最終話 私の住むマンションの隣にコンビニが出来たら親友と家族が出来ました《後編》
「そして報告です。俺、そのバイトを始めた時に出会った女性とこの度結婚する事になりました!」
……言っちゃった! 今頃歩夢ガチ恋だった人達は気を失ってるんじゃないの? でも、こればっかりは仕方ないものね。
事務所にも報告する事は伝えてるみたいだし、私が罪悪感を感じるのはちょっと違うと思うけど……、う〜ん、言い方が上から目線で良くないかもだけど、歩夢の事これからも応援して欲しいな。
「その女性は俺がまだ全然役も貰って無くて、声優だって事も知らなかったのに、俺の声を好きだと言ってくれて、それで『実は俺、声優なんだ』と言ったらめちゃくちゃ喜んで『それなら私があなたのファン第一号になる!』なんて言ってくれて、その時俺、凄く勇気が出たしこの仕事でみんなにもっと声を届けたいって思えたんだ。
だから彼女は俺の声優としての恩人でもあり、心の支えになってくれてたんだ。でも彼女、それまで蓮さん最推しだったんだけどねー、あははは♪」
歩夢の話を聞いてると、出会ってから飲みに行き、醜態を晒した事を思い出した。恥ずかしいけど懐かしいな。
「そんな時『バディーズ』のオーディションに合格して、蓮さんと共演なんて、運命のイタズラかと思ったよ! それでも彼女はめちゃくちゃ喜んでくれて、遂に俺の最推しになるって言ってくれたんだ! もうその頃には俺、滅茶苦茶彼女に惚れてたからさ、『蓮さんに勝ったぞ!』なんて思った時もあったし♪」
……いいの? そこまで話して? まさか誕生日とか年末の話はしてないわよね?
ふと隣を見ると何とも幸せそうな顔をして寝ている。とても起こして真相を聞く気にはなれないわ。
「……まぁ後は、色々あって付き合う事になり、春に一緒に住む様になって籍を入れるって事になったんだ」
そりゃいくら歩夢でも言う訳ないか! 言っても番組ディレクターが編集するでしょ!
「だから真っ先にこのラジオで、俺の声で俺の事を応援してくれているみんなに伝えたかったんだ! これからもっともっと良い演技が出来る様、みんなに喜びや感動を伝える役者を目指して精進して行くので、今後とも俺、成田歩夢を応援してくれると嬉しいです!」
……あまりにちゃんとしていて何の文句も無いわ!
「歩夢、大好き♡」
私はそっと寝ている歩夢のおでこにキスをした。
※
〜次の日〜
仕事に行く途中の電車でスマホをチェック、するとSNSでは歩夢の電撃結婚の話題で持ちきりだった。
「あゆむん結婚だってぇ〜! ショックだけどあそこまで潔いと逆におめでとうって感じよね〜♪」
歩夢の正直な気持ちを真っ先に自分のラジオで伝えたのが功を奏したみたいで、否定的な意見はほとんど出てない。私の事も本人が『ファン第一号』認定してるから『先見の明がある!』とか『事務所は彼女をスカウトするのが一番の成功の鍵だ』なんて意見もあった。そーいえば蓮さまも全然売れてない頃からの最推しだったから、案外私やれるんじゃない? なーんてね♪
ゆみちゃんからも勿論祝福のメッセージが届いた。
『いづみちゃんおめでとう! もう歩夢くんの声聞いてていづみちゃんの事大好きなのが伝わり過ぎて深夜に思わず号泣しちゃったよ! 改めてお祝いさせてね♡』
ゆみちゃん、バンド活動も忙しいのに、歩夢の為に今も『赤メッシュ』としてメールを送り続けてくれている。そして私の事も気に掛けてくれて……、本当ありがとう!
「おはよう〜♪」
出勤した私を見るなり里菜ちゃんが鼻息を荒くして駆け寄って来た!
「おはようございます! 昨日私、ラジオ聞いて泣いちゃいましたよ! あー、私も好きな人から公共の電波であんな事言われて結婚したいですぅ〜♡」
みんな自分の事の様に喜んでくれる! ありがとう♪
※
〜結婚報告から一週間後〜
「今晩は、成田歩夢です。今週も始まりました『成田歩夢のドリームアクター』最後まで宜しくお願いします。
先週の放送直後から今日までの間で、俺のスマホに信じられない位の祝福メッセージが届きました。
すっげぇ嬉しかったです、一人一人返信しましたがこの場を借りてもう一度お礼を言いたいと思います。
みんな、俺の事大好きで居てくれてありがとー!
……(苦笑)さて、自分で言ってて恥ずかしかったから先ずは告知を、
先週冒頭で言った『スマイルワン』に今度の日曜日の十三時〜十五時の二時間、俺、出勤します!
一時間程レジ前に立って、残りは店頭で俺のグッズや『スマイルワン』での割引きチケットが当たるクジ引きをやります! 店内で五百円以上の買い物をすると一枚クジが貰えます。場所は中王線二鷹駅から歩いて十分〜…………
クジ引きやるんだ! ふふふっ、私もこっそり行ってみようかな? そしてまた特賞当てたら歩夢、どんな顔するんだろう?
