番外編 カトゥイーヤとゴルフレッスン
お久しぶりです。
お陰様でランキング上位に入ることができました。
感謝を込めて、御礼SSを一話アップしました。
たくさんの感想ありがとうございました。
返信はしていませんが、参考にさせていただいています。
たくさんの誤字脱字報告、ありがとうございました。
それではお楽しみください。
「えいっ!」
パコーンと音を立てて大空に飛んでいくボール。
「トゥイー、ナイスショット!フェアウェイの真ん中に落ちたよ。」
「旦那様の教え方が上手だからですわ。」
王都より東に位置するフォンディーン公爵領。自然豊かな公爵領で和気あいあいとゴルフを楽しんでいるのは、ご存知フォンディーン公爵夫妻のケルテスとカトゥイーヤ。
最近王都ではゴルフが大流行。もちろん情報提供したのはボウ先生だが、きっかけはカトゥイーヤだった。
ー ぱっか~ん ー
今日も今日とて薪割りに勤しむトゥイー。既にルーティンとなっている。そこに忍び寄る小さな影。カトゥイーヤが斧を振りかぶったまさにその時、
「か~たま、ちゅかまえたぁ♡」
(訳:母様、捕まえた♡)
「きゃあぁぁぁ~!」
末娘のツァルがカトゥイーヤの腰に抱きついて来たのだ。悲鳴を上げながらも斧は離さなかったカトゥイーヤ。侍女たちが慌ててツァルをカトゥイーヤから引き離す。
「奥様、大丈夫ですか?!ほんの少し目を離した隙に申し訳ございませんっ!」
「大丈夫よ。ちょっとビックリしただけだから。ツァル、母様が薪割りしている時は危ないから近づいたらダメって言ったでしょう?」
「やぁ~だぁ!か~たま、だっこぉ!」
ジタバタと暴れるツァル。
「アラアラ、大変。2歳児ギャング真っ盛りねぇ。」
「2歳児ギャング?」
「2、3歳の頃に起こる反抗期ヨ。自我が芽生え始めている証拠♡いい事なんだケド、大人の考えの斜め上をいく突拍子もない行動をとる子もいるから注意が必要ネ。」
「ティルはそんなことなかったのだけど?」
「そりゃ個人差があるワよ?」
たまたま遊びに来ていたボウ先生が説明に納得するカトゥイーヤ。比較的大人しかったティルと違ってツァルは元気いっぱいだ。
「ツァルが起きている時は薪割りはしない方がいいかもね。二人が怪我をしないか心配だし。」
ボウ先生の後ろからヒョイと顔を出したケルテスにもダメ出しされてしまった…。
「そうですね…。いい運動になるんだけど、ツァルの安全の為ですもの。仕方がないですね…。」
「別の運動をすればいいじゃナイ。ゴルフなんてどう?フォンディーン公爵領は自然豊かなんだから、ゴルフコース作りたい放題ヨ?」
「ゴルフ?初めて聞きました。どんなものですか?」
好奇心旺盛なカトゥイーヤの瞳がキラキラと輝きだした。
「ゴルフっていうのはネ、クラブっていう棒状の道具を使って足元に置いたボールを打って、遠くにある小さな穴に入れるスポーツなの。いかに少ない打数で入れることができるかを競うのヨ。」
「それは女性の私でもできるものなのですか、ボウ先生?」
「もっちろん♡男女共に楽しめるワよ。そ・れ・に、クラブをスイングする時のひねり運動は、ウエストに効くわヨ~♡」
「え”?」(←居合わせた女性陣全員の声)
こうして妻大好き人間のケルテスがスポンサーとなり、前世はゴルフ部に所属していたゴルフ大好き人間のボウ先生指導の基にゴルフの道具や練習場(打ちっ放し)が作られた。
異世界地球でもイギリス発祥の紳士のスポーツとして人気を博したゴルフは、このマーキュリー王国だけでなく、他国でも瞬く間に流行した。接待ゴルフというワードがこの世界にも根付いた瞬間でもあった。
自領にゴルフコースを持つのが貴族のステイタスとなり、皆こぞってゴルフコース作りに精を出す。狭い領や場所がない貴族などは、せめてもと、パターゴルフ場を作っていた。
ケルテスも金に糸目を付けず、自領にゴルフコースを設置した。王都の邸の庭にも打ちっ放し(四方ネットで囲んだツァル対策済のやつ)やパター練習用グリーンを設置。
自然豊かなフォンディーン公爵領の地を生かした1~18番のゴルフコースは王国でも最高難易度のコースとして知れ渡り、年に一度開かれるゴルフ大会「フォンディーン杯」にエントリーできる選手は、ゴルファーにとって最高の栄誉となるのであった。
第一回フォンディーン杯レディース部門で優勝したカトゥイーヤ。優勝杯と共に副賞として贈られた、白銀の装飾が美しい斧を高らかに掲げたのだった…。
(何故に斧…?)
