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ナセは寝室に入った。
ホドは三つ並べられたベッドのどこにも入らず、隅の角で膝を抱えて座っている。
灯りをつけない部屋の中はひどく暗い。しかしナセは、ホドの気持ちがわかった。暗い方が落ち着くのだ。灯りなど、全てが見えてしまう光などいらない。モモがいないこの世界を見ていたくない。
「モモはどうなったんだろう、ナセ」
ホドは泣きはらし腫れた目元にそぐわぬ、冷静な口調で問いかけた。
「ちょっと前からナセは様子が変で、昨日は訳のわからないことを言って、僕とモモを困らせてたよね。僕はナセが変になっちゃったんだと思って、心配だった。でも本当は違う。……多分ね。変なのは僕とモモの方だったんだ。そうでしょ?」
ナセは肯定も否定もできず、目を伏せる。どちらが正しいかなんて自分にはわからない。絶対に自分が正しいなどと言える自信は、ナセにはなかった。
返事を待たず、ホドは「ごめんね」と続ける。
「もっとちゃんと聞いておけばよかった。ちゃんと考えてれば……そうしたらモモは死なないですんだかもしれない。僕たちは何の根拠もなく思ってたんだ、この生活は永遠に続くって。途切れることなく、いつまでも繰り返す。どんなに危険な試験でも、恐ろしい敵でも、死ぬなんて……そんなこと、考えたこともなかった。どうしてだろう。僕は、僕は自分がもっと頭のいい奴だと思ってたよ。どうして少しも考えないでいられたんだ? あんなに簡単に死ぬのに。あんなに……」
後半はほとんど独り言のような呟きになり、ホドは俯く。
いつも冷静で冷めたことを言うホドがこんなに落ち込んでいる姿は見たことがない。ナセは慰めようと口を開いたが、何もかける言葉が見つからなかった。今まで常識だと思っていたことが、悪夢のような現実によって覆される。ナセもまた、その絶望を味わっていた。自分すら助けられないのにホドを救うことなどできない。
「……ナセ。僕は」
頭を両膝の間に埋めながら、ホドはかすれた声で言った。
「まだ、そのうちモモがひょいって自分の頭を拾って生き返るんじゃないかって、信じてるんだよ」
ナセは目を閉じ、ホドを抱きしめた。
縋りつくように、お互いの肩に額を寄せた。




