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ドレスコードは基本です9

やっと気持ちが落ち着いたので、連載を再開します。


ラノベル視点に戻ります

ア・・ラン、殿下・・・。


ゆっくりと顔を上げたその人を、そう認識した瞬間、わたしの心臓はドクリと一際高い音をたてた。

手足が冷たくなり、じわじわとよくわからない感情が喉元までせりあがってくる。

どうして?

自分でもそんな自分の変化に驚いているのに、体はわたしの戸惑いなどお構いなしに、どこまでも反応する。


楽しそうにウィルフレイ殿下と話すアラン殿下。

ニシャリと悪戯っ子のように子供っぽく笑うアラン殿下。

隣に立っていた女性を丁寧にエスコートして、会場へと入っていくアラン殿下。


その一挙一動から目が離せない。

どうして?

わからない。


「・・・・い、聞いて・・のか?」


アラン殿下と個人的にお会いしたことはない。

ルーカス殿下にお願いされて、数回手紙のやり取りはしたけれど。

個人的に会ったり話したことはない、はずだ。

なのにその姿を見ていると、苦しくて、切なくて、泣きたいような気持ちになる。

この感情はなんなの?


「・・こち・・を見ろとい・・・」


わたしはアラン殿下に・・・。


ずきっと頭がひどく痛み、耳鳴りがなった。

ドクドクと心臓が早撃ちして、その体の変化についていけなくて、目の前が暗くなる。


その瞬間。


「ラナベル」


聞き慣れた女性の、聞いたことのない程硬い声が聞こえ、ハッと我に返った。

顔を上げれば、目の前に真っ青な顔をしてわたしの顔を覗き込んでいるウィルフレイ殿下と。

そして、いつの間に戻って来ていたのか。

綺麗に着飾ったデネブ様がいた。


「それ以上はやめろ、考えるだけ無意味だ。 もう『考えるな』」


『考えるな』。


デネブさまがそう呟いたのと同時に、頭の中を何かが横切った気がして。


次の瞬間には、ひどい頭痛も耳鳴りもおさまっていた。


・・・・・?


えっと?

わたしは今までなにを?

・・・・そう、確か入場しようと控室をでたら、アラン殿下がいらして。

そのアラン殿下が先に入場されたから、まだ少しだけ時間に余裕ができて・・・。


そこまで思って、ぼんやりと霞みがかかっていた頭がやっと正常に働き始めた。


そういえば、さきほどから何度もウィルフレイ殿下に声をかけられていた気がする。

何かに気を取られていて、結果無視するような形になってしまったけれど。


「ウィルフレイ殿下、申し訳あり・・・」

「お前のその耳は飾りものか、この無礼者が」


申し訳ありません、そういおうとして。

ぐいっ体を抱き込まれた。


ギュッウと、また力を入れて抱き込まれる。


「で、殿下?」


また衣装を汚してしまう。


慌てて離れようとして。


「暫くそのままいて差し上げてくれ。 とても心配されておられたから・・・」


ルーカス殿下のその言葉で、馬鹿なわたしはやっと気がついた。

わたしを抱きしめるウィルフレイ殿下の体が微かに震えている。

こんな大事な席で、大好きな殿下の声も届かないほどぼんやりとして・・・。

結果、こんなにウィルフレイ殿下に心配をかけている。


「殿下、申し訳ありません。 もう大丈夫です、殿下」


ウィルフレイ殿下に申し訳なくて。

わたしも、ギュウッと殿下に抱き着いた。






無事に戻ってこられたルーカス殿下と、美しく着飾ったデネブ様が無事に入場し。

そのあとに、わたしたちも続いて入場した。


パーティーはその後も、つつがなく進行している。


王族として挨拶をするためウィルフレイ殿下が離席しているので、美しく着飾った学友達が、クルクルと楽しげに踊っているのを、わたしは一人ぼんやりと眺めていた。

わたしとウィルフレイ殿下のファーストダンスもおわり、今はデネブ様とルーカス殿下が沢山の学友に混じって踊っている。

デネブ様のドレスは、少し青みがかった紫色(バイオレット)

ルーカス殿下が自ら用意したものだと聞いたから、もしかしたらご自分の目や髪の色を使われるのかと思っていたけれど。

どこにもルーカス殿下の色味が使われていないところを見ると、やはりルーカス殿下がデネブ様を、というのはわたしの間違いだったのかもしれない。


それにしても。


(デネブ様、とても楽しそう。 一体なにをお話しているのかしら?)


王族席に座っていたルーカス殿下が、わたしたちのファーストダンスが終わった途端、一直線にデネブ様をダンスに誘いに来たときには驚いたけれど。

デネブ様がその誘いを『無理だ! こんなピラピラな服をきて、あんなにクルクルと器用に踊れるわけないだろう。 足もこれでもかというほど踏むぞ』と即答で断ったのにも驚いた。

『お前が器用に踊ることなど最初からこれっぽっちも期待していないし、俺はお前に足を踏まれるほど愚鈍ではない』とばっさり切り捨てた後。

『いいから俺に任せておけ』と少しだけ笑った(といっても、口角が少し上がった程度だったけれど)ルーカス殿下は、格好よかった。

ツンデレすごい。

見ていてなんだかキュンとした。


そしてルーカス殿下は有言実行で。

ドレスに慣れていないデネブ様が、体勢を崩しそうになるたびに、うまく支えて差し上げているし、ステップを踏み間違えたデネブ様に足を踏まれそうになるたびに、すさかず避けている。

それも一見してそうだとわからないように、上手にリード、もしくはフォローしているところはさすがだな、と思う。


お節介かもしれないけれど、このまま二人が幸せな結末を迎えてくれればいいな、なんて思ってしまうけれど。


(そういえば、デネブ様はルーカス殿下のことをどう思っているのかしら?)


今更ながら、そんな疑問が浮かんだ。

ルーカス殿下は態度や言葉の端々に、もしかしたらデネブ様のことが、と思えるようなところがあったけれど。

そういえば、デネブ様がルーカス殿下をどう思っているのかは聞いたことがない。

明らかに他の誰よりも懐いているし、ルーカス殿下のことを『特別だ』といっていたれど。


もうすぐ曲が終わることだし、それとなく聞いてみましょう。

ふふ、まさかデネブ様と恋話出来る日がくるとは思わなかったわね。


そう思ったわたしだっただけれど。


まさか、恋話どころか、もっと凄い話を一緒にすることが出来る人間に、これから出会うなんて思いもしなかった。


「お初にお目にかかります」


ちょうどダンスが終わり。

曲と曲の間、ダンスを踊る人間の入れ替え、その雑多に紛れるようにかけられた声。

後ろからかけられたその可愛らしい声は、少し緊張したような声音だった。


そして。


「ラナベルさま? よければわたしと一時、『推し』と『魔女愛』について語り合いませんか?」


思いも寄らなかった言葉に、わたしは急いで後ろを振り返った。













デネブ様、とても楽しそう。 一体なにをお話しているのかしら?


ラナベルにはそう見えたようですが、実際はルーカスに物凄いダメ出しを食らってデネブはわりとご機嫌ななめだったりします。




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