↑参加者全員の心の声
※斧は優勝者がカトゥイーヤだった時の備えにケルテスが作らせました。カトゥイーヤ以外の者が優勝した場合には、副賞は白銀の装飾が美しいゴルフクラブ一式が贈られる予定でした。
【 後日談 】
ー ぱっか~ん ー
今日も今日とて快音を響かすカトゥイーヤ。愛用のファーストに加えてセカンドも手に入れてホクホクである。(斧のことです)
邸に作られた打ちっ放し(四方ネットで囲い済)の中に入れば薪割りし放題なのでは?と気が付き、薪割りを再開したカトゥイーヤ。
「あぁ、使い慣れたファーストもいいけど、このセカンドもなかなかの切れ味だわ。」
「そうだろう?硬度が高いのに重量は軽い最高のミスリルで作らせた逸品だからね。」
妻をうっとりと見つめながら、新しい薪割り用の木をセットしていくケルテス。相変わらずのバカップルである。
「前々から伺いたかったのですが…義母上は何故に斧を嗜むようになったのです?」
聞きたくて仕方がなかったことに意を決して質問したムーディー。
「えっ?斧ですか?実は私の実家、超ど貧乏な男爵家だったんです。使用人も満足に雇えないぐらいだったの。だから身の回りのことは自分でしていたし、身の回り以外のことだってしていたのよ。薪割りもその一つなんですよ。」
「それは何というか…。しかし、夫人の斧捌きはとても無駄がなく美しい。誰か師事する方がいらっしゃったとか?」
「師事というか…薪割りをしていたら通りすがりの男性が斧の使い方を教えて下さったのです。畑を荒らすイノット※の効率的な仕留め方も教えて下さったわ。おかげで貴重なたんぱく源をタダで手に入れることができて食卓が潤って助かっちゃった。今にして思えば、あの方は冒険者だったのかも?背中に大きな斧をしょっていたから。」
むふんっと誇らしげなカトゥイーヤ。なるほど、逆境に腐らず前向きに行動したことが今の義母上に繋がっているのか…。
納得したムーディーが後日カトゥイーヤから聞いた特徴を基に何気なくその男のことを調べた結果、引退した元S級冒険者「戦斧のアパランジ」だったことが判明。
今は地方冒険者ギルドのマスターとなっているアパランジはカトゥイーヤのことを覚えていた。
「いや~、貴族の嬢ちゃんが家族のためにって薪割ってんだぜ?そりゃ助けたくもなるだろうが?筋は良かったぜ。俺がちょっと教えただけですぐにコツを掴んでいたからなぁ。イノットもさっくり駆除してよぉ。貴族の嬢ちゃんでなかったら俺の弟子にしたいくらいだったわ。わっはっはっ。」
二つ名を持つアパランジ殿にここまで言わせるなんて…すごいな義母上。帰ったら妻に教えてやろう。妻は義母上が大好きだからな~きっと喜ぶだろうな~と思うムーディーであった。こっちもこっちでバカップル。
※イノット
異世界地球でいうイノシシの小型版で、大きさはウサギぐらい。
見た目イノシシなのにピョンピョン跳ねる絵面は面白いけど、畑を荒らす害獣なので見つけたらとっとと駆除しようね。着地する直前に蹴っ飛ばしてひっくり返せば、起き上がれなくてジタバタするので、そこをぶん殴れば簡単に仕留めることができるよ。
蹴っ飛ばした時の音は、某ゲームで有名なつなぎ服着たおひげのキャラクターが亀蹴っ飛ばした時と同じ音がするんだよっ。
イノットはタンパク質豊富で肉質は鶏肉に似てて美味しいの。ネギと一緒に串に刺した「焼きイノット」は、王都でチェーン展開している居酒屋「鳥鳥貴族」の人気メニューだよっ。
(ティルの鑑定『賢者の目』より)
ティル「だから、余計な情報が多いんだよ…。」
ー おまけ ー
こうしてこの世界にも根付いたゴルフでしたが、意外な使い方にも発展したようです。
騎士1「ムーディー様!ワイバーンの群れを確認しましたっ!距離にして900ですっ!」
ムーディー「よしっ、総員配置について迎撃準備に入れ!」
「おおっ!」と勇ましい声とともに騎士たちが次々とマイドライバ(1番ウッド)ーを取り出す。
ムーディーもマイドライバ(1番ウッド)ーを取り出し、ボールをセットすると手本とばかりにドライバーショットをぶっ放した。ワイバーンとの距離はまだ700ほどあったのだが、ボールは先頭を飛んでいたワイバーンの羽をぶち抜いて爆ぜた。
落ちていくワイバーンに騎士たちが歓声をあげる。仲間がやられて怒りに燃えるワイバーンがこちらに向かってくる。距離にして500をきった時にムーディーが騎士たちに檄を飛ばした。
ムーディー「さぁ、日頃の鍛錬の成果を見せる時が来た!打って打って打ちまくれっ!」
「おおおおっっ!!」と勇ましい声とともに騎士たちが次々とドライバーショットをぶっ放す。
衝撃を受けて5秒後に爆ぜるように設計された魔法師団特製ゴルフボールは、次々とワイバーンにぶち当たって爆ぜていく。十数分後には、地上にワイバーンの山ができていた。
ドライバー部隊とは別に待機していた部隊が、まだ息のあるワイバーンにとどめを刺していく…。
弓矢や魔法もある程度距離が近づいてからでないと攻撃が出来なかったワイバーン。飛行能力が高いがゆえに上空に逃げられればお終いだったが、このドライバーショット攻撃でスムーズに討伐が出来るようになる。
因みにムーディーは、ドライバー(1番ウッド)での飛距離が1000以上の豪腕で、かつショットも正確な天才プレイヤー。第一回フォンディーン杯では、アルバトロスやイーグルを連発してぶっちぎりの優勝をかっさらうと共に、一回目にして殿堂入り(出禁とも言う)を果たした。
お読みいただきありがとうございました。




