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 目に入る誰もかれもが黒服というのは、異様な光景だった。

 しめやかな雰囲気の中、恙無く葬儀が執り行われる。化粧を施されたモモの首の皮膚は、一度完全に体から離れたとは思えぬほどなめらかで、列席者に無駄な期待を抱かせた。

「今にも起き上がりそうじゃない、ねぇ」

「本当になぁ、こんな早く死んでいいような奴じゃねぇよ、モモは」

 ナセは近くで交わされるそんな会話を内心はらはらしながら聞き、そっとホドの顔色を伺う。葬儀の日の朝、やっと部屋から出てきたホドは、ナセが作った朝食を残さず食べたが、何を話しかけても一言も喋らなかった。

 いつもはホドとモモがしてくれていた対外的な対応、挨拶や世間話などをするはめになったナセがぐったり疲れ切った頃、葬儀を取り仕切ってくれたカワが呼びに来た。

「これから納骨です。職員が骨を箱に納めますから、確認をお願いします」

 もうモモの体はないのか、とナセは思い、無性に虚しくなった。そのままにしておいたって意味がないことはわかっている。腐り落ちて蛆が湧くだけだ。しかし先ほどまで見ることができたモモが、モモだと認識できる程度の死体が、綺麗さっぱり焼かれて骨だけになってしまったのかと思うと言いようのない悲しさに襲われる。ホドはどんな気持ちなんだろうと横を見ると、近寄りがたいほど険しい表情でじっと立っていた。 

「ナセ、僕は骨を貰う。この気持ちを忘れたくないんだ。モモを殺した奴を、けして許さない」

 ホドは、すっかり変わってしまった暗い眼を睨むように虚空に向け、拳を握り締める。ホドの強い決意にナセは気圧された。

「影人はみんな同じ形だから、モモを殺したのがどれかはわかんないよ……?」

 言ってみるが、そういう意味ではないのだろうと予測はついていた。きっとあの隅の角で、ホドもナセと同じ結論に達したのだ。

「影人じゃない。あんなの、ただのでかくて強いだけの脳なしだ。本当の敵は隠れてる。僕達が戦うのは当然ってことにしてる奴が、絶対どこかにいるはずだ」

 ホドの全身から憎しみの炎が立ちのぼっているようだった。

 ホドの深い悲しみは怒りに転換されたのだ。ナセはそれを危うく、そして羨ましく思った。ホドはいつもはっきりしている。自分の立ち位置を把握して、目的に向かってまっすぐ進んでいく。なんとなく動くナセとは対照的だ。

 しかし、まっすぐ進むというのは、間違っていても気づかないということでもある。ナセはホドと目を合わせ、静かに言った。

「敵は神様かもしれない。敵わない相手だったらどうする? それにそもそも、俺たちが変だと思ってることは全然変じゃないのかも」

 違和感は無視できないほど大きくなっている。しかし、これが全て勘違いだという可能性も、なくはないのだ。ナセはホドが突っ走ってしまうことを心配していた。

 ホドはナセを見つめ返し、叫ぶ。

「間違ってても構わない、賛同者なんかなくていい、僕は僕が正しいと思う事をする。この腐った常識が世界の理だっていうなら、世界なんかクソ喰らえだ!」

 ホドの剣幕にぎょっとした列席者が数人こちらを見た。それに軽く頭を下げたあと、ナセは真剣な表情でホドを見つめ返した。

「わかった。俺は味方だよ、ホド。一緒にモモの仇を討とう」




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