21話 胡桃
私は背伸びをしながら天を仰ぐ
ま、フリだ
体育館に天を仰ぐ空など無い
クルリと向き直り、龍斗を見る
「オケ! じゃ、サヨナラだね♪」
「待て! ヤめろ! その前に一つ聞きたい!」
「一つ? 何? 一つだけだよ? 答えられるものならね」
「修が桜子を殺したのは俺だと言っていた……」
「あー、ごめんね! 濡れ衣着せて!」
「やはり、か……」
「そ! 私だよ!」
「ん…… 私…?」
「ん?」
「ウチ、じゃ無く、私? さっきも思ったが、自分を【私】と言ったのか?」
「あー…… それは、そーゆうキャラ設定みたい!」
「キャラ設定……」
「仕事しやすいとかなんとか?的な?」
「仕事……?」
「ったくウルセぇなぁ…… で、桜子? うん、そう、私だよ♪」
フフフッと笑いが溢れてしまう
「昇降口の戸を開かなくしたのは私♪ それさ、見られちゃったんだよね…… だからここに来る前に東棟北2階トイレで、ね♪」
言葉を続ける
「あ、も一つ疑問だったんだけど、さっき2階で【追えよ】ってアンタの声聞こえたけど、あれって、俺を、龍斗自身を追えって事だったんだね?」
「ああ……」
「そっか、他にも居るのかと慎重になっちゃった♪」
「………」
龍斗は私の開いた片目を睨むように見据えていた
「さて、ホントに終わりね! サヨナラ♪」
彼の顔が恐怖へと変わる
そして、手を大きく振った
「ま、待ってくれ! もう一つ! もう一つだけ! なぜ同じ力を持っているのに俺だけが…… こんなにもダメージが大きいんだ!?」
「一つって言ってたじゃん…… まあ、いっか…… ホントのラストだよ? サービスだからね? 言っとくケド、時間引き延ばしてもムダだよ?」
私は
ウィンクしていた左眼を開けた
ソコには
「双眼の…… ルビーアイ……」
龍斗が呟く
「そ♪ 効かないの! 君程度では、ね♪」
そして私は龍斗に手を、指を、向けた
「じゃあね、サヨナラ♪」
龍斗も口を開く
「お前にも…… ちゃんと言わせてくれ…… サヨナラ……」
今までと違い、妙に平静な表情で彼は言った
「ん、ありがと♪」
私は龍斗に眼を、視線を流す
彼に向けた手
その掌
スラリと伸びた白い指
親指と薬指の先を合わせる
ニコリと私は笑った
そして、彼に伝えた最期の言葉
「フフフッ…… 私がラスボスだったみたいね……♪」
パチン!
指を鳴らす音が響く
同時に、紅い海が、姿を見せた
今回の任務も終わった
いや、まだか、加藤を処分しなきゃね
トゥルル……
突然、携帯電話が鳴る
私はそれを手に取った
トゥルル……
2コールで切れる
そしてまた
トゥルル…… トゥルル…… トゥルル……
今度は3コールで切れる
間違い無い
合図の②③コール
彼だ
トゥ…… ピッ!
誰かは解ったから、私は直ぐ電話に出た
「もしもし?」
「終わったか? 胡桃……」
「終わったよ…… マスター……」
彼は呼んだ、私の事を胡桃と……
そう
それが私の名前だ
非通知で電話を掛けてきたマスターと呼ばれた男は
「そうか」
と静かに答える
「……うん…… ただ、この高校の裏山にラボがあるってさ? そしてそこに覚醒直前の加藤がいるらしいよ」
「わかった…… そちらは、こちらで処分する」
「お願いね…… それとマスターの力、記憶改ざんは頭の中グチャグチャになるからもう止めてくれない……? 私の中に居る【泉】の人格にも影響出るからさ……」
「……検討しよう」
「うん…… お願いね……」
一呼吸置いて私は続ける
「じゃ、一つ行くとこあるけど…… 間もなく帰るね……」
「じゃあね……」
「パパ……」
「ああ…… こんな時間に言うのも何だが、気を付けてな」
「うん……」
そう言い、電話を切った
もう帰ろう
踵を返し、体育館脇の非常扉に向かう
校舎本棟は火災の煙で充満しているだろう
体育館を出ようとした私は足を止める
そして振り向いた
私は今
どんな顔をしているのだろう?
そう、考える
いや、この感情自体が……
私の物なのだろうか?
いや、
ウチの物?
「修…… 貴方が…… 貴方の…… 正義感が強くなければ……」
「桜子…… 貴方が…… 勘の鈍い子だったら……」
「龍斗…… 貴方が…… その眼に覚醒してなければ……」
もっと、一緒に居られたのに……
その言葉は
口に出さなかった
龍斗……
「昨日の言葉…… 貴方が【ソレ】に成らなければ…… あるいは……」
その後の言葉も
言う資格など、無い
だから
これだけ口にした
「みんな、サヨナラ……」
そう言い、私は体育館の非常扉を開けた




