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MMORPG「∞・クリティカルアーマメント」  作者: 立花豊実
‐Ⅰ‐ ハローリーザ
3/55

3話

 冗談ではない。

 なんの説明もなしに初っ端から襲撃されるなんて、なんて暴力的なゲームなのだ。現実では直視することすら皆無に等しい「戦闘」たる行為を、実体験的に楽しむという発想は解らなくもない。けれど、それが全うなプレイ、――つまり、あくまで「遊び」という範疇で収めようというのであれば、せめて対等な立ち位置というものを考えて、お互い素手同士での勝負にすべきじゃないのか。

「ず、ずるいぞ! 丸腰の相手に攻撃するなんて」

 ――卑怯だ! と言いかけたその時だった。フツルは自分の体に飾り付けられていたファンタジーな武具に、はたと気付かされた。どの段階で変わったのかと不思議が過ぎるが、ここはあくまで仮想だ。服どころの話ではなく、顔や体だって一瞬のうちに着せ替えられる。フツルの重んじている現実の法則規則ルールなどとは、近からずとも大いにかけ離れた異次元なのだ。

「だからって、ちょちょっと待てってば、僕はまだ来たばかりでっつぉぉ!」

 ビュン!

 横なぎに一閃。放たれた致命の刃を、体を沈みこませることでかすりかすりで避けた。その際に一束分ほどの毛をバッサリと持っていかれ、あわや本当にブチ切れそうになる。しかし、これがあくまで仮想だということをすんでの間に思い返し、何とか留まった。こんなことで本気になるなど、もしもユイミにバレたら恥ずかしくて死ねる。

 とはいえ依然として事態は変わらない。剣戟によらなくとも滅多に遭うことのない「襲われる」というシチュを、今、フツルはヴァーチャルで目の当たりにしているのだ。対応は現実でのそれと同様でいい、ということはないだろう。怒って「やめなさいよ、あなた!」などと啖呵を切ってもおそらく引いた目で見られるか、また「ばかじゃないの?」などと言われるだけなのだ。これだから仮想は大がつくほどキライになる。

 急に腰を落とした反動で、勢い体がバランスを崩す。

 ねらい目はそこだと言わんばかり、少女は新たに向けた一閃への初動を、間隙なく取った。次の一手に入れば、間違いなく素敵なクリーンヒットが横腹にぶち込まれるだろう。そのエフェクトが猛烈なる痛みなのか、見た目だけの派手な血潮なのか、フツルは直後の自分を瞬時の中で想い浮かべた。真っ二つに割れる、哀れな自分の姿はかなりシュールで滑稽だ。

 潔癖に完璧主義を通すフツルにはいかなる形、場合であっても「負け」という二字が根から受けつけられない。だからこそ、ここがたとえ仮想であっても、

「敗北なんて、いやだね!」

 ガッ、キィィィィン!

 渡る金属の共鳴音。鋭い刃と刃の一点が交じり合い、拮抗の狭間で生まれた音が耳をつんざいた。自分の抜き出した剣から、余波が走りわたって頭の先がくらっとする。わずかにバイブレーションされた視界が、映りこむ彼女の顔を二重にぼやけさせる。……いやいやいや、これ。

 エフェクトがもたらす「重み」がリアル過ぎて、ヤバイとしか言えない。手にずっしりとかかる現実めいた重圧が、さめざめと恐怖を煽った。痛い。手のひらが痛い。

「くっ!」

 けん制の一振りを打ち放ち、彼女との間に距離を取る。

 その流れで背を向け、方角を彼女から真反対に全力で疾走する。一度わずかにでも時間を儲け、冷静なる思考の後、判断を得たかった。いかにあれ、これは把握されうるベキ異常な事態だ。

 仮想上では、体感する痛みは痒み程度のものだと聞いてきた。だからこそフツルは安心して仮想へ赴いてきたのだ。VRWシステムの実現に関わる二種の機構は、それぞれが人体保護のセキュリティを強固に図っていると聞く。VRWの根幹的なユーザーとサーバ間で行われるデータ送受信システムを構築する強大企業メリウスは、これを国際条約に則って厳重に管理、制御している。もう一つ、ゲームデザインを担う世界中に点在する各企業のシステムメンテナンスは、これも国際基準に従って認可されたセキュリティ専門の機関を通さなければならない。企業はセキュリティ機関と共同的にシステムを管理せねばならず、また審査を通らなければVRWゲーム会社としてすら認めてはもらえない。ゆえに実質企業は国家にかなりのウエイトで情報をオープンにしており、現状三八あるVRWゲームサーバその全てが世界中央政府本部に鎮座する「ワールドⅰ:スーパーコンピュータ」通称Nva―ノヴァと総勢二百以上もの人員によって二四時間体制でモニタリングされている。

 審査、審査、審査、審査、審査、制御、制御、制御、制御、制御。

 そうやって確固たる安全を確保された上で、VRWという脳に直接的な刺激を与えるゲーム環境が許されているのだ。

 なのにだ。

 今、現在、なう。

 フツルの手のひらからは如何ともし難い激痛がにじみ出している。


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