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第三話 冥途カフェ

あの世に行った泰三を待っていたのは……

 泰三が三途さんずの川を渡ると、フリフリのメイド服を着た、いかつい顔の赤鬼が待っていた。手に持っている金棒かなぼうも、これでもかというくらいデコッている。

「お帰りなさいませー、仏さま」

「え、何これ。ここはあの世だよね、アキバじゃないよね?」

「只今、あの世サービス向上月間のため、制服を変えて営業しておりまーす」

「に、してもだ。その服を着るには、あんた、顔も声もごっつすぎるだろう」

「だってー、鬼だもの」

「ちっとも可愛くないなあ」

 すると、赤鬼の態度が豹変した。

「なんだと、コラァ」

「あ、ゴメンなさい」

「いえいえ、こちらこそ思わず本性ほんしょうを出してしまい、大変失礼いたしましたー、うふっ」

 笑顔がよけいにコワい。

「ま、まあ、いいや。ところで、あんたが案内係なのかい?」

「さようでございますー、仏さまァン」

「うーん、この際だから、少々の違和感には目をつぶろう。で、これからどうすんの?」

「はい。本日は三つのコースをご用意しております。血の池コース、針の山コース、そして火炎林かえんりんコースでございまーす。どれをお選びになりますか?」

「ちょっと待てよ。それって、全部地獄じゃないか!」

「そのとおーりでございまーす、仏さま」

「なんでだよ。さんざん仏さま、仏さまって呼んでおいて、結局、おれは地獄行きなのかよ」

 赤鬼は、エプロンのポケットから小さなメモ帳のようなものを出して、パラパラとめくった。

「あなたは生前、小説を書きましたね?」

「書いたといっても、ショートショート程度だけどね。それが何か関係あるのか?」

「小説を書いた者は、すべてうそつきの罪で地獄行きです」

「ええっ、そんな馬鹿な!」

「あ、そうそう。芥川賞というものを取った方だけには、もれなく極楽行き蜘蛛くもの糸がプレゼントされますけど」

「そんなの不公平だ。責任者を出せ!」

「店長ですか。わかりました」

 赤鬼は奥の方に向かってダミ声で「エンマ店長、エンマ店長、クレーム対応お願いしやす」と呼びかけた。

 中から現れたのは、『閻魔えんま』という文字がプリントされた真っ赤なTシャツを着た、小太りのオヤジだった。

「どうした。なんかトラブッたのか?」

「いえ、この客がちょっとゴネてるんすけど、いっそここでシメましょうか?」

 本性むき出しでにらむ赤鬼に泰三はビビったが、エンマが止めた。

「まあまあ、今はサービス月間だ。手荒なマネはするなよ」

 エンマは、赤鬼が持っていたメモ帳より何倍も大きな手帳を出した。これが、いわゆる閻魔帳えんまちょうというものだろう。

「ふむふむ。ああ、こいつは微罪だから、処分保留で地上に強制送還の予定だ」

 地上に送還ということは、つまり、生き返るということである。

 泰三は思わず喜びの声を上げた。

「やったー、助かったぞ!」

 しかし、エンマは苦りきった表情で泰三をたしなめた。

「おいおい、あんまり喜ぶことじゃないぞ。今の時代、地上から来るヤツは悪人ばっかりで、地獄は定員オーバーになっている。かといって、そいつらを極楽に行かせるワケにもいかないから、仕方なく罪の軽いヤツは地上に戻しているんだ。人間どもは、やれ、医学が進歩したとか、やれ、平均寿命が延びたとか言って、無邪気むじゃきに喜んでいるがね」

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