第一章 ひと聞き惚れ
年明けから書き始めたのですが、仕事が繁忙期になり、おまけに雀魂で金の間と玉の間の無限ループにハマり、ようやくこの連休中に最終話まで書き上げました!
ストレスフリーのラブコメです。全53話、毎朝6時公開です。
最後まで読んでくれると嬉しいです!
ついに私の住むマンションの隣に新しくコンビニが出来る!
今までは歩いて十分の最寄り駅付近まで行かなきゃいけなかったから超ラッキー♪
ずっと空き地だったあの場所、私がこの部屋に住む以前もコンビニだったみたいだけど潰れちゃって、近所にあると言えばラーメン屋さんと、午前中で閉まっちゃうサンドイッチ屋さん位だったのよね。
だから近日オープンの張り紙を見た時から、今か今かと待ち望んでいたの!
はぁ〜、これからは夜中に小腹が空いたって、ジャージ姿のすっぴんメガネでもちゃちゃっと買い物出来るわ!
私、鈴森いづみ、二十五歳。最寄り駅から三駅先の大型ショッピングモールの中に入ってる雑貨屋で店長をしている。
趣味はマンガやアニメを見たり、乙女ゲーをする事。休みの日は大抵家に居るかアニメや声優さんのイベントに参加している。いわゆるオタクよね。
でも見た目には凄く気を使ってるし、職場のバイトの子や周りの店舗の人からは『綺麗なお姉さん』とか、『ブルピンのジス』に似てるとか言われていて、そんな私がオタクだなんて思いもしないハズだわ。
彼氏は、……もう四年くらい居ないわ。二股かけられて酷い別れ方をしてから現実逃避して、すっかり二次元のキャラクターや声優さんにハマってしまったの。
そんな私が推しているのは、今ハマっている乙女ゲー『桜台高校バスケ部』に出てくる浅川真希人や、その他数々の有名作品の主人公の声を担当している三上蓮さま!
去年からはアーティストデビューもして、ますます人気が出て来たのは良い事だけど、イベントやライブのチケットもかなりの争奪戦になってしまい、新人の頃から応援していた私としては複雑な心境だ。
そんな蓮さまのお陰で元カレの事もキレイさっぱり忘れられたし、ドラマCDや楽曲が毎日の生活の活力になっている。もう蓮さま無しでは生きていけない体になってしまった♡
※
ついにオープン初日の水曜日!
オープン記念セールやくじ引きとかやるみたいだから、結構混雑してそうよね? えっと十時開店だっけ? 今日は仕事休みだから朝まで乙女ゲーやってて、起きたらもう昼過ぎなんだけど。
あーお腹空いた。とりあえずお弁当買いに行こ!
肩にかかるボサボサの髪をゴムで束ねてキャップを被り、すっぴんメガネにマスク、紺色のジャージ上下のサンダル履きで部屋を出る。こんな格好、職場のバイトの子や周りの店舗の人には絶対に見せられないわ!
エントランスを出て右に曲がると、昨日までとは打って変わって賑やかな風景が目に飛び込んだ。
駐車場には車が並び、店頭には沢山の風船やお祝いのお花が出迎えてくれている。
えっ、……今日平日でしょ? 祭りか? って位の人だかりなんだけど私、こんな格好で平気? まぁこんな所に知り合いなんて居る訳ないしどーでもいっか!
店の名前は……『スマイルワン』
んー、聞いた事無いわ。大手コンビニチェーンじゃないのね。個人経営かしら、前もこの場所でやって潰れてるけど大丈夫?
とりあえずお弁当だけ買って今日の所は退散しよう。数日経って落ち着いて来たらまた来ればいいし。
そんな中、店頭で黒い制服を着た爽やかなイケメンが滑舌良く大きな声で皆の注目を集めていた。
「いらっしゃいませー、『スマイルワン』です! 本日オープン記念でくじ引きやってます! 五百円以上お買い上げで一回引けますので宜しくお願いしまーす!」
ちょ、ちょっ! ……ちょっと待って!?
何、この声? 蓮さまをもうちょっと爽やかにした優しい声はっ!?
初めて蓮さまの声を聞いた時以来の衝撃だった!
ヤバいっ、胸がキュンキュンする〜っ!?
韓流アイドルの様な顔立ちであの声、キャーキャー言いながら早くも若い女の子やおばちゃんまで列を作っている! そりゃそーでしょ?
あっ!!
私っ、こんな格好で来ちゃった! 無理っ! 駄目っ!! お腹ペコペコだけど、ここは一旦家に戻ってシャワーを浴びてメイクしないとあの店には入れないわ。こんなんで彼の前でくじ引きなんて出来る訳ないじゃない?
