」
カガリさんの両手には四つの手榴弾が握られていて、それぞれ人差し指と小指に点火ピンのリングが通っている。着火時間は二秒後に設定されていた。
僕が先行して業火をマナに拡散。カガリさんが追随し目標に接近、体内に手榴弾を投げ込んで爆破する。この作戦は確かに勇気がいる。
背後のカガリさんを守る為に僕は”盾”をイメージした。旧地球の機動隊が持っているような、全身が隠れるような長盾を。
僕自体は半透明だから、視界が遮られることはないだろう。すこしでもカガリさんの危険と、恐怖を緩和させたいと思った。
でも、だめだった。ニモ先生の所で、安物のボールペンを出現させたように簡単ではなかった。普段から使っていた物ではないからイメージが漠然としていて、形が成せない。
盾を創れなければ、僕の体面積だけでカガリさんは炎を凌がなければならない。
「このまま行こう」
[……すいません]
「卑屈にならないの、エアっち! アタシのこと、命を懸けて守ってね」
……僕はいつも、この人に魅了される。
この前は野営時に手を握るよう、要求されたとき。そしてロイドウルフを殺さずに追い払ったときの、この人の瞳に魅了された。
彼女の言葉で、今日は息の根を止められた。
カガリさんが気丈に微笑みながら言ったのは殺し文句だ。さも当たり前のように言ってのけるんですね、貴女って人は。
僕の声は花太郎にしか聞こえないんだ。半透明だよ? プカプカ宙に浮いてるんだよ? 貴女以外にまともに触れられる人がいないんだよ?
そんな僕に向かって「命を賭けろ」と要求するんだね、貴女は。
……差し出しましょう、賭ける命があるならば。
ふと、僕の中によぎったイメージが、長盾を出現させた。さっきまでの苦労が嘘だと思えるくらい簡単だった。
[お待たせしました]
「エアっち、君って奴は!」
よし、笑ってくれた。
[カガリさん、僕はいつも仕事が終わると、空中神殿のそばで落ちてく夕日を眺めます。好きなんです。夕日が沈んだ後、社宅へ向かうと必ずカガリさんが帰ってきていて、”おかえり”と言ってくれるから]
「知ってるよ。甘田花太郎は甘えん坊だからね。……どうしよう、気分がいいよアタシ、とっても!! この気持ち、どうしてくれようかな!」
[かっこいい必殺技の名前でも考えて、叫んでみたら?]
「……思い切って、キメちゃうか?」
僕が出現させたのはドアだった。
JOXA社宅の玄関にあって、みんな同じ形をしている、何の変哲もないドアだった。ドアにはぷっくりと厚みのある、きのこのマグネットがくっついていた。カガリさんの部屋に続くドアだ。
コレを掴んで、開けて、「ただいま」って声を届けたいな、って、いつも思っていた。カガリさんが、いつも「おかえり」と言ってくれるから。
僕の身体の一部分がドアの形に姿を模して、僕はそれを抱えていた。
「エアっち、ゴー!!」
[僕は犬ちゃんか!]
「今の君、サイッコーにカッコいいゾ!」
[恐縮であります! わんわん!]
業火をかき分けて突進する。魔法で造られた炎はドアに触れると青白く光り、マナとなって拡散した。
目標を眼前に捉えた。
僕はそのまますり抜ける。
カガリさんが目標を抱きしめるように肩口と腹部に腕を巻き付けて、手首から先を目標の胴体に透過させた。
目標が魔法鞭を放つ。踵を返した僕がそれを封じた。
カガリさんが引き抜いた手には、手榴弾のピンだけが残っていた。両腕を交差して顔を覆い、両手で耳を塞いで目を閉じた。
そして、この短時間で考えたであろう必殺技の名前を、カガリさんはつぶやいた。
「……二つの無限」
胴体の内部に仕込まれた四つの手榴弾が炸裂し、目標を粉砕した。