※
〜日曜日〜
「今日は勤務地近くて良いなー! 仕事も夜から隣の駅のスタジオでナレーション一本だし!」
「……歩夢、コンビニ店員も仕事でしょ? 当時貰ってた時給頂くんだからちゃんとやりなさいよ! 多分人がごった返して他のバイトやかれん達に迷惑をかけるからちゃんと配慮を……あっっ!?
まだ喋ってるのにうるさいとばかりに私の唇を塞いで来た。もぅ、最近面倒臭いと思ったらいつもそれで誤魔化すんだから!
「んじゃ、行って来るね! へへっ、まさか隣のマンションが家なんて誰も思ってないだろうな!」
「そーかも知れないけど気を付けてね! 家バレなんてすぐに引っ越ししなきゃだよ? このマンションセキュリティーそこまで万全じゃないんだから!」
「あははは、じゃー行って来るね!」
「うん、楽しんで来て!」
軽く唇を重ねて歩夢は玄関を出て行った。
私は窓から『スマイルワン』を覗くと既に駐車場はごった返して大勢の人が群がっていた。
……改めて歩夢って人気者になったんだね。
感慨に浸っているとかれんからメッセが来て、
『店、オープン時より入ってるよ! 歩夢って今、そんなに人気あるの?』
『今、若手声優では一番って位の人気よ!』
何故か自分が褒められた気分だわ!
『歩夢貸してくれてありがとね! おかげで新しいバイトも増えたし、あっくんももう一店舗増やす? なんて言って親父と二人で興奮してるよ!』
私の一番大切な人が、人に感謝されるのを見たり聞いたりするのって、自分が褒められるより嬉しいんだって知ったよ! よーし、こーなったら!
※
『はーい、それでは空クジなしのクジ引き始めまーす! みんなぁー、邪魔ならない様に並んでー! 枚数分賞品あるから焦らないでねー♪』
時刻は既に十四時半を回っている。なんだかんだで一時間並んじゃったわ、私。バカみたい……。
『はーい、おめでとう! 俺の直筆ってか、今からあなたの好きな所にサイン書くよー! 券が当たりましたぁ〜! はい拍手ぅ〜!!』
当たった女の子、その場でしゃがみ込んで号泣してるわ! でも気持ち痛い程分かるわぁ〜!
そして私の順番がやって来た!
何とかバレない様にサングラスにキャップ、マスクで並んでたから、サングラスとマスクを外した時めっちゃ焦ってた! ふふふっ、大成功!!
『はーい、それじゃお姉さんの番ですよ〜! えっと、まだ『特賞』は出てないから大チャンスです!』
歩夢、あくまでも知らない人と接する感じでやるのね! それなら……、
「あの、……特賞って景品なんですか?」
『それは当てた人にしか教えませ〜ん♪』
ニヤニヤしながら人差し指でチッチッとかしてる!
忘れたの? 私、この店であなた達から『特賞さん』って呼ばれてたのよっ!?
『それじゃど〜ぞ〜!!』
私は目を閉じて軽くクジ引きのレバーを回した。
んで、出て来たのは……見た事の無いレインボーの玉!!
思わず歩夢くんは初めて会った時の様に興奮して両手を握り、
『特賞出ましたぁ〜!! おめでとうございま〜す!! みんな拍手ぅ〜〜!!!』
パチパチパチパチ パチパチパチパチ♪
恥ずかしい、こればっかりは慣れないけど、やっぱり私、クジ運だけは良いのよね♪
「あの、……特賞って何ですか?」
『特賞はですねぇ…………コレです!』
歩夢はおもむろにポケットからリボンのついた手のひらサイズの箱を私にくれた。
『後で誰も居ない所で開けてね! はい特賞出ちゃったけどまだまだ豪華賞品残ってるよ〜!!』
……あくまでも他人のフリなのね! そりゃそーか!
てか何やってんの、私! みんなの楽しみの特賞も歩夢も奪ってただのイヤな女じゃない!!
少し落ち込んで部屋に戻る。
せっかくだから特賞って何だろ? 気になるからリボンを解いて包装紙を広げるとメッセージが……、
『絶対来ると思ってた! そしていづみなら特賞当てるって信じてるから!』
そして箱を開けると二人の名前が刻まれたネックレスと指輪が入っていた!!
「もぉ〜〜っっ!! 全部お見通しだったのぉ〜? なんか悔しぃ〜!!!
帰って来たらもうっ!! 覚えておきなさいよ〜!!!」
……なんて言いながらも私はこの小さな箱を大切に抱きしめた。
私の住むマンションに新しくコンビニが出来ただけなのに、そこで出会った人達のおかげで私の人生は大きく変わったの! ……ってお話しでした。
〜終わり〜
最終話まで読んで頂き、本当にありがとうございました!