※
急いで部屋に戻ってシャワーを浴び、髪を乾かしてメイクをする。勿論サラサラヘアにナチュラルメイク!
服装もあんまり張り切り過ぎない様に、テーマは『休日のキレイなお姉さん』ヨシッ、バッチリ!!
あー、こんなにドキドキしながら支度するのなんて蓮さまのイベント以来だわ! って何私、コンビニ行くだけでしょ?
鏡に映る自分の顔がニヤけている。目を閉じると脳内でさっきの彼の声が再生されて更に口角が上がった。
これって……、もしかして一目惚れ? じゃなくてひと聞き惚れってヤツなのかしら?
蓮さまゴメンなさいっ! でもっ、でもっ!!
早くまたあの声が聞きたい!
スターになってしまった遠くの存在より、隣のコンビニで働く美声に心が奪われてしまった。
うっ、浮気じゃないの! ……あぁ蓮さま本当にゴメンなさいっ。
私は少し熱った顔で、はやる気持ちを抑えながら全身が映る鏡で何度もチェックをしてから部屋を出た。
エントランスを出て敷地内に足を踏み入れた途端にまたあの声が聞こえて来た!
「ざんね〜ん! はい、ポケットティッシュです、明日もやってるから宜しくね♪」
笑顔で女子高生らしき女の子の手を包み込む様にティッシュを手渡してるっ!! もうコレ、ハズレないやん!!
最早店内より店頭の方が混雑しているわ! しかも八割は女性客だしっ?
あぁ、ドキドキが止まらない!
爽やかな笑顔の彼を横目で見ながら小走りで店内へ、先ずはざっと店内を徘徊し、五百円以上のお弁当を買って……って!!
無理ーっ!! 『休日の綺麗なお姉さん』はコンビニ弁当なんて買わないわっ!
『ふーん、この女料理しないんだ』なんて思われちゃう! どっ、どーしよ?
せっかく隣にコンビニが出来たのに気軽に入れないしお弁当も買えないなんて……。
私は泣く泣くちょっと高めのアイスとハイボール用の炭酸水をカゴに入れレジに並んだ。
三台あるレジはフル稼働で両側の二人は慣れない手つきの外国人の女の子、真ん中は高速で客を捌くギャルと言うなんとも不思議な光景だった。
「はぁ〜い、次のお客様こちらにど〜ぞ〜!」
手を上げるギャルの元に向かいスマホで精算を済ませる。ふと胸元のネームプレートに目をやると、ひらがなで『ふくてんちょー』と書いてあったので彼女がこの店の副店長なのだろう。
そんなギャル副店長は、困っている両脇の外国人の女の子に的確な指示を出しながら笑顔でトラブルを未然に防いでいる。おかげでお客さんは並んでは居るが文句は聞こえて来ない。見た目で判断しちゃ駄目ね、流石副店長!
さて、ここからがメインイベント!
こちらも相変わらずの美声と爽やかな笑顔で女性客のハートをガッチリと鷲掴みしている。
私は最後尾に並んで彼の声を心ゆくまで堪能した。
あー、この店に来てからずっと心臓がバクバク言ってるわ!
……てかこの人一体何者? 私と同い年か下位よね? 彼のボイスCDが出たら間違いなく買うわ! …………ってこの人一般人だからっ!!
※
ついに私の順番がやって来た!
……ってコレ、お渡し会となんら変わらないんですけど?
恥ずかしくて顔が見れない! 目線を逸らしふとネームプレートを見ると『成田』と書かれていた。ふーん、成田くんって言うんだ♪
「はぁ〜い、お買い上げありがとうございます! それじゃお姉さん、グルッと回しちゃって下さいっ♪」
こんな至近距離で声が聞けるなんて! しまった! スマホで録音すれば良かった!
そんな事を考えてるなんてバレないように、すまし顔でレバーを回した。ぐるんっ!
コロンッ♪
出て来たのは、……なんと金色!!
「大当たりぃ〜!! 特賞です! やりましたねお姉さん!!」
大きなベルをカランカランと鳴らして成田くんは興奮した様子で私の両手を握って来た! キャーーー!!
何? 何? 大当たりは両手で握手って事?
それならツーショット写真に直筆サインも欲しいんですけどーっ!?
みんなの注目が集まる中、手渡されたのは温泉旅行ペア宿泊券……。
「おめでとうございまーす! はぁーい、みんな拍手ぅー♪」
パチパチパチパチ……
ちょっと成田くんっ、ずっと私の両手を握ったままよ!
周りの女性客の冷たい視線が背中に刺さる。うっっ
…………ってこんなの貰っても誰と行けばいいのよーっ!?




