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番外編 ドレスコードは基本です8

お兄ちゃん視点です

「お久しぶりです、兄上」


その言葉とともに、丁寧にさげられていた頭がゆっくりと上がっていく。

次第に見えていく、薄い金髪に縁取られた端正な顔。

まっすぐに俺を見据える青い瞳。


俺の記憶よりも随分と立派になっているが、間違いない。

アランだ。


認識した瞬間、ドクリと心臓が嫌な音を立て、手が震えた。


アランに直に会うのは婚約破棄騒動(あの時)以来だ。

情けなくも気を失ってしまった俺が目を覚ました時には、アランはもうバハムに帰った後だった。

一連の騒動をおさめるために、アランにどれほど辛い選択をさせてしまったのかを、ルーカスから聞いた俺は。

すぐに手紙で詳細を説明し、謝罪もしたが。

実際にはあれから会えていない。

何度謝ったところで、アランの大事なものはもう二度と戻らない。

謝罪など、俺の罪悪感を消すための、ただの自己満足でしかないことは重々承知しているが。

それでも直接顔を合わせて、きちんとした謝罪をしたくて。

何度もその機会をもうけようとしたが、結局アランの都合がつかなかった。

・・・もしかしたら、アランが俺に会いたくなかっただけなのかもしれないが。


それでもどうしても、兄として、男として。

最低なことをした自覚があったから。

そして俺のその最低な行動のせいで、アランがどれほどの犠牲を払ったのか、ちゃんと理解しているから。

異国の地でアランが学び終え、帰国した暁には、誠心誠意頭を下げるつもりでいた。


だが、帰国の予定はまだ一週間後のはず。

俺も国境沿いまで出迎えに行くつもりだったのに。

いつ帰国していたんだ?


俺の心の声が聞こえたかのように。


「三日前に、無事帰国いたしました」


ニコニコしながらアランが答える。


三日前?

そんなに前なのか?

俺は一切報告を受けていないが。

父上や母上は?

いや、あのお二人が知らないわけがない。

ちゃんと報告は受けていたのだろう。

ではルーカスは?

・・・もしかして・・・。


ニコニコと笑うアランの姿に、嫌な予感が頭を過ぎった。


「まさか、俺だけ・・・」


思わずでた言葉に。


「はい、ご存じなかったのは兄上だけですね」


しれっとした顔でアランが答える。


父上も王妃様も、そしてルーカス兄上も、みなご存知です。

昨日は一緒に夕食も食べましたから。

酔っ払った父上に朝まで愚痴られて大変でした、と。


とても爽やかにそう言って、アランはまたニッコリと微笑んだ。


四人(いや、アランの母上も合わせて5人か?)で一緒に晩餐?

俺は急ぎの執務がどうしても終わらなくて。

昨日の晩は、執務室で一人、軽食をつまんだだけなんだが?

なのに、他の家族はみんなで晩餐。

これは思いのほかショックが大きい。


「なぜ・・・」


なぜそんな。

やはり俺に怒っているのか?

顔も見たくないほど?

こんな男はもう兄とは、家族とは認められない、と?


