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 葬儀が終わり、今までと変わらない日常が再開された。

 違うのはモモがいないということだけだ。ナセは音楽を聴いたり、植木に水をやったりと相変わらずの内向的な生活をし、ホドはチェスの駒を並べたり、町に出かけて情報収集をしたりして過ごした。

 納骨の時の勢いのわりに静かな暮らし方をしているホドに、ナセは尋ねた。

「ホド、これからどうするつもり?」

 ホドは微かに笑って言った。

「僕はね、待ってるんだ」

「何を?」

「……影人が出るのをさ」

 モモが死んでからも試験は行われていた。ナセは行かなかったが、ホドは行ったようだ。そしてホドは、知りたいことは試験の間にはないと判断した。

「試験の間はただの仕組みだよ。自動的に起動するんだろうね。奥まで探っても何も出てこないと思う。探るなら影人だ。ねぇナセ、不思議じゃない? 影人はどこから来てる? どこに帰ってくの?」

「……さぁ」

 そんなのは知る必要のないことだし、と思ったあと、ナセは項垂れた。これもか。ホドは体を乗り出して、ナセに言う。

「僕はそれが知りたい。僕たちが思い込んでる、『決まっていること』は敵にとって都合がいいことだ。反対に言えば、『決まっていること』に踏み込まれるのは都合が悪いんだ。そうだろ?」

 その通りなんだろうな、とナセは感心する。ホドは頭がいい。異常に気付いたもう一人がホドで良かった。自分だけだったら考え過ぎて疑心暗鬼になって、最終的に全部投げ出していたことだろう。

 影人が現れたのは、次の週だった。こころなしか最近出現ペースが上がっている気がする。二体出たが、今回は一人一体ではなく、二人でまず一体倒し、その後残りを倒す、というやり方にした。その方が危険度が下がる。

 攻撃役のモモがいないのはキツかった。ナセとホドでは決定力に欠ける。影人の振りまわす棍棒と拳に、何度もひやっとさせられた。自分が死ぬ可能性があることを知ってしまったナセは今までのようにギリギリの動きができなくなり、機動力が落ちたが、ホドの動きはむしろ素早さを増していた。影人の間を飛び回り、二体とも自分に注意をひきつける。少しの隙を狙い、鋭い攻撃を浴びせた。

 ホドが前から、ナセが横から腹を刺すと、ずずん、と音を立てて影人は倒れ、地に伏した。そして少したつと、いつも通り起き上がり棍棒を掲げて歩き始める。

影人の歩く速度は速くないが、一歩が大きいのでホドは駆け足で追っていく。

俺もついて行った方がいいのかな、とナセが迷って破壊の痕著しい周囲に視線を巡らした時、ふと目に入るものがあった。

 門だ。

 今までその存在を意識したことはなかった。町をぐるりと囲む壁と同じく、その大きな門もナセにとっては開くはずのないものだった。

 開かないし、開ける必要もない。

 でも、とナセは思う。これも『決められたこと』なのかもしれない。

門は普通、開けるために作るものだ。ならば開くはずなのだ。この向こうには、何かがあるはず。『町』ではない何かが。

 門番はいない。誰もナセを止めることはない。好奇心と期待と、ほんの少しの恐怖をもって、ナセは門の扉を押し開けた。鍵はかかっておらず、ギイィと軋んだ音を立てながら扉は動く。

― ―荒れ地?

 赤茶けた地面がどこまでも広がっている。木や花の類は見当たらず、一掴みの草さえ生えていない。雄大な、けれど寂しげな、不毛の地だった。

 これでは進めない、せめて準備をしてからでないと、とナセは諦めて踵を返す。

 しかし、そこには先ほど通ってきた門はなかった。周りと同じように荒涼とした大地が見えるばかりだ。

「なんで……!」

 思わず叫ぶが、何も変わらない。

 混乱状態でふらふらとその場を回る。確かに数歩先にあったはずの門が、綺麗さっぱりなくなっていた。




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