「ただの嫌がらせです、兄上」


ニッコリと楽しそうにアランが笑う。


ただの、嫌がらせ・・・。

俺は弟にこれほどの嫌がらせを受けるほど嫌われて・・・。

いや、俺がしたことを思えば、それも当然で・・・。


ぐるぐると考え込んでいると。


「だから兄上」


俺を呼ぶ、アランの声質が変わった。

ひどく真剣さがました一段低い声に、何事かと顔を上げれば。

まっすぐに見つめてくる青い青い目とぶつかった。


「こんな陰湿で、幼稚な嫌がらせをする弟に、いつまでもあなたが罪悪感を持ち、謝罪を繰り返す必要など全くありません」

「・・・は?」

「全て僕が選んで、僕が望んだ結果です」


まっすぐに背筋を伸ばしたアランが、ちらっと俺の隣に立つラナベルを見て。

とても柔らかく穏やかに微笑んだ後、「そして・・・」と言葉は続く。


「そして僕は、その選択を、そしてこの未来を望んだことを。

後悔したことなど今まで一度たりともありません」


だからもう、謝らないでください、兄上。

僕はもう大丈夫ですから。

兄上ももうそんな風に、いつまでもご自分を責めないで。

もうご自分を許してあげてください、と。


まっすぐに俺の目を見たまま、アランが言う。

もう自分は大丈夫だから、俺こそもう許されるべきだ、と。

そう言ってくれる。


例えそのせいで、愛する人に永遠に忘れられたとしても。

そして永遠に自分の手の届かない人になってしまったとしても。

愛する人(ラナベル)が幸せなら、それでいい、と・・・。


アランの表情はとても晴れやかで。

まっすぐに俺を見つめるその青い瞳が、そしてラナベルを見て一瞬だけ見せたあの柔らかな笑みが。

先ほどの言葉がうそ偽りのない真実なのだと、雄弁に語っていた。


・・・後悔したことなど一度もない、か・・・。

・・・ああ、そうだったな。

誰よりもラナベルを大切にする、他のなによりも優先する、と。

そうお前は言っていたものな。


そのお前の覚悟を、男としての矜持を。

『俺のせいで』など思い上がり、踏みにじっていたのは俺の方か。


すまなかった、アラン・・・。


心から頭が下がる思いだが。

ここでそれを謝罪するのもなにか違う気がして。

ではなんと言葉をかければいいのかと考えあぐねているうちに。


「ウィルフレイ殿下、ご入場を・・・・え? ・・・アラン殿下?」


俺の入場を促しに来た案内役が、俺の前に立つアランに気がついて声を上げる。

反応から察するに、学園側もアランの参加は知らなかったようだな。

本当に『俺だけ』知らなかったわけじゃないらしい。

その事実にホッと安堵の息が漏れる。そして同時に気がついた。


「えっと・・・アラン殿下も参加されるとは知らずに、大変失礼いたしました」

「いや、急遽参加を決めたからね。連絡が届かず、こちらこそ悪かったね」

「とんでもありません。では、アラン殿下、ご入場をお願いいたします」


そう、アランが参加するなら当然、俺やルーカスよりも先の入場になる。


「ルーカス兄上に、時間を稼ぐように頼まれていますので、しっかり役目を果たして参ります」


そうか、ルーカスにしては時間配分が甘かったなと思っていたが。

アランの入場が先である事を見越してのことだったのか。


案内役の誘導を受けて、アランは隣に立っていた女性を丁寧にエスコートし、一歩を踏み出した(というか、その女性はだれだ? どこかで会ったことがある気もするが)。

そのアランの背中に俺は気がつけば声をかけていた。


「アランっ」


くるりとこちらを振り返るアラン。

けれど呼びかけたもののなんと声をかけていいのかわからず。


「あ・・・こ、今度は俺も、その・・・一緒に晩餐に参加してもいいだろうか?」


等と、馬鹿な事を口走ってしまう。

なんと幼稚な発言を。

これでは俺が仲間外れにされたことを、根に持っているようではないか。

・・・実際、かなりショックだったが。


俺の馬鹿みたいな発言に虚をつかれたのか、アランはその綺麗な青い瞳をぱちぱちと何度もしばたかせた後。


「嫌です」


ニッコリととても爽やかに笑った。


・・・・・・・・。

断られた・・・。


がっくりと肩を落とす俺の前で、アランの口角がゆっくりと上がっていく。

それはとても無邪気な笑い方で。

・・・ああ、子供の頃のアランはとてもいたずら好きで。

いたずらが成功するたびに、よくああいう笑い方をしていたな。


「冗談ですよ。ルーカス兄上いわく、僕は酔うと管を巻いて絡むそうですが、それでも構いませんか?」

「・・・・っ! ああ、もちろんだ」

「ふふ・・・では兄上、楽しみにしています」


そう言ってアランはとても嬉しそうに、笑った。













そして後日、城の一室で兄弟三人で飲み(ルーカスは無理矢理付き合わせれてます)。


ウィルフレイ(絡み酒)、アラン(同じく絡み酒)に挟まれたルーカス(ザル)は大変な苦労をしたらしいです。

それでもぶつぶつと文句を言いながら朝まで付き合ってあげてます。

寝落ちした二人に、キレながらも毛布までかけてあげる苦労人。


ちなみに、ルーカスはザルで酒を飲んでもほとんど変わりませんが、ケモノ耳が生えているときだけ酒の回りがが早く、酔っ払います。

で、お酒で顔を真っ赤にしながらデレて(甘えて)くれます。


もう一つ余談ですが。

「お兄ちゃんに嫌がらせ(いたずら)仕掛けたいんだけどぉ」、とのアランの提案に(実際の言い方とは違います)。

「まじで? なにそれ、おもしろそう、やろうやろう(実際はもっと真面目ぶった言い方ですが、心の中はこんな感じ)」とお父ちゃん(国王様)はノリノリだったそうです。

仲間外れ晩餐も、実はお父ちゃんの発案です。

「あいつ、どんな顔するかな」とウキウキしていたそうです。

アランのいたずら好きは父ちゃん譲りですね。


読んでくださりありがとうございました。




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